国際交流
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東京工業大学では、大岡山キャンパス周辺やすずかけ台キャンパス周辺を中心に東工大生専用の学生寮を13寮提供しています。大学が推薦する他機関の学生寮を含めると、おおよそ650名以上の学生が寮生活を送っています。そのうち約6割は海外からの留学生です。(2018年5月現在)
東工大の留学プログラムに参加する学生や国費留学生など、新入留学生専用の学生寮も両キャンパスへのアクセスのよい場所に3寮あります。男子専用、女子専用、家族で暮らせる部屋がある寮や、1人部屋や2人部屋のほか、プライバシーを保ちながら他の学生と日常的にコミュニケーションが取りやすいユニット形式の寮も提供しています。
2017年以降、女子寮の洗足池ハウス、個室形式の緑が丘ハウス、ユニット形式の南品川ハウスが新しく開設されました。この3つの寮に住む日本人学生と留学生に寮生活のメリットや寮生活の様子などについて聞きました。
この記事は2018年に行われたインタビューをもとに制作しました。2018年10月現在の情報です。
トム・トサワト:ウェブサイトで寮の費用を見て最初は高いと感じました。しかし、寮近辺の家賃を調べるうちに、立地、設備、光熱費、Wi-Fi、電化製品、冷暖房完備など、総合的に考えるととてもお得であると思いました。入寮の際は、スーツケース1つで来ました。
リュウ:学士課程は八王子の他大学に通い、賃貸アパートに入居していました。修士課程で東工大に移る際、都心の住居費が心配でしたが、緑が丘ハウスはキャンパスに隣接しており、交通費を含むトータルの支出を試算したところ、それまでとあまり変わらず安心して寮を選択しました。
小畠:私は住居費を自分で払っているので、生活費の安さは重要です。また、寮ではチューターとしての活動もできるので金銭的にも助かっています。
イレーネ:以前住んでいたスイスでは、アパートを友達とシェアしていました。そこに比べて寮費が半分ですみます。
東工大の留学生、日本人学生共に寮を選ぶ理由として、第一に経済的メリットを挙げました。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の「平成28年度 学生生活調査結果」によると、国立大学(昼間部)の寮生の住居・光熱費は平均23万2,200円/年に対し、下宿・アパート・その他の平均は49万2,900円/年と、学生寮のほうが1ヵ月あたり2万円強安くなっています。
寮では生活に必要な備品や家具、電化製品などが共有で使えますのでそういった費用も抑えられます。
山下さん(日本) 南品川ハウス
小畠:学士課程の4年間は千葉の実家から通っていました。留学したスウェーデンで充実した寮生活を体験したこともあり、キャンパスからアクセスの良い寮を選びました。洗足池が近くにあり、散歩したり、駅近くのお店で買い物したり気晴らしにもなります。
山下:埼玉の実家からキャンパスまでは約2時間もかかりますが、学士課程時代は何とか頑張って通学しました。研究室では実験などで帰りが遅くなることもあり、修士課程への進学を機に、寮に入りました。南品川ハウスは、大井町駅に近く、JRも通っているので都心へのアクセスも良いです。
イレーネ:大岡山キャンパスへは歩いて通うことができ、最寄り駅にも近いので留学生にもとても良い場所です。
リュウ:緑が丘ハウスは自由が丘も徒歩圏内で、渋谷、新宿へのアクセスもよく、生活する上でとても便利です。
キャンパスや都心へのアクセスの良さも大きなメリットです。土地勘のない学生や留学生にとって利便性の良い立地は重要です。
田端:設備が思いのほか充実しているので何一つ不自由なく暮らせています。青森にいる親がお米を送ってくれるので寮の炊飯器でお米を炊いて、近くのスーパーで野菜や肉を買って炒めて食べたりしています。
トム・トサワト:最初、個室が狭いと思いましたが、コンパクトな作りになっているので使い勝手が良く慣れてきました。スパイシーな料理が食べたくて、ユニットの共有キッチンで自炊しています。
山下:定期的に外部の清掃会社の方がきて共有スペースの掃除をしてくれます。個室は共用の掃除機で各自掃除します。
田端さん(日本) 緑が丘ハウス
ユニット内のキッチン(南品川ハウス)
トム・トサワトさん(タイ) 南品川ハウス
寮やユニット形式の共有スペースには、炊飯器、電子レンジ、洗濯機、乾燥機などが、居室にはベッドやカーテン、机、椅子、電気スタンドなど必要なものが備わっています。緑が丘ハウスには横になってくつろげる畳のスペースや、充電コンセントのある机が並ぶ学習スペース、洗足池ハウスにはTVが設置されているラウンジ、南品川ハウスには多目的に使える部屋のほか館内にソフトドリンク飲料の自動販売機が設置されています。
共有スペースの清掃は外部契約会社が行いますので、個室やユニット形式の共有スペースのみ学生が自分たちでルールを決めて協力しながら行っています。
小畠:洗足池ハウスでは、ベランダに洗濯物を干すことは禁止されています。女子寮ということもあり万全の対策をとっているのではないかと思います。両親も安心しています。
イレーネ:洗足池ハウスの場合、基本的に男性は入ることができません。また、出入り口に加えて、寮内の共有スペースにも防犯カメラが設置されています。管理人さんは11時から19時まで寮にいて出入り口を監視しています。管理人さんの居ない日は、指定された緊急連絡先に連絡を取れば対応してもらえるシステムになっています。
小畠さん(日本) 洗足池ハウス
イレーナさん(イタリア) 洗足池ハウス
女子学生や、離れて暮らす留学生の保護者も安心できる防犯体制となっています。
田端:東工大の研究室は、学生1人に1つの机とPCが用意されています。普段、研究や大学での勉強は研究室で行い、専門分野以外で調べものをする際には図書館を利用しています。友達は研究室で知り合うことが多いです。
自分にとっての寮は、研究室で作業したあとに安心して休める場所です。共有スペースで数人の寮生が一緒にゲームをしている時もあります。交流したい人、静かな環境で休息したい人、どちらの人にも合う環境です。
トム・トサワト:ユニット形式の寮に居ますが、シェアメイトと話したい時は共有リビングで、1人で集中したい時は個室で過ごすなど、その時々で居場所を選びます。
イレーネ:寮に入る前は、寮は騒々しいというイメージがありました。日本での生活に慣れたら1人で静かに過ごせるアパートに引っ越すつもりでしたが、寮での生活はとても静かで落ち着いています。研究室でやることが多く寮で過ごす時間はあまりありませんが、疲れて帰ってきた時に、広い共有スペースで休んだり仮眠をとったりすることもあります。
個室の様子(南品川ハウス)
リュウ:研究室から寮までの距離も近いので、寮に帰って昼食を食べている時に管理人さんが声をかけてくれます。いつも気にかけてくれていて安心感があります。
一般的な学生寮のイメージは、国際交流などのイベントやパーティーが盛んで、学生同士の交流が活発な場所かもしれません。
3つの学生寮に住む東工大の学生達は、寮は安住の場所、研究室やキャンパスは学修や研究に勤しむ場所とし、両者を上手く使い分けられる環境にあります。
リュウさん(中国) 緑が丘ハウス
リュウ:東工大の寮はダイバーシティーが非常に進んでいると思います。緑が丘ハウスでは9月に新しく中国、タイ、ベトナムのアジアからの学生に加えて、米国やドイツ、フィンランドなど欧州から新入寮生を迎え入れました。緑が丘ハウスでは修士課程と博士後期課程の正規学生の他、短期の留学生などさまざまなバックグラウンドの学生が住んでいます。
山下:夏休みに帰省する学生から各国のお土産をもらうこともあります。専門科目外の教養などで同じ科目を受講しているユニットのシェアメイトとは、情報交換をしています。そんな時は同じ大学の学生が住む寮ならではのメリットを感じます。
小畠:洗足池ハウスは、日本人よりも海外の国や地域の出身者のほうが多く、多様な環境で生活できる貴重な体験です。
トム・トサワト:ユニット内での生活はまさに異文化体験の場です。自分はタイ出身なので日本語と英語を日常生活で学ぶこともできます。シェアメイトは学士課程、修士課程、博士後期課程と3人とも異なっているので、研究室の情報交換や、学士課程の学生に自分の経験を伝えアドバイスすることもあります。
イレーネ:昨年は各自料理をつくってハロウィーンパーティーをしました。普段でも、夕食の後にデザートを持ち寄りTVルームで集まって、他愛もない話をしています。
田端:こんなに海外からの留学生が多いとは思っておらず、最初は驚きました。寮内で、日本人学生と会うことが少なく、逆に寮の先輩の留学生から声をかけてもらうこともあります。英語の勉強にもなります。
寮は、日常的に多様な価値観や多文化の中で、自然と共生していく環境にあるようです。
ハロウィーン・パーティー(洗足池ハウス)
トム・トサワト:各種手続きの書類は日本語が多く、分からない時は日本人のシェアメイトが助けてくれます。
山下:南品川ハウスでは、1つのユニットに必ず留学生が入ると聞いています。私のユニットにも中国人学生がいて、大学院への進学手続きの際には手助けしました。サポートできる人が各ユニットにいるので留学生は心強いと思います。
小畠:入寮の際、食器やハンガーなど細かいものは各自持参します。留学生はどこに行けば購入できるか最初は分からないので、そんな時同じ寮の日本人が教えてあげます。
イレーネ:寮に入った時、同じユニットに中国人のチューターが住んでいました。彼女が食事に誘ってくれたり、東京を案内してくれたり、週末に外出の機会を作ってくれました。留学生は最初不慣れなことばかりなので、同じ寮の仲間からこのようなサポートが受けられるのはとてもありがたいことです。また、寮には他の国や地域からきた留学生もいるので、お互いに助け合い、気軽にコミュニケーションがとれます。
