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地球・生命の起源と進化

東京工業大学インスパイアリング・レクチャー・シリーズ

インスパイアリング・レクチャー・シリーズ

東京工業大学は、大学で行われている最先端研究のダイナミズムを紹介する新しい講演会シリーズ "Tokyo Tech Inspiring Lecture Series"を開催しています。そのシリーズ第1回が2014年7月16日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館くらまえホールにて行われました。

第1回のテーマは、「地球・生命の起源と進化」です。地球生命研究所(Earth-Life Science Institute=ELSI)に集う4名の研究者が、地球と生命の起源と進化について、研究の最前線を紹介しました。

シリーズ第1回は地球生命研究所(ELSI)の研究者が登壇

地球生命研究所(ELSI)は、2012年10月に文部科学省「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され、同年12月に設立された研究拠点です。
ELSIの研究目的は、地球がどのようにして誕生し、形作られたのか、そして、初期の地球環境の下、どのような過程を経て生命が誕生し、進化を遂げてきたのかを解明することです。

ELSIには、世界中から地球惑星科学と生命科学の研究者が集い、共通の目的に向かって研究を進めています。また、ELSIでは、研究分野の融合によって生まれる新たな分野を「生命惑星学」と名付け、今後、その国際的な中心研究拠点として発展させていく計画です。

「人工細胞」で生命の起源の謎に迫る—ジャック・W・ショスタック氏

ジャック・W・ショスタック氏 【ジャック・W・ショスタック氏】 ハーバード大学メディカルスクール教授。ELSI主任研究者。2009年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のエリザベス・ブラックバーン教授、ジョンズ・ホプキンス大学のキャロル・グライダー教授と共にノーベル生理学・医学賞を受賞

ショスタック氏の専門は分子生物学です。染色体の末端にあり細胞の老化やガン化に関与する「テロメア」とそれを作る酵素「テロメラーゼ」の研究で、2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。現在は、研究の関心を「生命の起源」に移し、研究を続けています。独自の手法として、長年にわたり取り組んできたのが、「人工細胞」の作製です。

今回の講演では、人工細胞を通じて明らかになった最新の研究成果が紹介されました。

細胞生命の起源

原始細胞における細胞膜のモデル:脂肪鎖からできた膜小包

約40億年前、化学反応によって生じた化学物質が、ある特定の環境下で徐々に変化し、生命に至ったと考えられています。ショスタック氏は、地球初期の環境を再現し、その下で、当時存在していたであろう化学物質を使って、実際に人工細胞を作製し、地球生命の起源となる「原始細胞」の誕生と進化のメカニズムの解明を目指しています。

これまでの実験の結果分かったことは、初期の地球の環境下で、火山灰が浅い海に降り積もってできた粘土鉱物が触媒となり、リボ核酸(RNA)を構築することができること。
さらに、細胞膜の袋である「膜小胞」の形成を促し、膜小胞の中にRNAを閉じ込めることができるということです。

「地球環境の変動がRNAの遺伝情報の突然変異を生み出し、その中から有用な遺伝情報を持ったRNAだけが生き残り、現在のようなダーウィン的な進化が起こったのではないでしょうか。それこそがまさに、今後、私が研究室で再現し、この目で見てみたい究極の現象です」

今後5~10年以内に地球外生命体を見つけたい—ディミター・サセロフ氏

【ディミター・サセロフ氏】 【ディミター・サセロフ氏】 ハーバード大学生命起源イニシアチブ(ELSIサテライト)ディレクター

2人目の登壇者はディミター・サセロフ氏です。

サセロフ氏は天文学を専門とし、地球生命の起源を明らかにするには、地球以外の惑星に生命を見つけることが重要であると考え、太陽系外の惑星の探索を行っています。

今回の講演では、太陽系外の惑星において生命が存在し得る条件や生命探索の方法が紹介されました。

太陽系外の地球の仲間たちや生命を探して

2009年に米国航空宇宙局(NASA)が打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡の目的は、太陽系外に恒星と惑星がどれくらい存在しているかを知ること、そして、その中に、生命が存在し得る惑星がどれくらいあるかを観測することです。これは「ケプラーミッション」と呼ばれています。

