派遣交換留学 イスタンブール工科大学 2024年9月25日~2025年6月23日

派遣交換留学 イスタンブール工科大学 2024年9月25日~2025年6月23日

留学時の学年:
博士課程3年
所属:
環境・社会理工学院 建築学系 都市・環境学コース
留学先国:
トルコ共和国
留学先大学:
イスタンブール工科大学
留学期間:
2024年9月25日~2025年6月23日

留学先大学(機関)の概略

イスタンブール工科大学(İstanbul Teknik Üniversitesi/ İTÜ)は、ヨーロッパとアジアをまたぐトルコ共和国最大の都市イスタンブルに所在する、1773年に設立された歴史ある国立工科大学である。市内に計5つのキャンパス、38,636人の学生(2024年末時点)、13の学部を有する。

留学前の準備

私は博士課程に所属し、トルコ国内の建築遺構を対象とした研究を行っている。課程修了までの計画については、D3夏~D4夏に留学し、D4秋以降、査読論文の執筆と就職活動を行い、D5春から博士論文の執筆を始め、D5秋の修了を目指すこととした。留学先の選定については、自身の研究を進めることが留学の動機であったため、候補は必然的にトルコ国内の大学に絞られた。私のように研究活動を目的に留学する場合、まずは現地の受け入れ教員を探し、コンタクトをとる必要がある。幸運なことに、指導教員からイスタンブール工科大学の教授を紹介いただけたため、留学開始の一年前、2023年の9月に教授と連絡を取り、受け入れを承諾していただくことができた。以上のような経緯でトルコ国内の派遣交換留学の協定校のうち、İTÜを選択することになった。語学の準備については、2022年と2023年にトルコで短期の調査を行った経験から、都市部以外では英語がほとんど通じないことは分かっていたため、英語だけでなく、トルコ語の基礎的な文法や語彙の勉強もしておいた。

留学中の勉学・研究

私は研究留学であったため、留学中に単位を取得する必要はなかったのだが、秋学期に近代建築史に関する授業、春学期には美術史に関する授業と外国人向けのトルコ語の授業を履修した。特に近代建築史と美術史の授業は、自分の本来の専門とは異なる授業内容ながらも、最後に論文の提出が課されていたため、膨大な知識の習得と深い考察が求められた。大変ではあったが、これによってトルコの歴史を研究する上での新たな観点を獲得できたように思う。特に、美術史の授業で他の学生や教員とイズニックとブルサという都市を訪れ、二泊三日の調査旅行を行ったのは思い出深い経験だった。旅行中は、他のトルコ人学生や教員とかなり親睦を深めることができた。一方で研究活動に関しては、秋以降、トルコ各地での現地調査を中心に進めた。現地での生活が落ち着いた11月から2月にかけて、計三回、それぞれ10日から2週間程度の調査旅行を実施し、約20か所の遺構を訪れた。春以降は、滞在していた学生寮の近くに位置していた領事館内にあるドイツ考古学研究所の図書館を利用し、研究資料の蒐集を行った。図書館には、トルコ国内の遺跡の発掘調査報告書などが多数所蔵されており、私の研究にとって有益な資料を多数閲覧することができた。



留学中に行った勉学・研究以外の活動

İTÜにはESNという留学生を支援する大学公認の学生団体がある。彼らが定期的に留学生向けの親睦イベント(飲み会、食事会、小旅行、クイズ大会…)を開催してくれるため、留学開始当初はたまにイベントに参加し、他の留学生と交流する機会を持つようにしていた。ただ、正直なところイベントの当たり外れは大きく、まったく盛り上がらない飲み会に参加した時などは早々に帰宅したこともある。また、留学中は調査旅行で様々な場所を訪れた。観光地化されていない、辺鄙な場所にある遺跡を訪れる機会もあったが、そういった場所では現地の人々との密な交流を経験することができた。トルコ人はみな優しく、現地の人に調査中助けられた回数は数えきれない(そういった意味でも、トルコ語を勉強していて本当に良かったと思う)。もちろんトルコはヨーロッパ諸国とも近接しているため、留学期間終了後、日本帰国前にアテネ、ローマ、パリ、チェルトナム、オックスフォード、ロンドンを周る旅行もすることができた。

