社会連携

東工大発ベンチャー 株式会社forEst「おせっかいな問題集 ATLS」

東工大発ベンチャー Vol.1 株式会社forEst

*画面は開発中のものです。

2012年5月に設立された株式会社forEstは、タブレット端末で使えるデジタル参考書を開発する東工大発ベンチャー。 代表取締役CEO 後藤匠氏は、大学院イノベーションマネジメント研究科の修士2年生(2014年8月取材当時)。 創業から共に事業に取り組んできたCTOの中村文明氏は、工学部情報工学科の卒業生だ。forEstが開発中のサービスについて、後藤氏に聞いた。

【 東工大発ベンチャーとは 】

東工大が認定したベンチャー企業に与えられる称号。東工大の技術や知財を活用して創業した企業、もしくは、学生が起こした企業*1に対して与えられる。 この称号の最も重要なメリットは、実績の浅いベンチャー企業の信用力を高める効果にある。実際、本称号の授与を契機に、取引先が拡大した事例は少なくない。 2014年8月の時点で、東工大発ベンチャー称号は総計71社に対して付与されており、そのうち、学生が創業した企業は28社にのぼる。

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在学中に加え、卒業または退学後1年以内に創業するケースが含まれる。また、学生の身分を失ってのち、起業までに他の職に就かなかった場合も該当する。

「おせっかいな問題集 ATLS」

マイクを持って話す後藤氏

インターネット通販サイトを利用していて、「おすすめの商品」が表示された経験はあるだろうか。 通販サイトは利用者全体の購買履歴や検索履歴を蓄積しており、ユーザーひとりひとりが興味を持ちそうな商品を自動的に選んでくれる。 forEstが提供するのは、高校生全体の学習データを蓄積し、高校生ひとりひとりに対して「あなたにおすすめの問題」を提案する「おせっかいな問題集 ATLS(アトラス)」だ。

ATLSはタブレット端末で使える問題集である。とは言っても、高校生はこれまでの自習のしかたを変える必要はない。 提供される問題集は、基本的に書籍でも出版されているものなので、高校生は先輩達が使っていた実績のある問題集をそのまま使い、紙とペンで問題を解き、答え合わせをするだけで良い。 ATLSは問題集を取り揃えて販売する書店と、自分の持っている問題集を並べる本棚の役割になる。

デジタル参考書部門賞賞状

ATLSの特徴は、学習の履歴を蓄積・分析してくれるところにある。たとえば、どの問題にいつ挑戦したか、問題ごとの正解・不正解、回答にかかった時間・・・といったデータが記録される。 ATLSはそれらをもとにして、ひとりひとりが苦手なジャンルを推測し、さらに復習するべきタイミングも分析する。そして手持ちの問題集の中から、まさに「今、あなたにおすすめの問題」を提案してくれるのだ。 利用者はこれを参考に自習することで、膨大な量の問題から解くべきものを考えたり、自習のスケジュールを組み立てたりする手間を軽減できる。 こうしたコンセプトが評価され、ATLSは第10回日本e-Learning大賞でデジタル参考書部門賞を受賞した。その後、forEstは2014年内のATLSサービス公開に向けて、開発を進めている。

勉強をもっと効率よく、もっと楽しく

Macの前で話す後藤氏

「自分が受験生のときに、こんなサービスがあったらいいのにな、と思っていたんです」と、後藤氏はATLSの出発点を振り返った。

「ICT(情報通信技術)は発達してきていたし、それを利用して勉強の効率を上げるツールが2~3年で出てくるだろうと思っていました。 ところが4年ほど経ってから調べてみると、まだ誰も着手していないらしい。そんな話を友人としていた時に『じゃあ自分達で作ってしまえ』ということになりました。 ICTを利用して勉強をもっと楽しく、効率的に進めていける道具、文化を作ってみようという気持ちから、ATLSの原型は生まれました」