約4年間にわたりケプラー宇宙望遠鏡が撮影した画像を解析した結果、天の川銀河だけでも、数億個もの太陽系外惑星が存在するだろうと見積もられています。これまでに発見された約4000個の惑星の中には、生命が存在し得る惑星が数多く含まれていたとのこと。自身も深く携わったケプラーミッションの最新の成果として、サセロフ氏が紹介したのが「ケプラー62惑星系」です。この惑星系では、2つの惑星がハビタブルゾーン(生命居住可能領域)に属していることがわかっています。実際に太陽系外惑星に生命が存在しているか否かを確認するには、どうすれば良いのでしょうか。サセロフ氏は、その方法として、リモートセンシング技術を紹介しました。惑星の大気で反射したり、大気を透過したりしてくる光のスペクトルを観測することで、生命体が発生させる微量のガスをとらえるという技術です。現在、NASAでは、2017年に「トランジット系外惑星探索衛星」を、2018年に「ジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡」の打ち上げが予定されており、リモートセンシング技術を使った生命の探査が行われるとのことです。

「これらの計画により、我々は今後5~10年の間に地球外生命体を発見できるかも知れません。人類が何千年にもわたり追求してきた究極の謎に対する答えを、遂に手に入れることができるかも知れないのです。そんな幸運な時代に我々は生きているのです」

大量の水が地球内部に行ったことが生命の誕生と多様性に関与—廣瀬敬氏

【廣瀬敬氏】 【廣瀬敬氏】 東京工業大学地球生命研究所(ELSI)所長、教授。2008年日本学術振興会賞受賞。2011年日本学士院賞、欧州地球化学会のScience Innovation Award-Ringwood Medal受賞

3番目の登壇者は廣瀬敬教授です。

廣瀬氏の研究分野は地球物理学です。地球の内部は何層にも分かれていることが分かっています。地球は中心部から順番にコア、マントル、地殻で構成されています。廣瀬氏の専門分野である高圧高温実験では、2つのダイヤモンドの間に試料を挟み、地球の内部に匹敵する高圧高温をかけることで、変化した試料の化学構造を解析しています。

水と海の起源

廣瀬氏らは、最近の研究で、コアに大量の水素が存在していることを明らかにしました。これにより、生命の起源とその進化を支えた原始地球の姿が明らかになってきました。

地球が形成された時期、同じく誕生したばかりの木星による重力散乱で、水を含む微惑星が大量に地球に供給されたことが、地球の水の起源であるという考え方があります。廣瀬氏らは、コアに存在している大量の水素は、初期の地球に、現在の海水の最大約80倍もの水が存在していたことを示す証拠だとみています。

では、そんなにも大量の水はどこへ行ったのでしょうか。

ひとつの可能性として、水が運ばれた時期に、巨大な天体の衝突によって、地球全体が完全に溶けており、その結果、水の大半はマグマに溶け込んでいったというシナリオがあります。さらに、その水の多くは、鉄と反応して酸化鉄となり、コアに取り込まれていったのではないかと言われています。

「地球形成時に大量に宇宙から運ばれた水のほとんどが地球内部に取り込まれたため、浅い海で済んだことにより、地球表面には陸地と海の両方ができ、多様な環境が生まれました。このことは生命の進化にとって大変重要であり、おそらくは生命の起源にとっても重要なのです」

我々の生まれ故郷は火星のタルシス火山地帯
—ジョセフ・L・カーシュヴィンク氏

【ジョセフ・L・カーシュヴィンク氏】 【ジョセフ・L・カーシュヴィンク氏】 カリフォルニア工科大学地質学・惑星科学部門卓越教授。ELSI主任研究者。2014年、日本地球惑星科学連合よりフェローとして表彰。米国地質学会よりThe George P.Wallard賞を受賞

最後の登壇者はジョセフ・L・カーシュヴィンク氏です。

カーシュヴィンク氏の研究分野は地球生命論で、講演では、火星と地球の誕生初期の環境を比べながら、生命の起源としてふさわしいのは火星と地球のどちらなのかについて議論しました。

