教育
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東京工業大学では、理工系の専門力の強化とともに英語力・コミュニケーション力の強化に力を入れています。
英語力の向上に近道はありません。できるだけ早く始め、継続することが重要です。東工大では、授業、自習、試験、留学を学生のレベルに合わせて組み合わせて履修できるメニューを充実させています。
なかでも、グローバル理工人育成コース(グロ理)では、国際性を高めるプログラムを系統的に学べるようになっています。グロ理の修了生3名がどのように英語力・コミュニケーション力を向上していったかを事例に、英語力を高め、国際的な場で活躍するための東工大の取り組みについてご紹介します。
福田萌斐さん
グーグル合同会社 勤務
2022年3月 情報理工学院 数理・計算科学系 修士課程修了
2021年度 グロ理 上級修了
私は中学3年のときにオーストラリアで2週間のホームステイをしたことをきっかけに、英語力を身につけたいと思うようになりました。高校生の時に海外に行く機会がなかったので、大学に入ったら絶対に留学して、今度こそ英語を話せるようになりたいと思い、東工大に入学してすぐにグロ理に入りました。
学士課程1年の終わりの2017年3月に、グロ理の「シンガポール・マレーシア超短期派遣プログラム」、同年8月には「インド超短期派遣プログラム」に参加しました。プログラム参加の目的は、現地の文化を学びながら英語力を高めたいということでした。また、私の専門分野は情報科学ですので、IT産業が急速に発展しているインドの環境を見てみたいという思いもありました。
英語の選択科目の履修やe-learningの学習を続け、スコアが上がり、自信がついてきました。そこで、学士課程3年の2018年8月、EPATS(イーパッツ)という学生団体の一員として、24日間アメリカに渡航しました。このときは、学生たちだけですべてのアポイントメントを取り、トップ大学の情報科学の研究室や最先端のコンピュータ系企業を訪問したことで、自立性が養われ自信を持ちました。
2019年2月には、アメリカのライス大学に1ヵ月間留学しました。これは日本の理系女子学生を対象としたプログラムでした。ライス大学の研究室にインターンとして所属して研究し、英語でのポスター発表も経験しました。これまで、英語で研究内容を話す機会はほとんどなかったので、自分にとってよいステップアップとなりました。
これらの留学を通して、「英語スピーキング演習」や「アカデミックプレゼンテーション」などグロ理で履修した科目が大変役立ちました。英語でのプレゼンテーションは経験がないと戸惑いますが、授業の演習で慣れていたので助かりました。
さらに、2019年9月、東工大修士課程に進み、2021年12月にはニューヨーク州立大学ビンガムトン校に2ヵ月間、自分で先生にアポを取って研究留学をしました。自分で研究テーマを考え、論文も書きました。学士課程の前半は、現地の文化を肌で感じ英語力も向上させたいというのが留学の主な目的でしたが、修士課程にかけて、目的も「英語で専門を学ぶこと」に変わっていきました。
また、学士課程4年の2019年9月と修士課程1年の2020年10月の2度にわたり、グーグル合同会社でインターンを経験しました。こちらは日本法人ですが、社内の公用語は英語なので、これまでの英語の勉強や留学経験を生かすことができました。このインターンをきっかけに、2022年4月からグーグル合同会社でソフトウェアエンジニアとして勤務しています。グローバルな環境で、多様な仲間と共に働けることが魅力です。
重要なのは、英語の勉強を続けるためのモチベーションを自分で作っていくことです。私は部活動やTISAの活動を通じて学内の留学生の友人が多くでき、彼らと英語でもっと喋れるようになりたいと思ったことが、大きなモチベーションでした。また、留学を通じて、英語力の欠如が将来の選択肢を狭める要因になるのは嫌だと感じていたことも英語の勉強を続ける原動力になりました。したがって、「英語力がついたらこんな楽しいことがある」「こんな将来が待っている」と思えるようなことを積極的に見つけていくことが英語力向上の近道だと思います。
本学ではTOEFL iBT 80点以上、TOEFL ITP 550点以上、TOEIC 750点以上を到達目標とし、それに向けて授業を開講しています。このスコアはグロ理の中級修了要件と同じです。
古橋知樹さん
南洋理工大学(シンガポール)理学院 理数学部 博士課程2年
2020年3月 物質理工学院 応用化学系 修士課程修了
2017年度 グロ理 中級修了
英語力を身につけたいと最初に思ったのは、「海外研修プログラム」でマレーシアとアメリカに行った高校2年の時です。2014年に東工大に入学し、すぐにグロ理に入り、留学生TA(ティーチングアシスタント)と途上国の課題について英語でグループワークをする授業「グローバル理工人入門」を履修し、英語コミュニケーションの基礎力をつけました。また、リーディング力を高めたいと思ったことからTOEICの勉強にも注力しました。
