社会連携
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POTTERY CAMP 2013 ポスター
東工大博物館と工学部無機材料工学科、および、東工大附属科学技術高等学校では、2013年11月~2014年4月の約半年にわたって、東工大生と附属高校生を対象とした、“やきものづくりから学ぶものづくり”『東工大POTTERY CAMP』を実施しました。
栃木県益子町との連携により実現したこの教育プログラムは、異なる専門分野に所属しながらも、科学・技術の基礎を学んでいる学生や生徒たちが、“ものをつくることとは何か”を肌で学ぶ機会を提供するという趣旨で企画されました。
現在の大学や研究機関における科学・技術の教育研究は、その成果や内容が大変高度なものになっています。日々の研究活動によって、いかに“最先端”であるかが激しく競い合われるなかで、数々の目覚ましい成果が生まれてきています。
しかし一方では、その先端性の追求が研究分野の細分化の進行に拍車をかけていることも事実でしょう。その結果、研究開発に携わる学生や研究者一人一人が、その社会的な動機や目的、発展過程、実現性、評価といった、全ての科学・技術やものつくりに通底するプロセスあるいはサイクルを見渡す機会が失われ、その中で自身の取組を実感的に位置づけることが難しい状況が生まれています。こうした現在の教育研究を取り巻く状況の下、基礎を学習する段階において、このような“プロセスへの眼差し”を経験的に己の中に築く機会を設けることができないかと考えました。
そこで、東工大とかかわりの深い原初的なものつくりとして、“やきものづくり”を題材に、理論の学習から成形、最終的には登り窯での焼成と発表会の開催までを目標とした一連のプロセスを他者との協働の中で経験する、実験的なプログラムを計画しました。舞台には、東工大の卒業生である濱田庄司や島岡達三といった人間国宝を輩出したゆかりある益子を設定し、現在、益子で活躍している卒業生で陶芸家の村田浩氏、益子町や益子陶芸美術館、益子焼販売店協同組合などの益子関係者や陶芸作家の方々の多くのサポートをいただくことができました。
本プログラムは大きく6つの工程を経ることによって、やきものづくりに関わる一貫したサイクルを経験できる仕組みを用意しました。“ひとつのものをつくる”という行為すべてに通じる理論~案出・設計~制作~評価・フィードバックといった一連のプロセスを参加者が意識できる構成です。
11月のレクチャーから始まり、12月に東工大と益子での成形、3月に施釉と焼成、そして、4月に窯出しと発表会を行いました。この約半年間にわたるプログラムでは、東工大生5名、附属高校生16名の計21名が協働してやきものづくりに挑みました。
レクチャー1
基礎的な理論を学び、制作品のデザイン立案と制作計画をおこなう段階です。制作に入る前段階として、やきものはどのような工程を経て制作されるのか、やきものづくりをおこなう際に計画しなければならないこととは何かを学びました。
東工大と益子の関わり:窯業科の歴史、出身陶芸家
(濱田、島岡)
陶器の制作工程:採掘~粘土の調整~成形~素焼き
~釉掛け~焼成
焼成温度、酸素量による釉薬の発色
益子の伝統釉:並白釉、糠白釉、灰釉、黒釉、糠青磁、飴釉、柿釉
制作計画:登り窯3部屋を使用、一人あたり約20~30点の作品を制作
ろくろ実演
レクチャー3
窯詰め配置の計画図
ここから、やきものの制作にはいります。まず、東工大・大岡山キャンパスで、型とてびねりによる成形作業を行います。
水分量を少なめに調整した粘土500kgを準備し、4種類の筒状の木型と2種類の碗状の素焼型を用いて形作ります。成形後、表面に模様を付けたり、把手を付けるなど、参加者の自由な表現を加え、多彩な作品が誕生しました。
一方、てびねりは型とは異なり、粘土紐を積み上げるなどして成形します。形に制限を受けないので、動植物を型取ったりした置物なども制作できます。
型成形用の粘土板切り出し
表面に模様付け
舞台を益子に移し、2泊3日の日程でろくろ成形合宿を実施しました。1台のろくろを2名で利用し、制作します。ろくろでの成形は、大きな作品になればなるほど、小さなひずみが影響し、形が崩れてしまいます。ひとつの器の成形にかかる時間は短いですが、大変な集中力を要する作業です。参加者は制作作業の傍ら、濱田庄司記念益子参考館や、窯元つかもとの工場を見学しました。
ろくろでの成形
大皿制作の実演
ろくろ成形後、乾燥させた作品から高台(器の胴や腰をのせている円い輪)を削り出し、外形を整える作業工程を行います。今回は、村田氏や阿部氏(陶芸メッセ益子・工房)、中山氏(民芸店ましこ)にこの作業を依頼しました。外形が出来上がった作品をさらに乾燥させ、十分に乾燥した作品を電気窯にて素焼きしました。
参加者は再び益子に集まり、素焼きした作品に釉薬を施す作業を行います。施釉後の本焼の際に、窯内のどの場所に作品を配置するかによって、施す釉薬の種類を変えます。よって、素焼きした作品群を窯詰する場所ごとに分類し、その場所に適した釉薬を施します。施釉作業は、釉薬を掛ける係、底の釉薬を清掃する係、仕分け分類し窯詰めする係など分担して実施します。
配置計画に沿って窯詰め
