工系3学院部局間交流協定校・大学間交流協定校との交流 ミュンヘン工科大学 2019年11月~12月
留学時の学年: |
修士課程2年 |
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東工大での所属: |
環境・社会理工学院 |
留学先国: |
ドイツ連邦共和国 |
留学先大学: |
ミュンヘン工科大学 |
留学期間: |
2019年11月~12月 |
プログラム名: |
ミュンヘン工科大学の概要
1868年にバイエルン王のルートヴィヒ2世によって創立され.その後1970年より現在の名称となっている.これまでのノーベル賞受賞者は17人であり,ドイツではトップクラス(理系だけならトップ)の大学である.ドイツの名門工科大学9校のうちの筆頭と言われ,国の研究費が優先的に配分されている.近年では世界ランキングも常にトップ100位内である.地元の人からはトゥム(TUM)という愛称で呼ばれる.学部・大学院を合わせると25000人以上の学生が所属している.ドイツであるため,授業料は基本的に無料である.
キャンパスは,ミュンヘン市内の中心にあるメインキャンパスと,中心からは少し外れるガーヒンキャンパスがある.メインキャンパスは,ミュンヘン中央駅から地下鉄で3分程度であり非常に交通の便もよく,マリエン広場などの観光地も比較的近くにある.建築系の中でも構造系の学科や環境都市工学科,経営学科などはこちらに所属している.ガーヒンキャンパスはミュンヘン中央駅から電車で15分程度の少し郊外に位置している.学舎内にすべり台があることで有名である.物理学科,機械工学科,数学化などはこちらに所属している.
留学準備など
東工大の所属研究室の教授が今年退官することと留学時期がM2の冬だったこともり,修士論文は通常通り終らせる必要があったため,留学に行く前に残りは修士論文を執筆のみという状況にして留学した.そのため,留学先で修士論文に関する心配をする必要はなく,TUMでの研究に集中できた.もともと,外国の博士課程の進学を考えていたこともり,修論発表は通常通りに行い,卒業は半年延期し9月卒業する予定だったため,帰国後に進路を考えること,または就活でも十分間に合うため,進路に関する心配も少なかった.
留学先大学の指導教員は,東工大の所属研究室の教授が学会で数度会っていたこともあり,そこで相手の研究分野を知った.昨年の夏にヨーロッパで国際学会があり,その帰りに一度今回所属したミュンヘン工科大学の研究室に訪問し,現在の研究内容に関して少しだけ話す機会をいただいており,一度面識はあった.
ビザに関しては,ドイツは3ヶ月以内ならばビザの取得の必要はなかった.ただし,シュンゲン協定(180日間で90日以内)を注意しないといけない.
所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題
修士論文では建築物の空力特性に関して研究していたが,ミュンヘンではその建築物が変形する場合の相互作用と,より高度な不確定性手法に関することを勉強した.また,東工大ですでに終えている研究のデータを使ってさらに定量的評価手法に関してもを学んだ.
流体構造連成解析
日本でも建築物に関する流体解析をしてきたが,これまでは建築物が完全に剛体であり,構造物の流体の相互作用に関しては議論してこなかった.今回所属するミュンヘン工科大学の研究室では流体構造連成解析が可能なオープンソースコードKratos Multiphysiscsを開発している研究室であるため,それを用いて流体構造連成解析の使い方を学んだ.帰国後または,進学後使い続ける可能性がある.まず,コードのValidationのために,通常の円柱の流体解析を行なった.図1に可視化の結果を示している.レイノルズ数が低い状態での計算であるものの十分正しい現象を再現しているものと判断できる.次に流体構造連成解析を行なった.
流体解析と同じ条件で,円柱のみの構造特性を変えることで解析を行なう予定だったが,円柱の空力不安定振動という現象が起こらないため,あえて円柱後方にリブをつけることで非対称を与えて振動が起きやすくした.図2に流体構造連成の可視化結果を示している.これより,流体構造連成解析が成功していることが分かる.他にもやる研究があるため,Kratos Multiphysicsを用いた流体構造連成解析はここで一旦やめて次の研究に移動した.
不確実性定量化手法に関する勉強(ドクターの学生と)
近年,CFDが建築物の耐風設計の実務に用いられることが期待され始めているが,その際にCFDが風洞実験と同等の精度を有していることが重要となっている.そこで,近年は不確実性の定量化に関する分野の研究が盛んに行われており,これはCFDの精度を検証する手法として適切であるため,ミュンヘン工科大学のドクターの学生と一緒に輪講のような形で勉強した.具体的には複数精度多項式カオスという手法に関して勉強した.これは,精度は高いが計算コストの高い解析と精度は低いが計算コストの安い解析を合わせ,互いに補完し合うことで,全て精度の高くコストの高い計算を用い不確実性の定量化を実施した場合と同等の結果を得られる手法である.これまでは修論において単精度多項式カオスを用いてきたが,精度の高い計算のみを用いてきたため,計算コスト・時間が非常に大きく大変だった.将来的には複数精度多項式カオスを用いることも考えたい.ただし,複数精度多項式カオスに関しては,手法について勉強したものの,これを何か適用はしていない.将来的には使う予定である.
建築物の空力特性の格子依存性と定量的評価
これは,東工大で実施していた研究のデータを使用して,留学先でより定量的にその精度を評価するため研究である.留学前にはすでにCFDの耐風設計の導入への精度検証を行っていたが,定量的に評価することが難しかったため,留学先のドクターの人たちに様々な定量的評価指標を教えていただき,精度検証を行った.
図3に高層建築物の測定点480点の最小ピーク風圧の相関と,最大・最小ピーク風圧係数,平均風圧係数,変動風圧係数のHit Ratio(HR)を示している.HRにおいて最大ピーク風圧係数の精度が低いことが分かるが,これは絶対値が非常に小さい領域において誤差が20%を超えているため,HRが低い値を示している.
表1に精度評価指標FAC1.3とFAC2.0を示している.全ての指標において非常に精度が高いことが分かる.ただし,HRと同様の理由で,最大ピーク風圧係数に関しては精度が低い.
表2に,HRで誤差20%を超えた測定点の数を方向別に分けて数えたものである.明らかに風上面において,全格子数で多くの測定点が誤差20%を超えている.また,低層部においても多くの点が誤差20%を超えている.図4にそれぞれの格子数においての風力の時刻歴のサンプルからの確率密度関数を示しているが,格子数による精度の変化に特定の傾向は見られない.
所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行った事)
ミュンヘンは電車・地下鉄・路面電車・バスが非常に発達しており,さらにこれらが非常に分かりやすい構造をしているため,移動手段に関しては困ることはなかった.1か月定期券を買えば,月に7000円ほどで市内の全ての公共交通が乗り放題なので買う事をお勧めする.ミュンヘン市内にもマリエン広場,オリンピック記念公園,ノシュタンバイン上,ダッハウ収容所,ベンツ本社,ドイツ科学博物館などの観光できる場所が非常にあり休日は退屈しなかった.また,バイエルンチケットを購入すると,ミュンヘンだけではなくバイエルン州の電車が乗り放題になり,さらにウィーンのザルツブルグにも行けるため,モーツアルトが生まれた場所などの観光地にも行った.ミュンヘン空港が中央駅から電車で40分程度と近く,ドイツがヨーロッパの中心にあるため,LCCを使えば非常に安い値段でいろんな国に行ける,一度パリの友人にも会いに行った.時期的にもクリスマスだったため,11月の最終週からはクリスマスマーケットが各地の広場で開催され始めた.ただし,日曜日は中央駅などの飲食店以外の飲食店は営業していないので注意が必要である.
留学先での住居(寮、ホームステイ等)、探し方、申し込み方法、ルームメイトなど
ドイツの都市であるミュンヘンやベルリンなどは近年,学生の増加によって住宅不足に陥っており,宿舎を探すのは非常に困難であると言われている.また,それが外国人にもなると非常に難しいと言われているため,できるならば学生寮をかなり早い段階から予約する必要ある.宿舎は最初の一ヶ月がホームステイのような間借りと,後半一ヶ月はホテルに宿泊した.ドイツには不動産というものはないため,自分で家を探す場合は「WG-GESUCHT」などのインターネットで掲載されている家の大屋に直接連絡する必要がある.ただし,通常は連絡をとったあとに会って面接をしようと言われることが多く,実質的に日本にいながらドイツの家さがしは非常に厳しい.私は,たまたま「ドイツ,ミュンヘン掲示板」という日本人が入居者を探しているサイトで,たまたま空いている部屋を見つけ1ヶ月700€で借りることができた.ドイツに到着後自分で来月のホテルを探した.ただし,9月のオクトーバーフェスト付近ではホテル代も通常の5倍や10倍になるので注意が必要.それもあって私は,留学期間を遅らせる必要があった.ホステルハウス・インターナショナルというホテルが,ミュンヘン市内の一人部屋の中では一番安く,部屋もきれいで朝ごはんも豪華なのでお勧めする.早めに予約ができれば一ヶ月700€程度で泊まれると思われる.