山下:地方出身の日本人学生も、寮に入れば友達を見つけやすいと思います。寮では先輩にサポートしてもらえるので、1人暮らしの孤独をあまり感じることもないです。
東工大では、入寮オリエンテーション、留学生が日本に居住する際の各種手続き、買い物などの日常生活を手助けする学生、「チューター」が活躍する寮があります。
チューターは寮に住み、時には管理人と入居する学生の仲立ちとして、学生の目線で快適な寮生活をサポートします。チューターは欠員が出た際に募集し、指導教員の推薦状を含む書類選考と面接で決定されます。チューターの小畠さんとリュウさんが、チューターの活動について語りました。
小畠:共有の電子レンジは、オーブンやスチームもできる多機能モデルでした。ただし、使用マニュアルや機器の表示が日本語で書かれていたので留学生は使い方が分かりません。電子レンジが壊れたこともあり、管理人さんに相談して、英語表記の説明書を作成しました。このように、チューターは寮に住む学生の要望をくみ上げて快適な寮生活ができるような手助けをすることもあります。
リュウ:寮のチューターは、慣れない振込やATMの使い方など、日常生活をサポートすることが多いです。また、食器などを購入するため、100円ショップに連れていくこともあります。
学生寮の管理や留学生の生活支援を担当する学生支援課生活支援グループに、寮の概要、入寮申請、寮の運営、寮生活のメリットなど、学生寮について話を聞きました。
一部の寮を除き、留学生比率が高く多国籍な環境での寮生活が体験できます。東工大では、学士課程の日本人学生の7割以上が関東出身者で、片道2時間以上かけて通学する学生もいます。そのため、研究室で過ごす時間が増えていく修士課程以降に寮に入る学生も少なくありません。また、入居期間が1、2年の寮もあり、学士課程のうちは実家から通い、修士課程のタイミングでキャンパス周辺の寮に入るケースもあります。
ユニット形式の寮で入居者を割り振る際は、できるだけ日本人学生と留学生が同じユニットになるように調整するほか、それぞれの出身国の関係に配慮するようにしています。
共同生活を送る上で基本的なルールはあります。例えば共有スペースに私物を置かないとか、指定された場所での喫煙など。その他の生活上の決め事は、寮ごとに管理人やチューターが中心となって相談しながら決めています。例えば、緑が丘ハウスでは、共有のキッチンに隣接している個室もあるので、夜11時以降はキッチンでは静かに過ごすなど、寮独自のルールがあります。
セキュリティーに関しては、寮の状況に応じて記録用として防犯カメラを設置しています。火災探知機や消火器などの点検も定期的に実施しており、避難経路の分かる地図も共有スペースに表示しています。女子寮では、安全に関してさまざまな考えをお持ちの保護者の方にも配慮して、寮内は女子しか入ることができません。
学生支援課生活支援グループでは、全寮の設備の修理や備品の購入などの窓口となり、常に快適な寮生活が遅れるようにサポートしています。
入寮は、基本的に申し込み順に受け付けています。まず東工大のWebサイトにある寮の情報をご覧いただき、入居に該当するかを確認いただいた上で、募集期間中にオンラインで申込ができます。一般的な賃貸契約に比べて簡略化されており、特に遠方や海外の学生にとって便利です。
留学生が適切な寮を見つけられなかった場合は、民間の宿泊施設情報を提供する東工大ハウジングサポートを紹介しています。
入寮する際、特に留学生からは空港からのアクセス方法や所要時間などの質問を受けることが多く、スムーズに寮に入ってもらえるような案内を心がけています。また、持参すべき物の問い合わせもありますが、生活する上で必要なものは基本的に揃っていますので、入寮してから買い足すことをアドバイスしています。
寮は基本的な設備や家具、備品が備わっているので、総合的に考えると家賃は割安です。特に留学生がアパートやシェアハウスを借りる場合は、契約の手続きに苦慮することが少なくないと聞いています。その点、寮はオンラインで簡単に申し込みが出来ます。
プライバシーの面では、個室を一歩出ると常に他の学生がいる環境ですので、それをメリットと考えられる学生は寮生活を楽しむことができると思います。大学の研究室の他、キャンパスを出た場所でこれだけ多国籍な環境での生活体験はとても貴重ではないでしょうか。日本に居ながらにして、多様な考え方や生活様式などを目の当たりに体験できる環境で、学生時代の短い期間を過ごしてみるのもいいかもしれません。
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2018年10月掲載