留学を終えて、自分自身の成長を実感したエピソード

語学面に関しては、英語を話すことへの心理的な抵抗がほとんどなくなり、流暢ではなくとも自信をもって話すことができるようになった。また、トルコ語も簡単な会話であればこなせるようになった。研究面に関しても、留学中、現地の学生や教員、そして調査中に出会った研究者たちとの交流を通じ、トルコ人の考え方(歴史観、政治観…)が日本人である自分とは大きく異なることを肌で感じることができ、留学前と比較して自分の研究の位置づけや意義を明確に説明できるようになったと感じる。

留学費用

イスタンブールへの渡航費については、片道13万円ほどであった。現地での生活費に関しては、他のヨーロッパ諸国に比べるとトルコでの留学は圧倒的に安上がりであると思う。例えば、私の滞在していた寮の場合は、寮費が月15000円ほどで、昼と夜に食堂で食べることができた食事は、一食当たり140円ほどであった。街中でも、十分に満腹になれる大きさのケバブサンドを400円程度で買うことができた。交通費もあまりかからない。メトロやバスは一般料金100円ちょっとで乗れ、学生カードを使えばさらにその半額で利用可能である。私は留学開始から3月まではJASSOの留学生向け奨学金を毎月受給していたが、3月には日本学術振興会の若手研究者海外挑戦プログラムに採択されたため、JASSOの受給を終了し、日本学術振興会から140万円を一括受給した。そのため、奨学金で十分に留学費用を賄うことができた。ただし、私がお世話になった若手研究者海外挑戦プログラムについては2025年3月をもってプログラム自体が終了している。

留学先での住居

İTÜの場合、留学生は寮に入ることができる。入寮に関して必要な手続きもほとんどなく、すべてİTÜの担当者がやってくれる。私はGümüşsuyu男子学生寮に滞在していた。立地はとてもよく、イスタンブールの新市街の中心であるタクシム駅まで、徒歩5分ほどの場所にあった。大学のHP上に掲載されている写真では、寮の建物が古くて薄暗く写っていたため、留学前は寮の環境にやや不安を感じていたが、実際には写真よりはるかに綺麗で快適な寮であった。寮の部屋はほとんどが三人部屋だが、私は幸運にも二人部屋に割り振られた。ルームメイトはトルコ人の学部1年生だったが、非常に礼儀正しい人間で、留学期間を通じて部屋でのトラブルは全くなかった。立地や寮費の安さ、設備を考えると、素晴らしい寮だったと思う。ただし、寮の各部屋の中にはルームメイトからの視界を遮るようなものが何一つなく、プライバシーが一切存在しない環境であることは付記しておく。また、寮に入ると、現地での滞在許可証(residence permit)の申請に必要な住所証明書類を寮側が準備してくれるというメリットもある。寮に入らずに自分で部屋を借りる場合は、大家さんと一緒に役所に行き、住所証明書類を自力で調達する必要が出てくるので、滞在許可証の申請が格段に煩雑になる。



留学先での語学状況

英語開講の授業もそれなりにあるため、トルコ語ができなくても十分に単位は取得できる。トルコ人の英語の発音ははっきりしているので、個人的には、クセにさえ慣れればリスニングが苦手な人でも比較的聞き取りやすく感じると思う。しかし、他の留学生から聞いた話では、シラバス上では英語開講と書いてあったにもかかわらず、実際にはトルコ語で授業が行われる、ということも少なくないらしい。また、生活するうえでは基本的なトルコ語はできたほうがいい。教員や学生、留学担当の大学職員は英語を話すことができるが、寮の職員や大学の事務の多くの人は英語が苦手、もしくはほぼしゃべることができない。街中でも、ヨーロッパほど英語が話せる人は多くないので、生活でよく使うトルコ語のフレーズや単語は知っておいたほうがよい。

単位認定(互換)、在学期間

派遣先で単位は取得したが、科学大の単位への読み替えは行わない。在学期間は延長することにした。

就職活動

留学先では就職活動は行わなかった。2026年秋に卒業し、27年の春に就職することを目指して、これから就職活動を行う。

留学を希望する後輩へアドバイス

留学先についたら、とにかく留学生の友人を作ることが大事だと思う。留学中は、やらなければいけない手続きがとても多いため、すべてを把握しきれていなかったり、うっかり忘れてしまったりすることがある。このようなことを防ぐためにも情報を共有できる留学生の友人やコミュニティをもつことがとても重要である。例えば、私は寮に滞在していたが、他の留学生から教えてもらわなければ、退寮する前日までに退寮手続きを行わなければいけないことを知り得なかっただろう。現に留学生の一人が、手続きが必要なことを知らずに退寮しようとして、寮の職員とトラブルになる事案があったらしい。