教育
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東京工業大学では、科学・技術の力で世界に貢献する人材を育成することを目的に、専門性に加え、高い国際性を養える教育プログラムとしてグローバル理工人育成コース(以下「コース」と呼称)を提供しています。コースは学士課程、大学院課程の全学生が所属できる教育プログラムに位置づけられ、2020年度は全学の2割強にあたる約2,300名の学生が所属しています。所属生はコースに登録されている科目履修に加え、所定の英語スコアを取得し、留学経験を得ることで、卒業時にコースの修了証明書を受け取ります。
本コースのミッションは、学生が国際的な視野を広げ、グローバルに活躍するために必要な能力の育成を手助けすることです。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、移動を前提としていた国際教育が制限される中で、同じミッションを実現するために、教育の内容や方法を変更し、活動を継続することが求められています。
そのために、海外協定校等との交流実績をもとに、2020年4月よりオンラインをこれまで以上に活用した国際教育を実施しました。また、留学ができなくなったため、「国際性を養う国内での経験の実績を評価する科目」を新規設置し、留学の修了単位にこれらの科目を含めました。複数ある取組の中には、コロナ禍以前の数年前より実施していた活動もあります。グローバル理工人育成コースのオンライン国際教育は、大きく3つのタイプに分けられます。
タイプ |
相手大学 |
概要 |
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ジョージア工科大学 |
外国人教員を招いた集中講義をオンライン授業に変更 |
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チュラロンコン大学
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双方向の訪問と遠隔のグループワークを含むハイブリッドの授業 ※2020年度は休講 |
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ジョージア工科大学 |
本学および相手大学の通常講義に付随させたオンライン交流を新規導入 |
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マサチューセッツ工科大学 |
オンラインによる語学タンデム |
2018年度からジョージア工科大学(以下「GT」)の講師を本学に招き「グローバルリーダーシップ実践」の共同授業を行っています。2020年6月は新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、オンラインで実施しました。日本と、GTがあるアメリカのアトランタでは13時間の時差があり、東工大は午前8時から、GTは午後7時から、授業を行います。
この授業は、講師による説明以外に、多くのグループワークやディスカッションにより構成されています。講義での学びに関する理解、振り返りを促すため、各受講生は講義での感想や課題をブログに書き込みます。ブログは随時、講師やTA(ティーチング・アシスタント)が確認し、次回の講義に反映します。また、参加者の意見を引き出すため、受講者の積極的な参加を促すプレゼンテーション用プラットフォームである「Pear Deck(ペア・デック)」を利用し、受講者の理解度や心境を、視覚的に把握することができました。
リーダーシップについて学ぶこの授業内では、100枚のカードを使いグループワークにて自己分析を行うアクティビティがあります。これまでの対面授業では紙のカードを使っていましたが、アクティビティ自体のプロセスや作業は変えずに、オンラインにて自己分析を可能とするツールを独自でプログラミング開発し導入しました。講義中はモデレーターを配置し、ツールの操作を含む技術支援や受講生のモニタリング等、受講生が講義に主体的に参加するための細やかな配慮を行いました。
全8回のオンライン授業は、多くのツールの活用と関係者の協力により対面と同等のコミュニケーションを実現し、移動を伴わずとも、国境を越えて学び合い成長できる機会となりました。
2015年度より、タイのチュラロンコン大学とオンラインでのコミュニケーションを取り入れた課題解決型学習(以後、異文化PBL: Problem-based Learning)を実施しています。2020年度は日タイ間のサイトビジットができないため休講となりましたが、これまでのオンラインを活用した国際協働学習のノウハウや経験を他事例に生かすことができました。
授業期間は約半年で、事前学習、オンラインによる両国の学生交流を経て、東工大生がタイを訪問し、講義参加、研究機関/企業/政府機関等の訪問、東工大生とチュラロンコン大学の学生の混合のグループワーク等を行います。
東工大生の帰国後は、両大学が参加するオンラインの遠隔講義・グループワークを5回行います。遠隔講義では、テレビ会議システム(ポリコム:Polycom)を活用し、双方の講義室の様子をスクリーンに映し、同じ空間で受講しているような環境を整えました。また、専門講義の一部は本学のオンライン教育開発室(OEDO)にて撮影をし、オンデマンドの学習を可能としました。
グループの議論を深めるため、参加学生には課題が毎週設定されます。グループで講義時間外にオンラインで話し合い、次の回の講義で結論を報告します。講義外での学生間の情報共有は、学生自身が使い慣れているSNSアプリやオンラインストレージサービスを使用し、音声ツールだけではなくチャットなどの手段も活用されました。また、異文化PBL開始当初からFacebookのグループを立ち上げ、課題のリマインドやグループワークのコメント、両大学の講義や施設訪問の様子等を共有しています。異文化PBLを通じて、コミュニケーション手段は、国や相手によっても異なり、適宜最適なツールを選択することが有効であることがわかり、国際協働を学んでいく上で大きな収穫となりました。
約2か月間のオンラインでの協働作業を経て、チュラロンコン大生が来日した際は再会を喜びつつ、日本での施設訪問を行い、グループワークの総仕上げをした上で、最終発表を行います。
過去4回の受講生意識調査からは、プログラム終了後に自身の能力の向上を認識している学生が多いことが分かります。
プログラム前後の意識変化(2016年度~2019年度調査)
(対象者:延べ東工大履修者34名/5件法得点を採用)
海外大学との共同授業を新たに構築するには、多くの調整と労力がかかります。一方、双方の大学の既存の講義内容に関連づけたオンライン交流の機会を設けることは、比較的短時間で実現可能な上、国際協働を効果的に学ぶことができます。
2020年9月には、東工大とジョージア工科大学にて、個別に開講している授業の発展的な学びの機会として、東工大の授業「異文化協働とリーダーシップ」等とGTの授業「リーダーシップ基礎」の履修生およびTAから希望者を募り、合同セッションを実施しました。合同セッションの目的は、自国の文化特性や自身の行動特性を比較することで、異文化での共同作業の方法について理解し、異文化におけるチームビルディング等について学ぶことです。
参加者たちは、異文化での共同作業の方法に関するアンケートに事前に回答します。合同セッションではそれぞれの大学の講義で経験したグループワークについて振り返り、相違点を比較します。セッション終了後は各自の学びや感想を把握することで、次の機会に生かせるようにすることを目的としてエッセイを提出します。
2020年5月の日本の緊急事態宣言の解除以降も自宅学習が続いた6月から7月の1か月間、東工大生の日本の自宅から、アメリカのマサチューセッツ工科大学(以下「MIT」)の学生をオンラインで繋ぐことで、語学タンデムを実施しました。語学タンデムとは、母語の異なる2人がペアになり、互いの母語を教え学び、文化を理解し合うという学習形態です。
タンデムのペアはランダムに決められます。1回のセッションは、日本語での会話が30分、英語での会話が30分で構成され、ペアごとにスケジュールを調整しながらセッションの回数を重ねていきます。コミュニケーションのために、互いの利便性に合ったオンラインツールも活用します。
参加者は会話のトピックを自由に選び、ディスカッションを繰り返します。選ばれたトピックは例えば、教育制度や大学カリキュラムの日米比較、料理、昔話を通した文化の考察、スポーツ、映画、音楽、言語学、テレビ番組、映画タイトルの翻訳など。多種多様なトピックについて論じることにより、語学力を向上させるだけでなく、異文化理解を深め視野を拡げることができます。
最後に5分間のビデオ動画を制作し、ディスカッションの結論をまとめました。それまでのコミュニケーションで培った「協働力」を活かし、遠隔作業で動画を完成させました。またビデオコンテストを行い、参加者全員が他のペアの内容を視聴し、互いのペアが話し合った内容を共有することで、他者のディスカッションの結果を通した学びも得ました。
参加した学生からは、
“普段だとハードルが高くて参加できないイベントでしたが、オンラインで気軽にMITの学生と会話できると聞いて参加すると決めることができました。”
“新しい友人との会話を楽しめました。英語の語彙だけでなく文法や、アメリカの文化やライフスタイルについて学びました。そのため、アメリカやMITにさらに興味を持ちました。”
といった声があがりました。
東工大生にとっては、日本の自宅にいながらMITに新しい友人ができ、強固な友情関係を築く機会となりました。いつかお互いに渡米・来日し、直接の再会を果たせることを望む学生も多くいました。またMIT Japanプログラムの参加学生は本来、2020年夏に来日してグローバル理工人育成コース主催のたたら製鉄ワークショップに参加する予定でした。しかし来日が叶わなかったため、オンライン語学タンデムは東工大生とMIT学生の交流が叶う好機ともなりました。
MIT側の主催者からも、「最終課題であったビデオを見たとき、相手の文化と言葉を学ぶ彼らの創造性と情熱にとても感動しました。今回参加したMITの多くの学生に直接日本語を教えましたが、彼らがハッピーでエネルギーに満ちながら日本語で話す顔を見て、この大変な状況の中でとても価値ある経験になったと思います。今回のプログラムは、教育手法としてもよく練られており、語学教師としても多くの学びを得ました。」とのコメントが寄せられました。
アフターコロナと呼ばれる時期がきても暫くは、安全面を考慮し、場所を選ばない国際交流が主流になると考えられます。また、チュラロンコン大学との共同授業の事例で示した通り、海外渡航とオンライン交流のハイブリッド型も、国際教育の学びの面で効果があることを実感しています。
東工大はグローバル理工人育成コースにおいて、これからも様々な取り組みを進め、コロナ禍以前と同じような通常の状況に戻った際には、蓄積された経験を活かし、さらに充実した国際教育の機会を提供していきます。
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2021年2月掲載