TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program in Thailand (SERE) タイ国立科学技術開発庁 (NSTDA) 2022

TAIST-Tokyo Tech Student Exchange Program in Thailand (SERE) タイ国立科学技術開発庁 (NSTDA) 2022

留学時の学年:
学士課程4年
東工大での所属:
理学院
留学先国:
タイ王国
留学先大学:
タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)
留学期間:
2022年10月11日~2022年11月17日
プログラム名:

留学先(参加プログラム/受入れ機関)の概要

TAIST-Tokyo Techには、A2TE、AIoT、SEREの3つのプログラムがある。私が参加したSERE(Sustainable Energy and Resources Engineering)プログラムは、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)でSEREコースの講義を受講するとともにNSTDAのいずれかの研究室でインターンシップを行うというものだった。期間は1か月以上2か月未満で、プログラム開始日や終了日、受講する講義やインターンシップをする研究室は比較的自由に選ぶことができる。
NSTDAには、エレクトロニクスを扱うNECTEC、生命工学を扱うBIOTEC、金属材料を扱うMTEC、ナノテクノロジーを扱うNANOTECの4つの国立研究所が含まれている。インターンシップ先の研究室はこの中から選ぶことができる。NSTDAは、タイランド・サイエンスパーク(TSP)という場所にある。TSP敷地内にはNSTDAの研究施設が数多く立ち並んでいるが、自然も多く、毎週定期的に朝市も開催されている。本プログラムでは、滞在中の宿舎としてTSP内のシリントーン・サイエンス・ホームが無償で提供されている。TSPの隣にはタマサート大学が位置しており、食事などのためにこちらへ行くことも多かった。

留学前の準備

TAISTプログラムを知ったのは、2022年の5月にオンラインで行われた留学説明会のときだった。留学期間や留学先が私にとってちょうど良く、生活面・金銭面でのサポートが十分にあることが分かり、興味を持った。3つのTAISTプログラムの中でもSEREプログラムは工学系の専門知識が必要なさそうだったので、物理学系の自分でも参加できるのではないかと思い、プログラム担当者に尋ねたところ、確かに物理学系の学生でも問題ないということだった。そのときの私は学士4年だったので、卒業研究を行う年でもあったが、指導教員に尋ねると、留学に行きたいならばそれでも大丈夫だということだったので、TAIST-SEREプログラムの参加申し込みをした。担当教員との英語でのオンライン面接の後、プログラムに採用されることが決まった。
留学先では、NSTDAのいずれかの研究室にインターンシップをすることになるので、まずは希望研究室をいくつか選んだ。スケジュール等を調整した結果、ナノテクノロジーを扱うNANOTECの研究室に行くことになった。受け入れ教員とは、渡航前にメールで何度かやり取りした。
それまで私はパスポートを持っていなかったので、7月に取得した。取得でき次第、往復の航空券を購入した。31日以上の滞在なので、タイのビザが必要であり、9月初頭に在日タイ大使館に行って発行してもらった。大使館に行った数日後にはビザが発行されたが、それ以前のそもそも大使館に行く予約が2週間ほどいっぱいだったので、予約は早めにしておきたい。

留学中の勉学・研究

1. TAIST-SERE講義
東工大の江頭先生から、化学操作や分析手法に関する講義を受けた。受講者は、25人程度だった。タイの学生はもちろん、ベトナムやインドネシアの学生もいた。最初の5回はオンライン講義だったので、11月14日が最初の対面講義だった。このときには先生から出題された演習問題に取り組んだ。難しめの問題もあったが、他の学生とのディスカッションや江頭先生の解説を通して理解を深めた。11月15日は、NCTC(NSTDA Characterization and Testing Service Center)の研究室を見学した。様々な化学分析装置を見ることができた。
講義は、化学工業のような分野で、私にとってはほとんど未知の内容だった。馴染みのない化学系の英単語も多く使われており、内容を理解するのには苦労した。それでも、理論として難解なわけではないので、徐々に内容を掴んでいくことができた。対面講義では、東南アジアを中心に様々な国から集まった学生と交流することができ、とても楽しかった。個人的には、オンライン講義ではなく対面講義がもっと多ければ、他の学生と交流する機会がさらに増えて嬉しかったのだが、それでもオンラインであればこそ海外の先生の講義を聞けるメリットがあることはよく体感できた。

2. NSTDAインターンシップ
基本的には、研究室所属のポスドクの指導のもと、修士課程の学生とともに実験・研究を行った。同研究室で行われている他の実験や研究を見学する機会も多々あった。主に、スパッタリング技術を用いた試料の作成および結晶構造の解析を行った。実験や装置の原理および実験結果に関して、適宜ディスカッションを行って理解を深めた。最終日の11月17日には、同研究室のメンバーに対して、今回のインターンシップ期間で研究した事柄をまとめて発表した。
私は、普段は理論物理の研究室に所属しているので、日常的に実験をすることがない。これまでに、物理学系の授業の中で実験を行ったことはあるが、今回、タイの研究室で行った実験はそれとは全く異なるものだった。装置や実験の原理から機器の取り扱い方法まで知らないことばかりだったが、研究室のメンバーが優しく教えてくれたのは非常に助かった。研究室インターンシップで最も感じたのは、自分が所属する研究室との文化の違いだった。まず、分野が異なるので、研究方法が大きく異なっている。日本では論文を読んで計算をするばかりなので、実験がメインの分野での経験は新鮮だった。加えて、時間にルーズでゆったりとしたペースは、タイらしいところだと感じた。日々、先輩・後輩なども関係なく、和気あいあいと研究を行っているのが印象的だった。



