教育

東工大キャリア教育

東工大キャリア教育

東工大は、2012年にNYタイムズが報じた「世界の企業が求める人材出身校ランキング」で14位、 日本だけなら断然の1位にランクされました。 既に世界が東工大卒業生の卓越した能力を認知しているのです。こうした高い評価はどこから来るのでしょう?

世界最高の理工系総合大学を目指す東工大での学びが、どのように学生たちの将来につながるのか、 東工大の就職事情とサポート体制について、 キャリア支援を担当するイノベーション人材養成機構の増沢隆太特任教授に話を聞きました。

東工大生のキャリア事情について教えてください

全体的に見れば、以下のような特徴があります。

  • 学士課程学生の約9割が大学院進学
  • 修士学生の約8割は就職
  • 主要企業の多くが東工大を人材獲得「ターゲット校」に選定
  • 産業界とのつながりは深く、ほとんどの大手製造業には東工大出身者あり

東大や京大といった他の国立大学理工系と同様に、ほとんどが大学院修士課程以上に進み、 研究重視の教育を受けることなど、東工大の進路事情は文系とは全く異なっています。 こうした現在の理工系就職状況をふまえた、完全にオリジナルのキャリア指導の結果、 マスコミの就職ランキングでも常にトップクラスを維持しており、有名企業400社就職率ランキング2014(大学通信調べ)では、 第1位となりました。

どのようなサポート体制があるのでしょうか?

すでに何十年もの間、各学科・専攻の教職員が、それぞれの専門分野を活かした就職について、 きめ細かなアドバイスを行ってきました。また、研究室の指導教員も研究指導と併せて、 学生の個性と希望に応じて進路相談を受けてきました。専門と直結する企業であれば、東工大生は推薦でも自由応募でも、 企業とのコンタクトがとりやすい体制がとれています。

さらに、一般的な就職・進学情報の提供や多様化したキャリア支援のニーズに対応するため、イノベーション人材養成機構が存在します。

イノベーション人材養成機構によるキャリア支援の強みを教えてください

個人相談の様子
個人相談の様子

イノベーション人材養成機構のキャリア支援は、長年のノウハウの蓄積と、 充実した専任キャリアアドバイザーによる個人相談体制により、他に類のない強力な布陣となっています。 専任の教員が東工大生の就活事情を把握した上で、個々へのサポート体制を取っているのです。

マナー講座や資格講座等ではなく、「考え方」を身につけるための指導が出来るのが、 東工大のキャリア教育の強みといえるでしょう。2006年ごろの好景気、続くリーマンショック後の超氷河期から、 景気が回復し再び東工大生採用争奪戦が始まった今と、さまざまな採用環境の変化を通じて、東工大生のキャリアを把握してきました。 「将来のリーダー候補」養成のため、質重視で「めんどうみの良い」サポート体制ができています。

たとえば、イノベーション人材養成機構が開設しているキャリアアドバイザールームでは、学生の個人相談を受け、就職対策から進学へのアドバイスまで、 幅広いキャリア実現へのサポートを行っています。また毎年の東工大生の進路状況に基づき、「進路ガイダンス」「就職ガイダンス」「就職対策講座」など、 非常に実践的かつ、東工大オリジナルで、決して外部の就活セミナーでは聞けない実証に基づくセミナーも開講されています。

また、東工大の同窓会組織「蔵前工業会」とも連携し、200社近い企業が参加する 「蔵前就職情報交換の集い」などのイベントもあります。

イベントへの参加が、東工大生の就職を有利にしているのでしょうか?

東工大生が社会や企業から求められる存在である理由は、その高い専門能力と、将来のリーダー候補としての資質です。 東工大の高い研究レベルと、それを実現する研究室という場で薫陶を受けた「研究活動」こそ、社会が求めるニーズなのです。 もちろん研究をしているだけで希望の職が得られる訳ではありませんが、授業や研究を脇に置き、 学部や修士1年のころから就活塾や企業交流イベントに参加するよりも、まずは徹底的に研究に打ち込むことが、 結果として日本を代表する巨大な企業やたいへんな競争率を誇る人気企業から内定を得ることにつながっています。

人事経営的に見れば、

「研究能力が高い」=課題処理能力が高い=企業環境での生産性発揮への期待

とつながる訳で、こういった成果再現能力をコンピテンシーと呼びますが、 コンピテンシーの高い人材という評価が得られるのです。企業から垂涎の的である東工大生というブランドは、 研究実績とセットになってこそ、他に類のない強力なパワーを発揮するのです。

東工大生のキャリア教育で意識しているのはどんな点ですか?

