社会連携

写真洗浄プロジェクト

student life 写真洗浄プロジェクト

2011年3月11日に発生した東日本大震災。特に東北沿岸部は津波による甚大な被害を受けました。震災発生直後より被災地で復興支援ボランティア活動に携わった学生もいるなか、被災地の皆さまのお役に立てることを何かしたいと思いながらもなかなか行動に移せないでいた学生もいました。

そこで、東京工業大学のキャンパス内でできる復興支援活動として、学生支援GP(Good Practice)の主導により、2011年9月から「東京工業大学写真洗浄プロジェクト」を開始しました。被災地から被災写真をお預かりし、学内で洗浄して、持ち主の方にお返しする活動です。本プロジェクト開始にあたっては、富士フイルム株式会社、ハートプロジェクトにご協力を仰ぎ必要な資材や情報をご提供いただきました。なお、東日本大震災後に学生間で芽生えていた「東工大学生ボランティアグループ」の活動はこのプロジェクト参加を通して機運が高まりより結実していくこととなりました。

宮城県名取市閖上(ゆりあげ)、岩手県山田町から写真をお預かりし、2011年9月から2012年12月までの間に56回の活動を行いました。アルバム1,152冊、その他1枚ずつバラになっている写真約1,000枚を洗浄させていただきました。これまでの参加者数は延べ943名。活動参加者は東工大生が中心ですが、東京大学、東京医科歯科大学、首都大学東京、駒澤大学、芝浦工業大学、中央大学、法政大学、早稲田大学などの他大学の学生や社会人の方々も活動に参加しました。

写真洗浄活動について

1枚ずつバラバラで届いた写真の中から類似写真を探し出す1枚ずつバラバラで届いた写真の中から類似写真を探し出す

アルバムから写真を取り出すアルバムから写真を取り出す

写真洗浄活動は、海水や泥などで汚れてしまったアルバムから1枚ずつ丁寧に写真を取り出し、バクテリアやカビ等による写真の劣化を防ぐために、表面についた汚れを洗浄し、洗浄によって濡れた写真を乾燥させてから、新しいポケットアルバムに入れてお届けする、という一連の作業の繰り返しです。

作業の際には、持ち主の方がご自身のアルバム写真を見つけやすいよう、何か発見の手がかりになるものを少しでも残しておけるように、汚れてしまっていたアルバムの表紙を濡れたタオルで綺麗に拭いて残しておいたり、アルバムの台紙や写真裏に書かれていたメモを別紙に書き残しておいたり、どのようなイベントや風景の写真であるかについて一覧表を作ったり、探しやすくするためにいくつも工夫する作業も並行して行います。

2012年12月までに学内で洗浄した写真はすべて被災地へお届けいたしました。閖上でも山田町でもそれぞれの地で洗浄済みの写真展示会場が設けられており、被災者の皆さまがご自身のお近くでアルバム写真を探せるようになっています。
本プロジェクトで洗浄したアルバム写真を見つけられた方からメールをいただいたりすると、この活動の意味や重みを強く実感します。

被災地の方からのメールと感謝状

被災地の方からのメールと感謝状

山田町での写真展示山田町での写真展示

岩手県山田町 阿部達也様より
「突然のメールで失礼します。岩手県山田町に住む阿部達也と申します。私は、東日本大震災で自宅が大津波と火災により全壊し、現在は仮設住宅に住んでおります。家族は全員無事でしたが思い出の写真は、すべて失ってしまいました。落胆していましたが、最愛の家族の写真、特に息子と娘の小さい頃の写真が届き、涙が溢れました。
私は、『道の駅やまだ』に勤務しております。もし、山田町に来る機会がありましたら、直接お礼を述べたいと思いますので是非お立ち寄り下さい。この度は、本当にありがとうございました。」

展示された写真展示された写真

岩手県山田町 中澤孝幸様より
「はじめまして。私は岩手県山田町に住んでいる者で、中澤孝幸と言います。先の東日本大震災より流失したと思われた写真を洗浄・復元していただき、言葉に言い表せないほど感謝しております。私も嬉しかったのですが、私以上に、母が喜んでいました。写真の赤ちゃんが、自分です。現在32歳です。津波によって、モノも、人それぞれの思い出も失ってしまったと喪失感に咽ぶ、同じような思いをしている方がまだまだいますので、ぜひ今後も東工大写真洗浄プロジェクトを継続していってください。陰ながら応援しています。ありがとうございました。」

閖上の活動に対しては、名取市より感謝状をいただきました。

今後の活動に向けて

作業風景(ポケットアルバムに写真を詰める)作業風景(ポケットアルバムに写真を詰める)