一方で、高校時代の海外研修プログラムで、座学だけでは生きた英語は身につかないと感じていたので、「国際開発サークル(以下、IDA)」に入部しました。IDAは「理工系の知識を生かし、技術を通じて社会への貢献を目指す」という目的で活動をしている東工大の公認サークルで、色々なプロジェクトを推進していました。そこで私は学士課程1年のとき、発展途上国で問題となっているトイレによる水質汚染を防止するための「コンポストプロジェクト」に参加し、フィリピンを訪れました。
帰国後、「英語プレゼンテーション演習」など、多くの選択科目を履修しました。最初のうちは先生の話すスピードが速くて聞き取ることができませんでしたが、とても尊敬する先生に出会い、その先生の科目をリピートして履修するうちに、英語を英語のまま理解できるようになっていました。さらに「英語は単なるコミュニケーション手段の1つであり、伝えたいことを伝えるためのツールである」と思えるようになり、英語に対する心理的なバリアが取れたのは大きな収穫です。
学士課程3年では、スリランカ超短期派遣プログラムに参加しました。そこで、シナモンは加工が難しく、若者の農業離れや職人の減少が課題となっていることを知り、学士課程4年のとき、シナモンを簡単に加工できる道具を作ろうとIDAで「スリランカシナモンプロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトを通じて手段としての英語の重要性を実感しました。
修士課程では、IDAや交換留学を通して色々な国の留学生との交流が盛んになっていました。英語を使わなければいけない環境に身を置くことで、自分の英語力を鍛えていったのです。また、多くの留学生を受け入れている研究室にいたため、研究に関する議論を英語で行うこともありました。とはいえ、ネイティブ並みの英語力があるわけではないので、講義中や日常会話中、プレゼンテーション中などあらゆる場面で英語が聞き取れず、孤立感を感じることも少なくなく、そのたびに悔しい思いをしていました。
ところが、2020年8月にシンガポールの南洋理工大学博士課程に進学したことで、英語力に対する考え方が変わりました。耳慣れすれば理解できるようになるとよく聞いていたのですが、本当にそれだけで英語が聞き取れるようになるということを実感しました。それからは、慣れるまでのことだからと考え、「もう1回言って」と気軽に言えるようになりました。
伝えたいことは3つあります。1つ目は、英語は継続が大事だということ。次に、英会話は正しい英語でなくても良いということ。そして、最後は、相手に自分の考えを伝えたい、相手の考えを知りたいという強い気持ちをもつことです。気持ちさえあれば必ずコミュニケーションは可能だと思っています。
土山絢子さん
マサチューセッツ工科大学 地球大気惑星科学科 博士課程1年
2021年3月 理学院 地球惑星科学系 修士課程修了
2020年度 グロ理 上級修了
私が科学者になることを目指し始めたのは中学2年の夏です。「創造性の育成塾」という8泊9日のサイエンスキャンプに参加し、そこで著名な科学者や宇宙飛行士から毎日講義を受け、感銘を受けました。このとき、将来自分も世界で活躍する科学者になりたいと思うようになり、そのためにはいずれ英語力も必要になってくるだろうと感じました。
2015年に東工大に入学しすぐにグロ理に入り、そこでe-learningを多く活用しました。アプリを無料で利用でき、勉強時間が上位に入るとTOEFL iBTの試験が1回無料で受けられたのでゲーム感覚で楽しみながら使い続けました。
留学もたくさん経験しました。学士課程1年の終わりの春休みには、国際性豊かな沖縄科学技術大学院大学(OIST)のプログラムに参加しました。そこで自分の英語力の低さを実感しました。原稿も見ずに英語ですらすらとプレゼンテーションをしている参加者の姿に焦りを感じたのです。
その後、インドや東南アジア、アメリカに短期留学をしました。目的は「英語に慣れたい」「コミュニケーション力を伸ばしたい」ということでした。学士課程3年では、超短期派遣で、ジョージア工科大学リーダーシッププログラムに参加しました。その時の先生が、同じ年の6月に「グローバルリーダーシップ実践」集中講義のために来日され、先生のリードのもと世界各地からの留学生とグループワークをした経験は、アメリカの授業の雰囲気を掴むのに役立ちました。議論を通して教員と一体となって行う授業スタイルは、日本の講義型の授業とは大きく異なり、アメリカの大学で勉強したいと思うきっかけにもなりました。
学士課程4年の2018年12月に日本代表として、「ストックホルム国際青年科学セミナー」に派遣されるという大きな体験をしました。これはノーベル賞受賞行事に合わせて開催されるもので、世界各国から選抜された25人の若手科学者が研究発表や交流を図るというプログラムです。ここでも、同年代の方々が自分の専門分野について英語で流暢に話す姿を目の当たりにし、改めて世界を舞台に皆に科学の面白さを伝えられる科学者になりたいと気持ちを新たにしました。
プログラムの後半には、ノーベル賞授賞式などの行事にも参加し、著名な科学者との交流も果たしました。将来、科学者を目指す仲間との交流やノーベル賞受賞者へのインタビューなどがあり、夢のような1週間でした。このような機会を得たことで、イベントそのものは楽しむことができましたが、彼らと同じ舞台に立って、世界で活躍できるレベルに達するまでにはまだまだ英語力が足りないと感じ、さらに英語の勉強を続けていきたいと思いました。