火星vs地球~生命の起源に惑星が与える制約

生命が誕生するためにRNAなどの基となるリボースが必要ですが、これまでリボースを非生物的に作るのは困難だと言われてきました。ところが2004年に、カルシウムとホウ酸塩でできた鉱物が触媒となりリボースが生成されること、しかもこの鉱物は砂漠のような環境下で形成されることが明らかになりました。

火星探査の結果から、このような環境が火星に存在していたと考えられています。火星の「タルシス火山地帯」は約40億年前に形成されたと予想されており、当時の火星にはオゾン層と海と陸地があったと考えられています。タルシス火山地帯は生命の誕生にとって都合がよい環境であったと推測されるのです。生命は火星のタルシス火山地帯で誕生し、隕石によって地球に運ばれてきたと考えられる、とカーシュヴィンク氏は言います。

しかし一方で、仮に隕石によって運ばれてきたとしても、地球に届くまでに摩擦熱によって死滅しているはずだと唱える研究者も多くいるといいます。それに対し、カーシュヴィンク氏は、「超伝導量子干渉計」などを用いて検証。その結果、隕石の内部は熱の影響を受けないことが判明しました。

「リボースの合成は地球よりも初期火星の方が起こりやすく、火星から地球に、バクテリアなどの生物が隕石によって運ばれてきた可能性は十分考えられることから、我々の祖先は、火星のタルシス火山地帯で誕生したと考えられるのです」

ジャック・W・ショスタック氏 インタビュー

生命の起源を知るには地球の起源と歴史を知る必要がある

【ジャック・W・ショスタック氏】

—まずは、ショスタック氏が、東京工業大学のELSIの主任研究者を引き受けられた理由からお聞かせ下さい。

ショスタック氏:地球生命の起源と進化の謎の解明は、人類の根源的なテーマです。この謎に迫るには、地球の起源と歴史を明らかにする必要があります。

ELSIには、地球の起源と歴史を研究する地球科学者や惑星科学者と、生命の起源と進化の歴史を研究する生命科学者の両方が揃っています。ELSI以外にも、地球惑星科学と生命科学の研究者が集って同様のテーマで研究をしている組織はあります。しかし、ELSIのように、本気で他分野の研究者同士が密に交流できる環境を提供し、一緒になって1つの目的に向かって挑戦していこうという研究所はなかなかありません。その点が、私がELSIに感じた最大の魅力です。

現在、私がいるハーバード大学メディカルスクールには、ELSIの研究員が1名所属しており、年間を通して米国と日本を何度も行き来していますが、今後は、もっと多くの研究員同士がハーバードと東工大の間を行き来できるようにしていきたいと思っています。

自分が本気で面白いと思っている研究テーマを選ぼう

—ショスタック氏は、「人工細胞」の作製を通して、地球生命の起源に迫ろうとされています。その結果、分かったことと現在の研究課題を教えて下さい。

ショスタック氏:地球生命の起源となる「原始細胞」の発生、成長、分裂、増殖のシナリオが見えてきました。実際、私の研究室では、材料と環境を整えれば、原始細胞の発生から増殖までを人工細胞で再現できるようになりました。

とはいえ、まだまだ解明すべき課題は山積しています。中でも、私が最も難しいと考えているのが、初期生命がどのようにして化学エネルギーを取り込んだのかです。

我々は食べ物を体内に取り入れ、酵素を使って分解し、それにより発生した化学エネルギーを使って生命を維持しています。一方、初期の生命には、酵素のような複雑な物質はありませんでした。それにも関わらず、どのようにして化学エネルギーを手に入れたのかが分かっていないのです。これは非常に難問ですが、いつか必ず解明しますので、期待して待っていて下さい。

—最後に、科学者を目指す若者に向けて、メッセージをお願いします。

ショスタック氏:研究テーマを選ぶ際には、流行っているテーマや多くの人が面白いと言っているテーマを選ぶのではなく、自分が本気で面白いと思っているテーマを選んで欲しいと思います。そのテーマに解決策がなければ、解決策自体を自分で発明して欲しいですね。是非、頑張って夢をつかんで下さい。

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2014年9月掲載

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東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp