東工大について

東工大が目指すDE&Iとは

(左から)田中圭介教授、川端小織理事・副学長、松下伸広副学長、桑田薫理事・副学長、伏信一慶教授(左から)田中圭介教授、川端小織理事・副学長、松下伸広副学長、桑田薫理事・副学長、伏信一慶教授

川端小織

理事・副学長(法務労政担当)

桑田薫

理事・副学長(ダイバーシティ推進担当)

田中圭介

情報理工学院 教授

松下伸広

副学長(成長戦略担当)、物質理工学院 教授

伏信一慶

工学院 教授

学長と共にDE&Iを推進する桑田理事と川端理事を座談会に迎え、本学がDE&Iの先端を行き、社会に活力をもたらす大学となるための取り組みや、今後向かっていく方向について話を聞きました。

DE&I の2本柱となる「環境整備」「意識改革」

伏信:本学のDE&I 活動にはどのようなものがあるでしょうか。

桑田:大きく分けて2つの柱があります。1つ目は環境整備です。ジェンダーやハンディキャップがある人、多国籍・多文化の人たちが働き、学びやすいような環境を整えるということです。ただ、環境さえ整えばうまく進むかというと、そうではありません。もう1つの柱が、意識改革です。DE&I について同じ認識で働くために、大学全体の流れを作っていきたいと考えています。

田中:環境整備とは具体的にどのようなことでしょうか。

桑田:例えば多様な学生に合わせ、奨学金や寮、相談室を整備しています。本学では寄附で建てられたTaki Plaza が学生に活用されていて、留学生との交流も進んでいますね。また、多様な学生を集めるという意味で、女子学生限定の総合型・学校推薦型の入試を導入しました。

松下:Taki Plaza は確かに本学の学生の多様性に資する施設になっていると思います。ほかにもつばめテラスやパウダールームなど、インフラの面でも整ってきました。女子学生を増やすからには、受け入れる環境の整備も進めないといけないですね。

DE&I推進の仕組みを整備

桑田薫 理事・副学長(ダイバーシティ推進担当)
桑田薫 理事・副学長(ダイバーシティ推進担当)

伏信:継続的なDE&I推進の仕組みを整備されるということですが、本学がこれまで取り組んできたものからはどのように変わっていくのでしょうか。

桑田:これまで本学のDE&I推進の仕組みは、各部局から委員の先生が会議に参加し、現場で起こっている課題から具体的に議論するという現場主義で動いてきました。先行研究を見ても、こうしたアプローチが正しいとされています。ですが、これは問題が起こってはじめて処置がされていくというやり方で、あくまで後追いにすぎません。そこでもう一歩進んで、皆さまが困る前に環境を整えていく必要があると考えて、ダイバーシティ推進室を設置し、大学全体で取り組むべき施策を推進しています。

川端:法律の世界にも変化は表れています。最高裁は、これまでの戸籍上の性別変更には事実上手術が必要との判断を、2023年10月に社会的な状況の変化等を考えると手術まで求めるのは、いき過ぎとの判断に変更しました。法的判断も、社会の変化に伴って変わっていくのです。社会は法律よりも先を動いていますし、本学はその中でも先頭を走る必要があると考えています。

女子枠での入試を行う背景

川端小織 理事・副学長(法務労政担当)
川端小織 理事・副学長(法務労政担当)

川端:本学では具体的な取り組みとして、入試における女子枠が間もなく始まりますが、桑田理事から詳しくご説明いただけますか。

桑田:日本のジェンダーギャップ指数は先進国だけでなく、世界中でみても非常に低い水準です。特に女性の大学進学においては、驚くほど理学系・工学系の進学率が低い。本学の女子学生も、学部生で13%ほどに留まっており、MIT(マサチューセッツ工科大学)やCaltech(カリフォルニア工科大学)などの女子学生比率には全く及んでいません。本学が世界と同じ水準の議論ができる環境になるという意味で、この点はどうしても是正していかなくてはいけないと考えたのが、女子枠設置の大きな理由です。

川端:海外では女性の首相も出ていますし、閣僚や議員などでも女性が相当数占めています。日本のジェンダーギャップの大きさは、女性のみならず、日本の男性にとっても世界の日本に対する認識・評価という意味で不利になるという視点もあるのではないでしょうか。たしかにアファーマティブアクションに対する賛否はありますし、特に女子枠という形には様々なご意見もあると思います。ただ、理工系女子学生の少なさは社会的・歴史的な流れの中で生じているもので、これを女子枠という形で積極的に是正していきたいというのが本学の考え方です。海外の大学で女子学生が多いのも、積極策を含めた色々な努力を重ねてきた結果であり、何もせずに改善されたのでは決してありません。もちろん、もし社会が変わっていく中で女子学生が増えていけば、近い将来こうした是正をする必要はなくなるかもしれませんし、そうなれば一番良いですよね。

