国際交流

東工大生がMIT・ハーバード大学の学生と学ぶ「たたら製鉄ワークショップ」

日本の伝統的なものつくりを体験

MIT・ハーバード・東工大の学生が学ぶ「たたら製鉄ワークショップ」 ―日本の伝統的なものづくりを体験―

現代の製品作りでは生産効率が重要視される傾向にあります。一方、ものつくりには手間と多様なプロセスが欠かせないものです。伝統的なものつくりの想像を超えた手間と労力を体験し、ふだん接することのない価値観に触れることで、ものつくりを学ぶ現代の学生たちに、新たな視点が与えられるのではないか。そのような思いから、東京工業大学では2017年から、ものつくり体験による国際交流イベント「たたら製鉄ワークショップ」を開催しています。

第3回目となる今年の参加者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学から来日した9名の学生と、グローバル理工人育成コースouterに所属する東工大生10名です。日本文化とものつくりを学ぶ意味を考え直す、貴重な機会となりました。

たたら製鉄とは

たたら製鉄とは、砂鉄と木炭を原料に純度の高い鉄を得ることのできる日本の伝統的な製鉄法のことです。たたらという言葉はもともと「ふいご」を意味する言葉とされ、踏みふいごで鉄を吹くことからその意味が拡がり、その製鉄法全般をさして「たたら」と呼ばれています。現代の製鉄法に比較して手間もコストもかかるため、現在では日本刀の材料の供給や技術保存目的といった、ごく限られた範囲での操業が行われています。

第3回たたら製鉄ワークショップ

実習で知る製鉄の奥深さと匠の技

ペーパーナイフづくりを観察する学生たち
ペーパーナイフづくりを観察する学生たち

2019年7月20日、第3回たたら製鉄ワークショップが、千葉県千葉市若葉区の松田次泰刀匠の工房で開催されました。古刀と呼ばれるおよそ800年前の鎌倉時代の名刀の再現に挑んでいる松田氏は、千葉県の無形文化財保持者にも認定されている現代の名匠です。参加者には日本文化や職人によるものつくりに興味のある学生、材料系を専攻している学生が集まりました。

当日は、簡易たたら炉によるたたら製鉄の操業実習とたたら製鉄の玉鋼を材料とするペーパーナイフづくりの実習に加えて、松田刀匠から美術工芸品としての日本刀に関する講義を受け、鑑賞法を学びました。

ものつくり体験実習

たたら製鉄の操業実習

1.
耐火煉瓦を積み上げて簡易たたら炉を作ります。
2.
予熱のためブロワーで炉に風を送り込んで、木炭を燃やしていきます。第1回のワークショップではふいごを踏み炉に風を送りましたが、今回はスケジュールの都合でブロワーを使用しました。
3.
炉が十分に温まったら、砂鉄を炉に入れます。砂鉄は木炭の燃焼により一部が金属鉄まで還元されますが、残りは「ノロ」と呼ばれる溶岩のような酸化物融体になります。ノロにはできた鉄を保護する役目があり、適切な量と温度の管理が必要になります。木炭の消費量や炉の隙間から覗く光の色、ノロ出しをして排出されたノロの粘り気などから判断し、送風量や木炭の量を調整していきます。
4.
すべての砂鉄を入れ、木炭を燃やし切ると、炉から純度の高い和鉄を取り出すことができます。島根県奥出雲で操業されているたたら製鉄では炉体が粘土でできているため、ノロによる溶損も考慮に入れる等、さらに熟練の技が必要になります。

耐火煉瓦を積み上げて簡易たたら炉を作ります。

予熱のためブロワーで炉に風を送り込んで、木炭を燃やしていきます。第1回のワークショップではふいごを踏み炉に風を送りましたが、今回はスケジュールの都合でブロワーを使用しました。

炉が十分に温まったら、砂鉄を炉に入れます。砂鉄は木炭の燃焼により一部が金属鉄まで還元されますが、残りは「ノロ」と呼ばれる溶岩のような酸化物融体になります。ノロにはできた鉄を保護する役目があり、適切な量と温度の管理が必要になります。

木炭の消費量や炉の隙間から覗く光の色、ノロ出しをして排出されたノロの粘り気などから判断し、送風量や木炭の量を調整していきます。

すべての砂鉄を入れ、木炭を燃やし切ると、炉から純度の高い和鉄を取り出すことができます。島根県奥出雲で操業されているたたら製鉄では炉体が粘土でできているため、ノロによる溶損も考慮に入れ、さらに熟練の技が必要になります。