たしか,東工大の学内の派遣交換留学の場合は,ミュンヘン工科大学が住居を確保していくれるので,そっちで採用されるように頑張ってください.私は,ただ単に工系3学院からの金額援助を受けただけなので,全部自分でやる必要があった.
留学費用(渡航費、生活費、住居費、保険料)
留学前に留学先の指導教員といろいろな行き違いもあり,飛行機のチケットを入手したのは出発1週間前だったが,往復10万円以内で入手できた.宿舎は毎月700€程度で,食費や生活費は物価も安いこともあり毎月5万円以内には収まると思われる.保険大は二か月で3万円程度だった.その他娯楽などの出費もある.まとめると次のような感じになる.
- 渡航費:往復10万円程度
- 宿舎代:700€(9万円)/月
- 生活費:5万円/月
- 娯楽費:3万円/月
今回の留学から得られたもの、感想、意見、要望
今回の留学は,今後の進路において非常に重要な位置づけの留学でした.進学先候補の中の一つであるミュンヘン工科大学で実際に研究活動ができたの,将来像を想像する意味でも非常に意義があったと思います.日本の研究室とは異なり,ドクターの学生は基本的には全ての研究を自分で進める必要があり,その大変さを目の当たりにしました.少なくとも留学先の研究室では,ゼミやセミナーなどはなく,全て自分でやることが求められます.修士の学生の研究は,ドクターの学生が面倒を見てくれますが,それでも自分で考えて多くのことをやらないといけません.日本と外国の研究スタイルの違いを肌で感じることができました.
後輩へのメッセージ
留学は行く前はいろいろ心配ですけど,実際行ってしまえばどうってことありません.少しでも興味があるなら行ってみるべきだと思います.意外と言語の壁は,上手くしゃべれなくても相手が意図をくみ取ってくれます.むしろ,喋れるよりも聞ける方が重要かと思うぐらいです.今,この学生のうちに留学するからこそ自由にできることもたくさんありますし,言い方は良くないかもしれないですが失敗しても大した責任に問われなかったりします.あんまり深く考えずに,とりあえず行ってみるかの感覚でもきっと大丈夫です.(もちろんしっかり準備した方が有意義なのは間違いないですが).ドイツは,物価も安く,金銭的な心配も少ないのでお勧めです.
その他*任意(留学先で困ったこと/帰国後の進路(就職・進学・長期留学))
ドイツの大学に留学で行く際は,留学先の大学での事務手続きはほとんどありません.(寮の場合の手続きは必要ですが).そのため,相手先の教授が留学の許可をくれた場合は,とくに手続きなどなくてふつうに行くだけいいので,ある意味では楽かもしれません.ただ,最近はドイツの入国の検査などが厳しくなっているので,1ヶ月以上の滞在などは,ドイツでなにをするのかなどをかなり厳しく聞かれます.ですので,必要ではなくでも,とりあえずInvitation Letterだけは作ってもらうべきだと思います.
あと,私はiphone6を使っていたのですが,iphone6以前の機種はSIM解除ができないと,ドイツについてから知りました.ですので,2ヶ月間wifi環境でしかスマホを利用できませんでした.ただ,意外とこの状況でもどうにかなったりします.いざというときは,キャリアで契約しているなら「世界データ定額」などだけで十分だったりします.ただ,それでもやっぱりSIMカードの方が安いですが...とりあえずよく調べていきましょう.
ちなみに,ドイツの町中での年配の人たちやお店の店員は英語がまったく喋れないので,多少のドイツ語を知っているといいかもしれません.ただ,私はドイツを全くなにも知らずに行きましたが,実際どうにかはなりました.