性別や人種等の理由で差別を受けている人たちに対する、格差是正のための取り組み

女子枠での入試の実施に向けて

松下:本学が女子枠を発表した影響や、出て来る課題について桑田理事はどうお考えでしょうか。

桑田:他の国立大学も女子枠の検討や実施を公表する動きが出ていますので、本学が流れを作ったという点で、まず意義があると思います。今後の課題として想定されるのは、たとえばトランスジェンダーの学生が女子枠で受験できるのかということです。こうしたSOGI(ソジ)に関するケースに対し、学内で共通の対応ができるよう、準備を進めています。

田中:このSOGI という言葉は、私も以前桑田理事からお聞きしたのですが、まだ耳慣れないかもしれません。SOGI には性的指向(SO: Sexual Orientation)と性自認(GI:Gender Identity)の2つがあり、性的指向は性的な魅力をどのような性の相手に感じるか感じないか、性自認は自分が自身の性をどのように認識しているかということを表します。LGBTは性的指向(LGB)とT(性自認)が混ざっていることから、SOGIが使われはじめています。

桑田:人間誰しも性的指向と性自認がありますので、SOGIの議論は少数派についてではなく、全員に関係があると考えていただきたいですね。

川端:LGBTやSOGIという言葉は、5~10年前はほとんどの人は聞いたことがなかったと思います。私も10年前には知りませんでした。こうした比較的新しい概念を本学で実効的なものにする取り組みについて聞かせていただけますか。

桑田:環境整備の一環にもなりますが、SOGIに関するガイドラインを策定し、研修会や勉強会を開催しています。すでに何回か開催しており、執行部をはじめ、部局長、事務の部長級、課長職のほか、希望者に参加いただいています。多様な意見があるテーマなので、今後はダイバーシティ推進室でワークショップを開くことも考えています。

多様性を担保しつつイノベーションを生むには

桑田理事に語りかける川端理事・副学長

川端:よく「DE&I を推進すると研究成果や業績が上がる」という言い方をされますが、そうした成果ありきの表現にはいつも少し違和感があります。個々の多様な人を互いに尊重する結果、研究の成果も上がるという形を目指すのであって、成果が上がるから取り組むという順序ではないと思うのですが、桑田理事はいかがでしょうか。

桑田:おっしゃるとおりです。まずそれぞれの方たちが生き生きと働き、学ぶ環境が担保されるのが第一だと思います。たしかに過去の研究では、イノベーションを生むという意味で多様性の担保が推奨されています。一方で、組織の中に多様な人たちがいると、いつのまにか分断が起きてしまう研究報告もあります。多様性がある集団でも、なんとなく近しい人同士が結局はつながっていって、ある種のコロニーができてしまう。そうなるといざ同じ目的で動こうとしても、なかなか意思統一ができないんですね。組織に成果をもたらすには、多様性と意識を合わせるマネジメントが大切になると思います。

川端:多様性を担保しつつ、組織がうまく機能するには「言葉にしなくても通じ合える」というやり方ではいけないということですね。はっきり言葉で伝えあう、公平な進め方をするといったことがより重要になると思います。

東工大の現場で起きているDE&I

参加者と語り合う桑田理事・副学長

桑田:今度は私の方から先生方に質問です。これまでDE&Iに関連した経験や感じたことなどがありましたら、教えていただけないでしょうか。

伏信:ダイバーシティって必ずしもジェンダーだけではないなと感じます。バリアフリーのように、障がいのある学生に対する合理的配慮も、教員の立場として、浸透していると思います。また、私が90年代半ばぐらいにアメリカの西海岸の大学でお世話になった先生は、当時のアメリカのアファーマティブアクションを推進する側の方でした。現状の海外の大学教員や女子学生の比率などを考えると、やはりどこかのタイミングで積極的な施策を進める必要性があるのではと感じます。

田中:私は20年ほど本学にいますが、20年前ぐらいの学生と比べて最近の学生はSOGIに対する理解が進んでいる印象を受けます。われわれの頃に比べると、SNSなどが見られる状況にあるので、彼らの中では自然に醸成されている感覚なのかもしれないですね。

松下:本学のすずかけ台キャンパスで研究室学生とバーベキューをした際にインドネシアからの留学生たちがいました。最初は1つのプレートで焼こうと計画していた日本人の学生たちは、彼女らがハラル認証のない物は食べられないことに気付き、プレートを分ける必要があることを学びました。その際、ハラル認証の肉を食べてみたら、「想像していたよりも美味しい」ということで会話も弾み、盛り上がりました。振り返ると、これまでにもそういったDE&I を意識する機会をいくつも経験しているのだと思います。

おわりに

松下:では最後に桑田理事と川端理事からお願いいたします。

桑田:本学はDE&Iの意識改革と多様性を尊重する環境整備で、大学組織のパフォーマンスを最大化し、社会にインパクトを生み出していこうと考えています。これからもぜひご協力をお願いいたします。

川端:2020年の統合報告書の対談で、「東工大は女子学生も女性教員も非常に少なく、思い切った積極的な対策をすべきだ」とお話ししました。そのわずか数年後、女子枠をはじめとする様々な具体策が進む段階に入ってきたことは非常に感慨深いです。本学は最先端の学問・研究を進める大学ですので、DE&Iについても社会に先がけていく大学であり続けたいと思います。

(2023年11月取材)

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