阿部様や中澤様のようにご自身のアルバム写真を見つけられる方も多くいらっしゃるなか、まだ持ち主の方のお手元に戻っていない写真も多く残っているそうです。数多くのアルバム写真のなかからご自身のものを探し出すことは容易ではないのでしょう。あるいは、もしかしたら今はまだ写真を探しに行こうというお気持ちではない方もいらっしゃるのかもしれません。そのような方々が「思い出の写真を見つけたい」と思われる日が来た時のため、またアルバム写真をどなたもより容易く見つけられるようにするため、本プロジェクトでは写真データをデジタル化しPCによる検索システムへ導入する活動にも携わることにしました。今後は、洗浄作業とデジタル化作業とを並行して行っていく予定です。

震災後の復旧復興にはまだこれからも長い年月がかかるものと思われます。写真洗浄プロジェクトを継続して行うことで、東北から離れた東京からではありますが、被災地の皆さまのお力になれるよう、今後も東工大では活動を続けていきます。

参加学生のコメント

ポケットアルバム裏表紙にメッセージポケットアルバム裏表紙にメッセージ

工学部 社会工学科 3年 近藤景
「震災後、東北・復興に関するボランティア活動に興味がありましたが、なかなか行動に移せずにいました。そんななか写真洗浄活動と出会いました。写真洗浄は学内で行われているため、気軽に参加できるのが良かったです。また、学科学年を超え様々な人と一緒に活動することが出来たことも素晴らしい経験となりました。」

工学部 経営システム工学科 3年 川村通
「自分では写真洗浄活動をやっていても、この活動が被災地の方達に良い影響を及ぼすことができているのか分かりません。しかし、数多く洗浄した写真の中の一枚でもお手元に戻って、それが意味のあるものとして受け取っていただける限り、そこには物質的なもの以上の価値があると感じています。大学に入り、どうしても、時間、物、お金にとらわれる生活の中、写真洗浄活動はいつもとは違った観点で社会を見つめ、考える良い機会になっていると思います。」

名取市閖上へ応援メッセージ名取市閖上へ応援メッセージ

総合理工学研究科 環境理工学創造専攻 修士1年 北山璃羅
「写真を洗浄した岩手県山田町は、山、空、そして海の非常に素晴らしい景色が広がっています。ある日、山田町の方から写真が手元に戻ったと言う感謝のメールを頂きました。さらに私は、ボランティア活動で山田町へ行った際にその方にお会いする事もできました。ご家族はご無事だったそうですが、津波によって家や思い出の品々は全て流されたそうです。そこに、私たちが洗浄した思い出の写真が手元に戻り大変感謝して頂けました。このように、ゆっくりでも着実に、入学式、運動会、旅行、結婚、そして日常の何気ない風景等の素敵な思い出が詰まった写真達が持ち主の手元に戻る事を願っています。」

社会理工学研究科 価値システム専攻 修士2年 橋本真吾
「私にとって,写真洗浄活動には三つの感動がありました。(1)日ごろ追われる研究やタスクから一旦足を止め,被災地のことを考える時間が得られたこと。(2)東京にいて,離れていても被災地との「繋がり」を感じることができたこと。(3)同じ関心を寄せている仲間に出会える場ができたこと,でした。中でも印象に残っていることが,写真を見つけられた岩手県山田町の方から頂いたメールでした。今でも心に響いています。」

岩手県山田町での写真展示の様子岩手県山田町での写真展示の様子

総合理工学研究科 創造エネルギー専攻 博士後期課程3年
原子炉工学研究所 嶋田研究室所属 川口卓志
「研究生活のなかで,写真洗浄活動に参加することは,とても特異な時間でした。それは,研究以外のことに時間を使うということもそうですが,損得を超えて『何か復興のお手伝いをしたい』という気持ちのもとに集まってくる本学の教員,職員,大学院生,学部生,さらに他大生,社会人の方々と一緒に活動することは,なかなか日常では得られない経験でした。活動している作業部屋は,いつも穏やかで温かい空気に包まれていて,私にとっては居心地の良い止まり木のような時間と空間でした。
時折,被災地の持ち主から感謝のメールが届くと,底知れぬ深い感動と,一緒に洗浄してくれた人たちへの感謝の気持ちで胸が溢れました。写真洗浄活動は,私たちにたくさんの出会いときっかけを与えてくれ,私にとってはとても大切な活動でした。この活動を支えてくれている全ての人たちに感謝しています。」

このプロジェクトを主導する学生支援GPのサイトはこちら⇒東京工業大学 学生支援GP

(2013年2月取材)

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2013年2月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp