教育

学生たちの人工衛星プロジェクト

講義「機械宇宙プロジェクトA」の学生チームが2013年、超小型人工衛星モデル世界大会で優勝しました。

「機械宇宙プロジェクトA」は当時、工学部機械宇宙学科により開講されていた科目です。本学では、2016年4月より、学部と大学院が一体となって教育を行う「学院」が創設されました。そのため、機械宇宙学科では、2016年4月以降の新規学生募集は行っていませんのでご注意ください。

教育体系の移行 | 組織一覧

チャレンジのはじまり

“CanSatの新しい大会が開催される。”その話を聞いた機械宇宙学科の川口さんは、後輩たちに早速参加を呼びかけました。

CanSatとは、ジュース缶サイズの人工衛星モデルのこと。機械宇宙学科の3年生が受講する「機械宇宙プロジェクトA」では、学生たちがCanSatの設計・制作・実験という一連のプロジェクトを遂行することが講義のテーマとなっています。

そのCanSatの技術を競う大会として、「ARLISS」があります。「ARLISS」は A Rocket Launch for International Student Satellites の略で、超小型衛星開発の技術実証の場として1999年から毎年開催されているイベントです。世界中から学生チームが集まり、各々が製作した衛星をロケットに搭載し、実際に飛ばしミッションを遂行させます。
「ARLISS」はCanSatをロケット内部に搭載し、打ち上げ、上空4000mでロケットから衛星を放出し、その 降下中および着地後に各自で考案した実際の衛星運用を模擬したミッションの成果を競う国際コンペティション「Mission Competition」を開催しています。これまでも東工大の学生はARLISS Mission Competitionに出場してきました。

2013年から始まる新しい大会は、「AXELSPACECUP」。AXELSPACECUPはARLISSとは別の大会ですが、ARLISSで実探査ミッションに必要な技術を実証できたかを、プロの衛星設計者(AXELSPACE社、JAXA、大学教員等)が審査します。衛星の製作に要する技術だけではなく、ミッションの科学的背景が重要視されます。

ARLISSのMission Competitionに参加するためには、まず国内予選を勝ち抜く必要があります。川口さんは次期3年生に声をかけ、講義が始まる3か月前の1月から、8月初旬に開催される国内審査をめざし、チームは動き始めました。

ミッション:TITANIKU計画

東工大のチームが設定したミッションは、土星の衛星「タイタン」の探査。タイタン大気中に超小型衛星を150機投下、降下中に気象データを取得し、着地後にパラボラアンテナで上空の雲をスキャニングするというものです。


TITANIKU MISSION

このミッションを遂行できる衛星を製作し、地球上で打ち上げ、降下、観測の一連のプロセスを実証することが目的となります。開発チームは「TITANIKU」と名付けられました。

チームは、3年生を中心としたメンバー約10名。4年生がメンターとして参加しています。設計にあたっては、構造部材の強度、電子回路、メカトロニクス、ロケット打ち上げや放出時の振動・衝撃耐性、などあらゆる知識を動員します。プロジェクトの経過を担当教員に定期的に報告し、アドバイスをもらいます。厳しいアドバイス・叱咤激励も多々あったとか。教員や先輩の助言を活かし、試作機をつくって、また、壊して、という繰り返しで、メインフレームだけで20個は試作しました。


CanSat製作中

8月の国内審査では、実際にCanSatを気球に乗せて運び、上空50mから地上へ落とします。落下する過程でパラシュートがうまく開くか、降下中も観測ができているか、着地後、地表での挙動はどうか、GPSの取得・無線通信はできているかなどを審査されます。この試験で動作を正常に実施でき、ARLISSでも十分に動作できると判断され、TITANIKUは世界大会へ日本代表として出場することになりました。

ARLISS Mission Competition

2013年9月8日~9月13日にアメリカ合衆国ネバダ州ブラックロック砂漠で今年の「ARLISS」世界大会が開催されました。大会は二つのコンペティションに分かれており、合わせて7か国、22チーム、約150名が参加しました。

Mission Competitionでは、参加者が自由にミッションを設定し、その独創性、科学的意義とミッションの達成度を競います。

TITANIKUのミッションは以下のように予定されていました。

3メートル長の小型ロケットにCanSatを搭載し、上空4000mまで打ち上げ

ロケットから放出後パラシュートを開き、降下。
降下中にCanSatのセンサーは気圧、温度等の気象データ、GPSなどを取得し地上に無線で送信。

Cansatの着地を内部の加速度・ジャイロセンサーにより判定。
地表に着地後、水平姿勢を保つよう制御しながら、可動式のアンテナを開く。
姿勢制御を常に行いつつ、地上の任意の場所から電波を送り、
CanSatのアンテナがその電波を探知し、捕獲。

技術交流会 動作説明用PV

与えられた打ち上げのチャンスは2回。その中で、想定した動作を完了しなければなりません。

2013年9月9日:1回目のフライト

1回目の打ち上げは、降下の際パラシュートの紐などが機体に絡み、動作に問題が発生。失敗に終わりました。 2回目の打ち上げは2日後。チームは夜を徹しての調整と修正・設計変更に取り組みました。

2013年9月11日:2回目のフライト

2回目の打ち上げは、大成功。予定したミッションを完璧に遂行しました。


コスタリカのチームと記念写真

最終日の結果報告会を経て、参加者全員による投票で順位決定が行われました。TITANIKUはミッションの遂行完成度、ミッション構想、CanSatに可動式パラボラアンテナを搭載した独創性・面白さなどが評価され、Mission Competition出場団体全11チームの中で見事、優勝を果たしました。

アメリカでの空き時間には、審査員の所属するNASAのJPLを見学しました。火星探査機モデルや実験場を実際に見ることができたのは素晴らしい経験でした。

およそ1か月後、「AXELSPACECUP」の最終審査会が開催され、TITANIKUはここでも優勝を勝ち取りました。単なる衛星モデルとしてではなく、実際の惑星間探査ミッションに通用するCanSatの設計、開発、動作の正確性が求められるコンペティションでの価値ある受賞でした。

最高の成績を収めたTITANIKUは、次回の参加者に向けてのプレゼンテーションと、引き継ぎ資料の準備中です。年末から年明けには説明会が開かれる予定だそうです。チームが動き始めてからちょうど1年。跡を継ぐ後輩たちは、どんなアイデアと技術を見せてくれるのでしょうか。

太田さん(プロジェクトマネージャー)

CansSatをつくるにあたり、実探査ミッションを想定したミッション構想、設計、製作、動作試験、打ち上げまで一連のプロジェクトの流れを経験できました。次は本物の小型衛星のプロジェクトに関わってみたいです。

上田さん

ものつくりは一人でもできるけれど、プロジェクトとして、みんなで練って、遂行した経験は大きいです。チームでものをつくることの楽しさと難しさを感じました。

川口さん (メンター)

座学だけではわからないシステム開発の醍醐味を味わえました。これは実際にやってみないとわからないことです。また、今年はメンターとして参加しましたが、学年の枠を超えたコミュニケーションをとれることは意味があったと思います。

倉重さん

プロジェクトに関わったことで、東工大だけではなく、世界の航空宇宙関係の仲間ができました。


後列 左から 小沢尭也、中嶋駿、高橋正人、倉重宏康
前列 左から 山村悟史、安部拓洋、上田直樹、太田佳、宮坂篤史

TITANIKU メンバー

機械宇宙学科3年

太田佳
(プロジェクトマネージャー)

安部拓洋

上田直樹

上原大暉

小沢尭也

倉重宏康

高橋正人

宮坂篤史

山村悟史

機械宇宙学科4年

川口健太(メンター)
川口健太(メンター)

中嶋駿(メンター)
中嶋駿(メンター)

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2013年12月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp