国際交流

日米の大学発イノベーションを語る

Tokyo Tech ANNEX Berkeleyに期待すること

日米の大学発イノベーションを語る Tokyo Tech ANNEX Berkeleyに期待すること日米の大学発イノベーションを語る Tokyo Tech ANNEX Berkeleyに期待すること

世界最高の理工系総合大学を目指す東京工業大学は、海外の大学・企業と共に、国際的な教育プログラムや国際共同研究を推進し、東工大の教育・研究の質を高めていくことを目的に、海外拠点「Tokyo Tech ANNEX」(東工大アネックス)を設置しています。タイの「Tokyo Tech ANNEX Bangkok」、ドイツの「Tokyo Tech ANNEX Aachen」に続き、2021年10月、「Tokyo Tech ANNEX Berkeley」を米国カリフォルニア州バークレー市に開設しました。

Tokyo Tech ANNEX Berkeley開設を記念して、バークレーで活躍している学術・産業界のイノベーションに精通したジェームス・M・リジー(James M. Lisy)氏とジョン・メツラー(Jon Metzler)氏の2人に、科学技術の発展に大学がどのように貢献できるかについて語ってもらいました。

技術革新によって加速した研究・国際協働の進化

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のジェームス・M・リジー名誉教授は、近年目覚ましく発展した科学技術が、大学の研究や研究者間の国際協働のあり方に革命をもたらしたことに驚きを禁じ得ないと言います。

ジェームス・M・リジー イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 名誉教授ジェームス・M・リジー
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
名誉教授

コンピュータの出現により、以前は手作業で行っていた研究データの処理や操作、分析が効率よく行えるようになっています。同名誉教授は「コンピュータがさらに進化しデータの収集も可能になったことで、研究手法がより高度に、より緻密になりました。これは、とても重要な進展で、現在ではとてつもない計算能力を持つようになっています。スーパーコンピュータは非常に複雑で、多次元の問題解決に取り組んでいます。モデルを用いた大気科学や、恒星である太陽の大気の研究などができるとは以前は想像すらできませんでした。このような例は枚挙にいとまがありません」と、研究現場から見た技術革新の変遷を熱く振り返ります。

化学研究分野への恩恵

イオンクラスターの分光法が専門のリジー名誉教授。自身の研究分野でもコンピュータがもたらしたナノテクノロジーの進展は目覚ましいといいます。例えば、20~30年前は不可能であった、原子レベルの高分子構造を分析できるようになりました。レーザー技術や結晶学(結晶の構造や特性を研究する学問)も発達し、化学分野の進展に大いに寄与しています。

また、コンピュータネットワークの発達も重要な要素です。「研究室間だけではなく、組織を超え、全世界をまたいだ情報のやりとりを可能とするインターネットの利用状況を考えると、この影響は極めて衝撃的です。大学や学術機関の活動にも大きく影響しています」。

コンピュータの発展がもたらした影響はこれにとどまりません。実験を行う研究者と理論研究を行う研究者との交流による相乗効果を高める側面があるといいます。「われわれが研究する課題はとても高度でかつ複雑です。実験を行うこと自体で答えの一部を得ることができますが、一方で、コンピュータシミュレーションと計算を行うことにより、その課題のもう一つの側面が分かってきます。それらを組み合わせることで相乗効果が生まれ、研究対象が非常に複雑なシステムであっても全体像に近づくことができます」。

国際協働が不可欠

ドイツ・ボーフムのルール大学で行われた共同研究ファンド獲得祝賀会(右からリジー名誉教授、研究コンソーシアムメンバー)
ドイツ・ボーフムのルール大学で行われた共同研究ファンド獲得祝賀会(右からリジー名誉教授、研究コンソーシアムメンバー)

こうした状況を背景に、リジー名誉教授は、自身の研究分野の分子化学はもちろん、ナノテクノロジーや気候学なども含むそれ以外のあらゆる科学分野において、研究を前進させるには国際連携が不可欠だと力説します。科学技術の進展は米国のみならず世界的に追求されています。「高い水準の開発を行ってきた欧州や日本でも、科学技術の大きな革新が生まれています」と指摘します。例として、青色発光ダイオードを発明しノーベル化学賞を受賞した中村修二教授を挙げました。

国際協働が必要だという考えは、リジー名誉教授が、日本を含むアジアや欧州各国で優秀な科学者と過去数十年にわたって共同研究を行い、大きな研究成果を生み出すにつれてより強くなりました。現在は、東工大の科学技術創成研究院の藤井正明教授と共同で、細胞においてカリウムイオンを透過させるカリウムイオンチャンネルの選択性について研究を行っています。