すべての砂鉄を入れ、木炭を燃やし切ると、炉から純度の高い和鉄を取り出すことができます。島根県奥出雲で操業されているたたら製鉄では炉体が粘土でできているため、ノロによる溶損も考慮に入れ、さらに熟練の技が必要になります。

ペーパーナイフ制作

和鉄は刀匠によって鍛錬され、薄い板状の鉄片に加工されます。学生たちはこの鉄片を手作りの鍛冶炉で加熱し、ハンマーでたたくことでペーパーナイフを製作しました。鉄を叩くときの音や響き、手に伝わる硬さや厚み、手応えの違いなど、熟練を極めた感覚を頼りに力加減を調整し、目指す形をつくる刀匠に対し、叩いても思うような形にならず苦労する学生たち。刀匠の技術の高さを実感しました。

学生たちによるペーパーナイフの製作

学生たちによるペーパーナイフの製作

日本刀に関する講義と鑑賞法

松田刀匠による、日本刀の持つ精神性や、小さな金属組織の織り成す刃文の抽象美についてのレクチャーを実施。実際に日本刀を手に取って鑑賞しました。

松田刀匠によるレクチャー

日本文化も異文化も学ぶ機会に

東工大生はホストとして、製鉄の手順や刀匠による説明を海外の学生に通訳する役割も担います。東工大生は事前にオリエンテーションを受け、安全面での留意点やたたら製鉄や刀に関する専門用語を日英2ヵ国語で学びます。

また、学生たちは今回初めて導入されたオンライン学習で、製鉄の歴史や和鉄の特徴などに関して約3時間に及ぶ講義を事前に受講しました。この試みにより、当日はたたら製鉄の実習や学生同士の交流に多くの時間を充てることができました。

当日は、実習後に行われた意見交換会も含め、ものつくりに関わる学生同士、多様なコミュニケーションを通じて理解を深め合うことができました。MITやハーバード大学の学生はもちろんのこと、東工大生にとっても、普段接する機会の少ない日本の伝統文化や技術について、改めて知り、考える、貴重な機会ともなりました。

昼食は松田家特製のカレー

昼食は松田家特製のカレー

ワークショップ体験を終えて

「製鉄の意味を再考する機会になった」

L. Lさん MIT Mechanical Engineering(学士課程3年)

L. Lさん MIT Mechanical Engineering(学士課程3年)

私の専攻では産業用の鉄鋼を多く扱っていますが、たたら製鉄ワークショップに参加するまで、鉄をつくることをアート(芸術)だと考えたことはありませんでした。しかし、今回、刀匠から直接、美しく個性的な日本の伝統工芸について学び、完全にパーソナライズされた手作業によるたたら製鉄を体験し、「鉄をつくる」ことについて改めて考えさせられました。

今回、私は、工学や工芸の意味することを実感するという、日本の伝統文化に触れる以上の体験ができました。両者の違いは、単に技術的な作業や理論的な計算にあるのではありません。工芸の価値は、職人技の素晴らしさと、個々の製品のわずかな違いこそが重要であるというところにあるのです。私はこれからの人生において、製品の個々の美しさを見出すという視点を忘れることはないでしょう。

たたら製鉄の伝統は、もっと知られ、引き継がれ、保存される必要があります。私はこの体験を多くの人々に語っていきたいと思います。

「伝統的なものつくりには、最適化された工程の美しさがある」

H. K.さん 工学院 経営工学系(学士課程2年)

H. K. さん 工学院 経営工学系(学士課程2年)

昨年に続いて2回目の参加です。当初、日本の伝統的なものつくりは、21世紀のものつくりに比べ、手間暇かけて質の高いものを作るという印象をもっていましたが、今は、そこには長い年月をかけて最適化されてきた工程の美しさがあるのではないかと思っています。

私の専攻する経営工学には、生産管理における最適化問題を扱う分野があり、ふだんは理論的に「最適」を議論しています。だからこそ逆に、「理論的には証明できなくても、うまくいく方法を見つけられることがある」という刀匠の言葉が印象に残りました。鍛冶の際の微妙な温度調整や焼入れの方法など、経験的に導かれる最適を垣間見られたことは貴重な体験でした。高度な技術を持つ職人さんが現代の日本にいらっしゃる素晴らしさを実感し、私自身も将来、日本の伝統や美意識の継承に何かしらの形で関わっていきたいと感じました。

日本の学生や留学生との交流も楽しい経験でした。今回できた繋がりを、これからも大切にしていきたいです。

「日本古来の考え方をアメリカの学生と共有」

T. T.さん 生命理工学院 生命理工学系(学士課程2年)

T. T. さん 生命理工学院 生命理工学系(学士課程2年)

「ああ…大屋根が…。もうダメだ。たたら場が燃えちまったら何もかもおしめえだ」

たたら製鉄といって私が思い出すのが、スタジオジブリの「もののけ姫」の中で、たたら場が燃える姿を見て男が口にした言葉です。この言葉で、たたら製鉄=当時の最先端技術が古代の人々の中で重要視されてきたことがよくわかります。

それに対して、現代の最先端の科学技術は人々の生活から切り離され、科学技術の重要性が一般に理解されていないところがあるように感じます。それはおそらく、古代の日本のものつくりにあった「三方よし=買い手よし、売り手よし(ここでは作り手よし)、世間よし」が、現代に引き継がれていないためではないでしょうか。

このワークショップで素晴らしい点は、伝統のものつくりの技術を体験できただけではなく、失われつつあるそのような日本古来の考え方も、アメリカの学生と共有できたことです。ともに最先端の科学技術を背負うものとして、現代の人々が誇りに思うような、「三方よし」の技術を世に発信していかなければならないと。そのような思いを新たにする機会となりました。

教員からのメッセージ

たたら製鉄ワークショップを支える教員たちはどのような思いをもって学生に接し、何を伝えたいのでしょうか。オンライン事前学習の動画を撮影した東工大内のオンライン教育開発室(OEDO)outerのスタジオで話を伺いました。

たたら製鉄を通して伝える、ものつくりの楽しさ、難しさ

ワークショップの目的

国際教育推進機構 太田絵里特任教授
国際教育推進機構 太田絵里特任教授

太田 たたら製鉄は20キロの炭を約5センチ四方に切ったり、レンガで炉を組んだりと多くの準備が必要です。汚れますし、火を使いますし、レンガや機材を運ぶのはとても重労働です。時間やお金、資源に効率を求める今の世の中の風潮と全く逆の作業です。何でも簡単に手に入る時代だからこそ、これから世界で活躍していく国内外の学生たちに、ものつくりには本来どれだけのプロセスが必要で、できたものの質がどのように高いかを理解してほしいと考え、このワークショップを企画しました。伝統的な価値観を知ることで、ものつくりをしていく上での新しい視点も得られるだろう、とも考えました。

小林 それはまさに、東工大の特長とも重なります。東工大ではものつくり教育の強化策として、2002年から「創造性育成科目」の中で、金属工学を専攻する学生たちにたたら製鉄を体験させてきました。現在は中断していますが、たたら製鉄体験は、ものつくりの面白さ、難しさを感じてもらうのに適したプログラムなのです。

物質理工学院 渡辺玄助教
物質理工学院 渡辺玄助教

渡邊 工大祭で実演しているのは、東工大の永田和宏名誉教授outerが考案した簡易たたらです。永田名誉教授は砂鉄という粉末状の原料を用いる特殊性に興味を持ち、たたら製鉄の研究を続けるとともに、約40年前、たたら製鉄のエッセンスを抽出した簡易的なたたら製鉄法を考え、実演を始めました。現在もそれを継承して実習を行っています。

たたら製鉄は、砂鉄などの原料を採取しそれをたたらで製錬し、できた鉄を鍛造により包丁に加工して、熱処理を加えることで刃物としての硬さと切れ味を与えます。金属工学で学ぶべきことが全て含まれ、原料から最終製品までの一貫したものつくりを体験できますので、ものつくりの楽しさを感じてもらうには最適だと思います。

学生は職人さんから鍛冶の技を学び、体験してみますが、もちろん思うようにはいきません。そこで職人さんがその技術を身につけるために、いかに長い期間修業してきたのかを実感します。東工大では卒業後製造業に進む学生も多いのですが、たたら製鉄の体験を通して、これから出会う職人さんや製造現場に関わる方々に敬意をもてるようになってほしいと思っています。

伝統技術を体験して

物質理工学院 小林郁夫准教授
物質理工学院 小林郁夫准教授

小林 たたらでつくる和鉄は、現在、日本刀をつくるためのみに使われています。刀は神事にもつながり、日本人の精神性とは切り離せません。松田刀匠による日本刀についての講義は、日本人にとっても外国人にとっても、日本文化の深い部分や精神的な部分の理解にもつながったと思います。

職人の技を体験する意義は、単に技術を学ぶだけではありません。伝統的な技術と、それによってつくられるものの歴史的・文化的な意味を知ることも、非常に大切なことなのです。それは理工系分野の学生にとって、日常的に触れる機会が少ない分野だと思います。それを知ることで、ふだん使わない新しい回路が開かれるでしょう。ものつくりについて、これまでにない新しい視点から考えるきっかけができると考えています。

渡邊 本格的なたたら製鉄では、10トンの砂鉄と12トンの木炭から2.5トンの和鉄ができます。簡易たたら炉では、70キロの木炭と20キロの砂鉄から、5キロ程度の和鉄ができ、最終的な製品になるとわずか2~3キロ程度しか残りません。現在の高炉法では、鉱石中の鉄分をほぼすべて絞り出すうえ大量生産が可能です。鉄は1キロ80円程度ですが、和鉄は1キロ約8,000円。一般の製品をつくる上ではコスト的に折り合いませんが、和鉄は不純物濃度が低いうえ、錆びにくく加工性もよいという特性があり、今では日本刀という高付加価値の文化財、美術工芸品の材料として用いられています。

また、たたらでつくる和鉄は、現代の製鉄法でつくる鉄と性質が異なります。和鉄にかかわる技術は失われたものが多くあり、現代の技術ではそのプロセスを再現できていません。材料系の研究においては非常に面白いテーマとなると思います。

太田 松田刀匠からは、日本刀は絶対に複製できないこと、多くの知識や技術、経験に基づいて作業しているが、最後の焼入れ(刃に粘土等を塗り火入れをして模様をつける)は経験があってもコントロールが難しく、神頼み的な部分があることをお聞きしました。刀匠のお話からは、実態に基づいた仕事の大切さ、確かな技術力に支えられる日本の誇りを感じました。

オンラインで事前学習

教育革新センター 森秀樹准教授
教育革新センター 森秀樹准教授

事前学習にオンラインを活用することの相談をいただき、渡邊先生による製鉄の歴史、現代の製鉄法とたたら製鉄の違いと工程、日本刀、実習の安全管理などのオンライン講義を作成しました。せっかく海外から学生が参加するのだから、座学は事前学習で終えてもらうことで、学生たちには当日現場でしか体験できないことに、より多くの時間を割いてほしいと思っています。教材は日本語・英語の2言語で作成。世界のどこにいても効率的に学べるメリットを感じていただけたのではないでしょうか。

ここで用いたedXというプラットフォームは、MITとハーバード大学が立ち上げたもので、現在、世界各地の大学がedXでMOOC(Massive Open Online Courses:大規模公開オンライン講座)outerを提供しています。東工大も2015年からMOOCの公開を始めています。

異文化交流を通じた学生の成長

渡辺玄助教、太田絵里特任教授、小林郁夫准教授

太田 東工大の学生たちは、関係者の日本語による話を英語で留学生に伝えるなど、熱心にホスト役を務めてくれました。

小林 刀匠の話はものつくりだけではなく、日本人の美意識、刀の歴史的位置付け、美術工芸にも及び、通訳も難しかったと思いますが、参加者がそんな世界があるのだと気づき、理解し、それぞれで感じたことを持ち帰ってもらえるとよいですね。

太田 日本人学生は日本文化を知らなかった自分にも気づいたようです。自国のことも理解しなければ、国際交流はできません。このワークショップでは「日本のことを話してください」と伝えていますが、過去にこのワークショップに参加したことがある学生は、たたらの手順やペーパーナイフづくりをより理解し、自分自身もよりよい作品を作り、MITやハーバード大学の学生に安全管理や鍛冶の作業を説明できるようになっていました。

渡邊 自国の文化を知っていることは意義のあることです。特にたたらのような日本で独自に発達した技術のことを語れると、海外でも興味を持ってもらえるでしょう。

今後に向けて

小林 たたら実習は大変なことで、楽しまなくてはとてもやっていられません。これから参加する学生たちにも、ぜひこの体験を楽しんでもらいたいです。

渡邊 材料分野以外の人に、このテーマの面白さを知ってもらえる機会があればいいと思いますし、知的好奇心を満たすコンテンツも充実させていきたいです。

来年も限られた実習の時間を充実させられるよう、オンライン教材を提供します。現在は世界で12,000以上のMOOCが公開されていると言われていますので、ぜひ他大学のMOOCも活用してみてください。

座談会が終わって

太田 国際交流を通じた、伝統的なものつくりの心を知るたたら体験は、新しいものつくりの発想を得られる機会になるでしょう。学生たちには、時間的に自由のきく今のうちに、さまざまな体験をしてほしいと思っています。また、安全管理や技術を初心者に伝えられるサポーターも育てていきたいですね。

渡邊 もっとものつくり体験をしてみようと思ったときには、ぜひ、ものつくり教育研究支援センターなどを活用してください。センターの技術職員の皆さんとの交流や、実際に手を動かしてものをつくる経験は、本当につくりたいものが出てきたときに、必ず役に立つことでしょう。

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2019年10月掲載