3. 観光
バンコクとアユタヤは、どちらもNSTDAから車やバスに乗って2時間弱で行けるため、休日にはこれらの場所を観光で訪れた。バンコクには1人で行き、世界的にも有名なワット・ポー、ワット・アルン、ワット・プラケーオの3つの寺院を訪れた。その後、商業地区としてタイの人々と観光客が多く集まっているサイアム地区にも行き、現代アートの美術館であるバンコク・アート&カルチャー・センターも訪れた。寺院で伝統的な仏教芸術を見てきた後に、その流れを汲んだタイの現代のアートを見ることができたのは、良い経験だった。
アユタヤには、現地の研究室のメンバー3人に連れていってもらった。世界文化遺産のワット・プラ・シー・サンペートを始め、いくつかの寺院や遺跡を見学した。古都アユタヤのかつての威光を垣間見ることができたような気がした。その後、アユタヤ名物の川エビを食べに行った。タイは日本と比べて食費が非常に安く、ここでも手ごろな値段で美味しいエビを山ほど食べることができた。



留学を終えて自分自身の成長を実感したエピソード

研究室インターンシップの最終日には、留学期間中に現地で研究した内容をスライドにまとめて研究室のメンバーに向けて発表する機会があった。私は、それまで英語で専門的なプレゼンテーションをしたことがなく、また今回学んだ事柄は私の専門分野でもなかったので、かなり苦労した。そもそも知識として学ぶべきことがいくつもあったし、その分野で使われている特有の英語も知る必要があった。最終的に、私が行ったプレゼンはたどたどしさもあったものの、一通り内容を伝えることはできたと思う。最も苦労した事柄ではあったが、このおかげで成長を実感することもできた。

留学費用

航空費:約140,000円
パスポートおよびビザ取得費用:約16,000円
海外旅行保険:約14,000円
現地での生活費(観光含む):約55,000円
奨学金:日本学生支援機構 第二種奨学金 月額70,000円(給付)
合計2ヶ月分 140,000円
備考:航空券はずっと安く購入することもできると思われる。一方、観光費用に関しては現地学生がアユタヤに連れていってくれたこともあり、だいぶ抑えられている。

留学先での住居

先述の通り、本プログラムの参加者にはタイランド・サイエンスパーク内にある宿泊施設が無償で提供された。

留学先での語学状況

授業はすべて英語で行われた。研究室でも、自分と会話をするときには相手が英語で話してくれた。宿泊施設の管理人も英語を話すことができる。それ以外の日常生活ではタイ語が使われているが、買い物や観光程度であれば、タイ語ではなく簡単な英語や身振り手振りを使って伝えたことの方が多かった。私の留学前のTOEIC L&Rの点数は970点であり、タイ特有の英語の訛りにはしばしば苦労したが、英語でのコミュニケーションに関して深刻なトラブルはなかった。

単位互換(認定)

東京工業大学大学院のグローバル理工人海外研修(LAW.X430)1単位を取得予定。なお、私は学士課程の学生であるが、学士2年のときにオンライン留学プログラムに参加しており、そのときにグローバル理工人国内研修の単位を取得していた。そのおかげで、すでにグローバル理工人コース中級の修了要件は満たしていたため、今回の留学は上級の修了要件にも含めることができる当該科目の単位として申請することにした。

留学経験を今後どのように生かしたいか

私は修士課程に進学する予定なので、この後、少なくとも2年間は引き続き物性理論物理学の研究室で研究をしていくことになる。留学先で受けた講義や行った研究は私の専門分野ではなかったが、異なった分野での経験は柔軟な発想にも繋がると考えている。また、いずれは大学院を出て就職することになると思うが、そのときに物性理論物理学に直結する業種に就ける可能性はほとんどない。ここでも、また異分野で新たに学び直す必要があり、そのときにも今回の経験は大いに役立つだろう。
また、今回の留学は私にとって初めての海外留学であっただけでなく、そもそも初めての海外渡航だった。生まれてから21年間日本から出たことがなかった自分にとって、日本とは異なる文化に触れ、40日間とはいえ生活してみるという経験は、非常に有意義なものだった。異文化を実際に体験してみることで他者・他国への理解は格段に深まったと思う。今回の留学は、今後の私のグローバルなキャリアへの第一歩になると思うし、そうなれるようにこれからも国際的な視野を持って学修を進めていきたい。

留学を希望する後輩へのアドバイス

留学を少しでも考えているなら、とりあえず行ってみれば良いと思う。私が参加したこのプログラムでは、支援も充実していて、最初の頃に抱えていた不安はどんどん薄れていった。40日間の滞在で生活費も含めて自費では10万円以下しか使っていないと聞けば、金銭的に十分な支援があることはわかると思う。スケジュールの問題は、個人で考える必要があるが、TAIST-Tokyo Techに関してはかなり柔軟に日程を組むことができる。英語力も大抵の場合は何とかなる。どうしても困ったら、インターネットの力を借りれば済む話でもある。これだけたくさんの支援があって自由度もある海外渡航ができるのも大学生(大学院生)のうちだけなので、ぜひとも今のうちに海外留学をしてみてほしい。

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