科学技術にかかる設備投資は重要

言うまでもなく科学技術の発展には財政的サポートが不可欠です。とりわけ、先端技術の開発には科学技術研究設備への投資が重要です。リジー名誉教授はイリノイ大学の例を挙げ、「化学科は、機械、電子機器、コンピュータをはじめ、核磁気共鳴装置、X線回析装置などの研究支援機器を充実させるべく設備投資を活発に行っている」と説明します。

日本や欧州でも、レーザー技術、生体分子、ナノテクノロジーなどの研究分野で研究設備への投資が行われています。例えば、空気清浄度が高いクリーンルームや、温度が厳密に制御された実験室も備えられ、様々な先端技術の研究が可能になっていると言います。

研究連携を推進する東工大

東工大WRHIの特任教授に着任したリジー名誉教授
東工大WRHIの特任教授に着任したリジー名誉教授

コンピュータネットワークの発展は、科学技術の発達だけではなく、教育や研究の国際化にも寄与しています。「教育と研究を通じて、大学が世界的な存在感を確立できるチャンスが生まれていますし、おそらく今後もこの傾向は増して一般的なことになっていくでしょう」と、リジー名誉教授は指摘します。
東工大も例外ではありません。同名誉教授は、東工大のWorld Research Hub Initiative(WRHI、ワールド・リサーチ・ハブ・イニシアチブ)の特任教授を務めており、東工大のこれまでの活動を目の当たりにしています。WRHIは世界中から研究者を招へいし、学際的な共同研究を推進しています。「東工大が国際協働を行い、それを通じて世界で存在感を示すという考え方は、大学全体に深く根付いています。将来には、大きな成果を得るでしょう」と、同名誉教授は語ります。特に、一国だけでは対応できない世界規模の環境危機に直面する中、持続可能なエネルギー開発や、限られた資源の有効活用などの科学技術で東工大は国際協働が可能です。

最後に、米国の大学や産業との連携促進を主眼とする東工大のANNEX Berkeleyについて聞きました。同名誉教授は、「成功するカギは、研究や技術の関心分野が同じ、または近い米国の組織や機関を特定できるかどうかにかかっているでしょう」と助言しました。

Profile

ジェームス・M・リジー教授は、1974年にアイオワ州立大学で学士号を、1979年にハーバード大学で博士号を取得しました。1981年からはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で教鞭をとり、中性および荷電分子クラスターにおける分子間相互作用の研究に従事し、また、化学科の副学科長およびサービスファシリティのディレクターを務めました。2011年、早期退職し、アレクサンダー・フォン・フンボルト・フェローとしてドイツのルール大学ボーフム校に9ヶ月間滞在しました。その後、アメリカ国立科学財団で化学部門のプログラムオフィサーを5年間務めています。2011年以降、フランス、日本、デンマークの大学等で客員教授に迎えられており、活発なコラボレーションを行っています。現在はハワイ島に居住しています。

ベンチャー育成における大学の役割に変化

カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスで講師を務めるジョン・メツラー氏は、同校のベンチャー育成組織「スカイデック」でメンターとしても尽力してきました。教員や学生の革新的な研究結果を事業化するために、大学がどのような支援を行ってきたかを熟知しています。

ジョン・メツラー カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス 講師ジョン・メツラー
カリフォルニア大学バークレー校
ハース・スクール・オブ・ビジネス 講師

起業を考える学生たちは、世界が環境危機に直面する中、「持続可能性」や「責任ある事業活動」に高い関心をもっています。その一例が、電気自動車の「持続可能性」です。電気自動車は、二酸化炭素を排出しないエコカーとして評価が高いものの、バッテリーに使用されるリチウムの採掘には大量の水を必要とするなど、環境問題も指摘されています。メツラー氏は、「リチウムの採掘、生産、リサイクルを含めると、電気自動車の環境負荷は高いともいえるでしょう。学生たちは製品の環境負荷を総合的に捉えることに関心があるのです」と説明します。

大学発の技術革新をもっと容易に

近年、各国の大学による研究が技術革新を牽引してきました。例えば、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」は、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授らによって開発されました。また、東工大の大隅良典栄誉教授は、細胞が自らの一部を分解する仕組み「オートファジー」のメカニズムを解明しています。

しかし、ここにきて大学の役割に変化が見られるとメツラー氏は指摘します。「多くの大学で、『大学の使命は、人々の交流を促し、イノベーションを顕在化させる支援をすること。それに加え、事業化を妨げないことだ』という認識が広がっています。学生や研究者が革新的なアイディアを出してきたら、大学での研究成果の利用にかかる障壁を設けずに、いち早く世に出すことが大学の利益となるのです。ただ、放任しすぎると、大学発の技術革新について全体像が把握できなくなるため、大学には絶妙なバランス感覚が求められます。優秀な人材を集め彼らが成功するように支援すること、卒業生が後輩たちの雇用の場を創り出すような循環を生み出すことが大学の仕事です。自立・持続したコミュニティづくりが大学発イノベーションの成功の目安になります」。