実際にビジネス化に向けて行動を始めたのは、大学4年生の5月。ビジネスコンテストなどに出場する中で、「おせっかいな問題集」のコンセプトは周囲の同意を得ていき、後藤氏は自信を深めていった。 100を超えるプランナーが集まる学生ビジネスコンテスト「Trigger 2011」で、決勝の5組まで残ったことも起業の後押しとなった。 そして2012年5月、株式会社forEstがスタート。2013年7月には東工大発ベンチャーとして認定された。

話す後藤氏

「国内市場に対しては、ATLSをもっと楽しく勉強してもらうためのツールにしていきます。 勉強が楽しくないと感じてしまう理由のひとつは、今やっていることが自分の将来にどう役立つのかわかりづらいことだと思っています。たとえば、将来ロボット技師になりたい人。 ロボットアームの制御には数学の行列を使いますが、それをわかって行列の勉強をする高校生はなかなかいませんよね。 ATLSで『君が今勉強している知識は、こんなところで役に立っているよ!』という情報を発信して、新しい知識を得ることが楽しいと思ってもらえるサービスにしていきます。

そういう情報を、ひとりひとりの高校生に届けるために、まずは『これを使えば絶対に大学に合格できる』と言ってもらえるような、最高に便利な学習ツールを提供して、 多くの高校生に利用してもらうことで、情報を受け取ってもらえる基盤作りをしていきます。」

forEstの最終的なターゲット

社内の後藤氏

実は、後藤氏には意外な最終目標がある。ICTを使って、世界の貧困問題に取り組むことだ。

「初めに興味を持ったのは小学生のころです。ドキュメンタリー番組を見ていて、貧困のために勉強したくてもできない子どもがいることを知りました。 その頃の私自身はそれほど勉強したいと思っていなかったので、逆にこんなに学びたがっている人が学べないなんて、不思議な世の中だなと感じていました」

この問題に取り組むべく、高校生の頃は国際ボランティアのような活動も考えたという。 しかし真剣に調べていく中で、根本的に状況を変えるには社会システムを変えるしかないと思うようになった。

「貧困問題は、大きく分けて教育と雇用の問題と捉えています。教育は、人間が介在するとコストが高くなってしまうものです。 e-Learningを利用して、安価で品質の高い教育が可能になれば、今まで教育を受けられなかった人の労働力としての価値を高めることができます。 ATLSが集めるデータから、高校生に限らず、人間が効率よく学ぶにはどうすれば良いのかを分析して、教育の質を向上していきます。 同時にクラウドソーシング等によって、自国にいながら先進国の労働市場にアクセスできる環境を作っていくことで、雇用の改善にも取り組んでいくつもりです」

後藤氏は大学院イノベーションマネジメント研究科で、クラウドソーシングに関して学んでいる。大学院での学びが目標に活かされる日も遠くないかもしれない。
最後に、これから起業を目指す学生に向けて、自身の体験を交えてメッセージをくれた。

「自分の反省点も込めて言うと、やるならばとことんやるべきです。会社を始めた頃はうまくいかないことが多くて、もうやめて就職してしまおうかと考えたこともありました。 会社をやるか、就職するか、大学の研究もあるし・・・と思っていた時期は全く仕事が進まなかったですね。 そんなとき、知り合いのベンチャー企業の社長から『本当にやりきったのか、やりきらなければ何も残らないよ』と言われて、中途半端だったことを自省しました。 で、とにかく振り切ってやってみようと。就職活動をやめて、会社一筋に集中してみて、すごく気持ちがすっきりしたし、自信もついてきたと感じています。 それに、学生という身分はある意味恵まれていて、本当にやりきることができれば周りの人たちも支えてくれます。普通なら話もできないような人たちが自分のために貴重な時間を割いてくれます。 失敗したらどうしよう、何も残せなかったらどうしよう、という怖さはあると思います。それでも、やると決めたら予防線を張らずに、突き詰めてやってみることで違う世界が見えるかもしれません。」

社員と後藤氏

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2014年10月掲載

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東京工業大学 総務部 広報課

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