窯詰め風景*
火入れ式*
横くべ*
煙突から吹き出す炎*
26日 |
午後 |
薪の準備(600把) |
夕方 |
火入れ式 |
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27日 |
朝 |
本焼開始 |
15:00 |
大口の手伝い口からも薪をくべ始める (約800℃) |
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17:00 |
1、2番の部屋から炎が吹き上がる (約1100℃) |
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18:45 |
3、4番の部屋から炎が吹き上がる (約1150℃) |
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19:35 |
1番、横くべ開始 (窯内の部屋毎にある開口部からの薪くべ) |
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20:30 |
1番の部屋完了(約1200℃) |
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21:20 |
2番、横くべ開始 |
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0:30 |
2番の部屋完了 |
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0:35 |
3番、横くべ開始 |
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2:00 |
3番の部屋完了 終了 |
窯焚きは火入れをしてから、夜通し行います。27日夜間の作業は2班に分かれて活動し、窯の大口から、また、窯内の各部屋の開口部からの横くべを参加者が担当します。薪をくべるタイミングや量は、窯内に設置したゼーゲルコーンと呼ばれる温度計の様子をみて、決定します。炎と空気を調整し、土、釉薬の化学変化を促します。
大くべ*
待望の窯出しのため、一同、再び益子に会しました。今回、500個を超える作品が完成しました。完成した作品とこのプログラムを通した経験を披露する発表会を実施しました。発表会には益子の方々をお招きし、班ごとに以下のテーマを設定して発表しました。
窯出し*
窯出し*
発表会
このプログラムは、参加者がひとりとして経験したことがない、やきものづくりに挑戦するというものでした。
従って、粘土や薪の準備とその保管の方法、登り窯内部の温度分布と火の廻り方の予測に基づいた制作計画などの準備段階における綿密な計画の重要性を学ぶことができました。さらに、作品の数量や生地の厚みと大きさに応じた釉薬や焼き場所を選択する、焼成過程では窯内部の温度の上昇状況を見ながら、薪や空気の量を調整していくという経験をしました。当初の計画に沿って進めながらも、実際の制作過程において断続的に調整と修正を繰り返すことよってより良い状態のものが生み出されていくという、ものつくりの臨場感溢れる現場を学生たちは肌で感じたことでしょう。そして、この経験こそが、このプログラムの目標であり、また大きな成果といえましょう。
東工大と益子町との地域連携は、一昨年の「東工大で益子焼 ~知る・ふれる・つかう~」展の開催以来、昨年益子にて開催された「益子町名誉町民章受章記念 島岡達三展 東京工業大学所蔵中澤コレクション」を経て、この度のPOTTERY CAMPの実施で3回目を数えます。東工大博物館では、今後も、地域社会との繋がりのなかで、ものつくりとは何かを教育・普及・研究の中心に据えて活動に努めてまいります。
この成果について、2014年5月25日~6月30日に、「東工大POTTARY CAMP報告展」を、博物館の2階展示室にて開催いたしました。
益子町 大塚町長と共に
東京工業大学博物館 遠藤康一 阿児雄之
このプログラムは、東工大基金の「日本再生「ものづくりの土台形成」プログラム」事業の支援により実施しました。
指 導: |
村田浩(陶芸家、1967年無機材料工学科卒) |
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成形指導: |
村田明果 |
焼成協力: |
萩原芳典、島岡桂、大塚雅淑、大塚誠一 |
協 力: |
益子町、益子陶芸美術館、益子焼販売店協同組合、濱田庄司記念益子参考館 |
宿 泊: |
栃木県芳賀青年の家 |
写真撮影: |
乾 剛 (記事内*付写真) |
担当教員: |
亀井宏行、奥山信一、広瀬茂久、道家達將、遠藤康一、阿児雄之(東京工業大学博物館) 櫻井修(東京工業大学工学部無機材料工学科) 成田彰、森安勝、岩城純、片渕和啓(東京工業大学附属科学技術高等学校) |
スタッフ: |
尾野田純衣、佐藤美由紀、岡地智子、渡利美知子、渋谷真理子(東京工業大学博物館) |
(敬称略)
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2014年5月掲載