修士課程に進み、自分の研究が進んでくると、「自分の専門性を持って、世界中の人たちと議論し、科学の発展に貢献したい」という思いが強まりました。世界中から学生が集まるアメリカの大学院に魅力を感じ、そこで2021年3月、東工大修士課程修了後、同年9月にマサチューセッツ工科大学(MIT)博士課程に進み、現在に至っています。
これから専門性を身につけていく大学生の皆さんには、ぜひ勉強の先の将来像を思い描きながら学習に取り組んでほしいと思います。英語はコミュニケーションツールなので、自分は将来、何がしたいのかを考えた上で英語を勉強する方がモチベーションを長く保つことができると思います。また、少しでも留学してみたいという気持ちがあれば、ぜひ留学に挑戦してほしいですね。現時点では、具体的な将来像を思い浮かべることができなかったとしても、留学により新しい目標が見つかるかもしれません。
英語力向上には、英語科目履修、自主学習、検定試験の3つの組み合わせによる学修が効果的です。
英語必修科目に加え、「アカデミックプレゼンテーション」「TOEFL対策セミナー」など、目的に応じた選択科目を履修することで、必要なスキルが身につきます。
科目履修と並行してe-learningによる自主学習を進めることで、相乗効果で英語力向上につながります。
※ e-learning受講支援について
グロ理では、公募で年2回、約250名にe-learning無料受講の支援を行います。応募多数の場合、科目履修などを進めているグロ理所属生が優先されます。
教材は「EnglishCentral」および「スタディサプリEnglish」を使用し、それぞれ基本的な4技能向上及び外国人講師との会話レッスンによるスピーキング力強化に主眼をおいたもの、TOEIC対策に特化したものを学習します。
TOEIC®L&R、TOEFL®、IELTS™など、目的によりさまざまな試験を受験することで、勉強の成果を確認できます。学士課程1年と3年に、全員がTOEFL ITPを受験します。
検定試験は自分の実力を確認でき、さらなる学修へのモチベーションとなります。留学する場合は試験結果のスコア証明が必要となる場合が多く、早い段階で受験を開始し目標スコアの取得を目指すことをお勧めします。
単位は英語選択科目の取得単位数 ( )内は該当人数
e-learningの利用状況が良い場合、特典として留学に必要なTOEFL iBTやIELTSの受験料支援を得ることができます。好きなタイミングで検定試験支援を活用することができます。
また、東工大で提供している国際交流の機会を活用し、英語を実際に用いることで、実践的な英語力取得を目指すことができます。
本学の英語力向上支援の特長は理工系の専門性を伸ばした上で国際性を身に着けるという観点で設計されていることです。その趣旨を具体化したのがグロ理です。本コースは学士課程・修士課程の学生を対象とした初級・中級、および中級を修了した修士課程の学生を対象とした上級で構成されています。
グロ理初級・中級には4つのプログラムがあり、英語力の向上を主体としているのが、「英語力・コミュニケーション力強化プログラム」です。本プログラムでは、グロ理所属生が実践的な英語力を身につけるための科目を履修することとしています。
「英語でコミュニケーションする」「留学する」「英語で論文を投稿する」「国際学会で発表する」など学生によって英語を勉強する目的はさまざまです。それぞれの目的や能力に応じた科目を選択できます。
留学を希望する場合、どんなに専門分野の成績が良くても、希望する大学の指定するTOEFL等のスコアが必要です。そのため、本コースでは、英語e-learning受講や英語スコア取得の支援にも力を入れています。
英語はインプットである「聞く」「読む」、アウトプットである「書く」「話す」の4技能すべての能力の向上が必要です。特に、東工大生には、アウトプットを強化する努力をしてほしいと思っています。科目の履修のみならず、生きた英語を学ぶ機会として、ジョージア工科大学やチュラーロンコーン大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)との交流など、国際協働学習の機会も提供していますので、積極的に参加してほしいと思います。
英語スコアもコミュニケーション力も、数ヵ月で急激に伸ばせるものではありません。日々の努力の積み重ねが重要です。また、学生時代に、継続的に英語を学び続けると、最初は上手く英語でコミュニケーションが取れなくても、徐々に慣れ、英語を使うことに自信が出てきます。特に在学中に留学を希望している場合、早めに英語学習を始めるとよいです。たとえば、派遣交換留学を希望する場合、約半年~1年前から応募が可能ですが、その際、TOEFL等のスコアが要件を満たしている必要があります。また、早い募集回で書類を提出することで、奨学金受給のチャンスも増えます。今からでも遅くありません。英語の勉強を始めて、継続することが肝要だということを強くお伝えしたいです。
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2022年6月掲載