「アクセラレーター」としての大学の役割

ジョン・メツラー

ソフトウェアを手がける大学発ベンチャーは、短期間で企業として成立しやすいことから投資が集中する傾向があります。メツラー氏も、「投資先として楽な案件に資金が循環するサイクルが存在します。だから、ソフトウェア関連が資金を呼び込むのです」とその背景を説明します。
一方、化学、材料科学、スマート農業、生命科学、半導体などの分野は、研究成果を市場に出すまでに長い年月がかかり、投資を受けることが困難な場合もあります。ここに大学の果たす役割があるとメツラー氏は強調します。「一般的に言って、スカイデックのような大学発ベンチャー向けファンドは、従来の投資家が投資を躊躇するような分野に資金を回せます。例えば、ローレンス・バークレー国立研究所(米国エネルギー省所管の研究所)が関与する投資プログラムは、事業化に時間を要する、クリーンテック分野の技術革新に力を入れています。これは、ベンチャー育成やアクセラレーター(起業直後の事業成長に向けた支援組織)としての、大学の役割の一つです」。

また、米国政府の研究開発支援にも顕著な傾向が現れています。「米国政府は、技術革新に向けて巨額の研究資金を提供していますが、興味深いことにその大部分がアメリカ国立衛生研究所から拠出されています。つまり、長期間の投資が必要なヘルスケア関連の研究に、政府から資金が流れているのです」。

新分野を開拓するシリコンバレー、日本のベンチャーも引きつける

シリコンバレーは長年、新しい分野を切り開いてきました。「例えば、ネットワーキングや検索、解析などの技術は、いずれも多くの産業の発展に寄与しています。今、投資を獲得しているのは『ヘルスケアとデータ』。つまり、ヒトの体に関するデータを集めて健康についての知識を深める解析技術です」と、メツラー氏は近年の傾向を紹介します。

シリコンバレーは、資金調達を模索する世界中のベンチャー企業を引きつけることでも知られています。その中で、日本からのベンチャーとしては、株式会社アストロスケール(宇宙ごみを回収する技術の開発・回収サービスを展開)、シンバイオ製薬株式会社(希少疾患や難治性疾患の薬を開発)、株式会社Preferred Networks(機械学習・深層学習を専門)などがメツラー氏の印象に残っています。

東工大が有する活発な起業家コミュニティ

ジョン・メツラー

メツラー氏は日本に5年間滞在した経験があり、日本のビジネスについても専門知識があります。2021年3月に開催された「東京工業大学ベンチャーフェスティバル」では基調講演を行い、東工大の活気ある起業家コミュニティについても言及しています。

また、130を数える東工大発のベンチャー企業の多さにも、「東工大が、独創的で興味深い研究をソフトウェアに限らずハードウェアについても数多く行っている」と感銘を受けたそうです。東工大については、「学生と産業界や社会とをつなげるコミュニティを積極的に作っており、『長期的に意義のある社会価値を提供』できる可能性を秘めている」と語りました。

Profile

ジョン・メツラー氏は、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)ハース・スクール・オブ・ビジネスの講師として、技術市場における競争優位性を専門とし、学部およびMBAにおいて国際ビジネスについて教鞭をとっています。また、UCバークレー日本研究センターのアソシエート・ファカルティでもあります。また、バークレーにあるスタートアップのためのアクセラレーター「Berkeley Skydeck」のメンターも務めています。

益一哉学長からごあいさつ

Tokyo Tech ANNEX Berkeleyについて

2021年10月、北米における本学の拠点として、日本学術振興会サンフランシスコ研究連絡センター(米国カリフォルニア州バークレー市)内に「Tokyo Tech ANNEX Berkeley」を開設しました。

本学は、これまでも、北米の著名な大学と全学協定を締結し、研究者や学生の交流を行ってきました。Tokyo Tech ANNEX Berkeleyでは、その立地を生かし、バークレー、近隣のシリコンバレー地区をはじめとした米国西海岸地区の大学・研究機関・企業等との交流を深めつつ、北米全体に向けて共同研究や学生交流等の活動を推進していきます。

SPECIAL TOPICS

スペシャルトピックスでは本学の教育研究の取組や人物、ニュース、イベントなど旬な話題を定期的な読み物としてピックアップしています。SPECIAL TOPICS GALLERY から過去のすべての記事をご覧いただけます。

2021年10月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email : pr@jim.titech.ac.jp