東工大生の優位点については東工大生自身や、本学出身者も多い指導教員の先生方よりも、 完全に外部の人間であった私のような者の方がフラットに見られるのではないかと思っています。 東工大生の優れた能力を外部の人たちに伝えることにおいては、まだまだ努力が必要です。 どれだけの能力・資格・適性をもっていても、そうした事実を知らしめなければ、無いのと同じです。 そのために重要なものがコミュニケーション能力養成だといえます。

どのようにコミュニケーション能力を養成しているのですか?

講義を行う増沢特任教授
講義を行う増沢特任教授

「話し方に自信がない」「何をすればコミュニケーションがとれるのかわからない」という学生のため、 企業の社員研修などでも取り入れるロールプレイングやプレゼンの構造といった切り口で、東工大生が身近に感じられる素材を利用して、 実践トレーニングができる講義を行っています。たくさんの学生が受講し、ロールプレイングにも積極的に取り組んでいます。

理系オリジナルのキャリアガイドを教科書に使用
理系オリジナルのキャリア
ガイドを教科書に使用

私が一貫して東工大生に伝えてきたことは、「コミュニケーションは上手な話し方ではなく、目的達成の手段」だという考え方です。 上手に「話す能力」だけでは、コミュニケーションの半分しか満たしていません。 「聞く能力」を鍛えることで、総合的なコミュニケーション能力が養成できます。上手なプレゼンを教えるコミュニケーション講座は多々ありますが、 「聞く能力」を重視することが私の講義の特長です。

キャリア講義科目「コミュニケーション戦略論」での
「傾聴スキルトレーニング」の様子

午後のすずかけ台キャンパス。大学院生で満員の教室。前半の講義を聴いたあと、受講者は二人一組になり、向かいあっている。 傾聴トレーニングの実践編がはじまる。増沢特任教授から出されたお題は2つ。

まず、「話す人」と「聞く人」に分かれる。「話す人」は「聞く人」に向かって、1分間何の話題でもよいので、相手に話して伝える。

ゲーム1:
「聞く人」はまっすぐ「話す人」の目を見続けるが、決して質問をしたり、うなずいたりしてはいけない。無反応を貫く。一分経過したところで、役割を交替する。
ゲーム2:
ゲーム1と同様に「聞く人」はまっすぐ「話す人」の目を見続けるが、今回は「聞く人」は"オウム返し"のみ話してもよい。質問はNG。

"シャイ"と言われることが多い東工大生だが、増沢特任教授の「スタート」合図に合わせ、一斉に話し始める。 「話す人」は相手の反応をうかがいながら、積極的に伝えようとしている。 ゲーム1では無反応の相手に対して、くじけそうになりながら。ゲーム2では、相手の相づちに勇気づけられながら。

2つのお題を終え、受講生の感想は?

「ゲーム1は、話しにくい。聞いてもらえているのか、不安になる」

「ゲーム2は、相手が受け答えてくれて、うれしい。安心する」

「話す人」の立場になってはじめて理解できる、「聞き方の技法」。企業でも、研究の場でも使えるコミュニケーションスキルだ。 よい聴き手になることは、キャリア形成の第一歩であることをこの講義で体感してほしい。

授業を受ける学生たち

授業を受ける学生たち

授業を受ける学生たち

東工大生のコミュニケーション能力は高まっていますか?

先日、講義を受けた学生がコミュニケーション能力を実践する場面を直接見ることができました。大学に企業の方を招いた「理系職種・業務研究講座」に、 30名程度の学生が集まったのですが、講演後の質疑応答の時間が始まったとたん、 さっと手を挙げた学生5人がすべて私の担当する「コミュニケーション戦略論」や「博士キャリアデザイン」を履修していた学生でした。 「質問時間には必ず手を挙げる」「手を挙げられるように質問を考えながら話を聞く」という、コミュニケーションの基本姿勢を常に説いていたのですが、 まさに実践の場で、受講生たちがそれを見せてくれたのです。 企業の方から「こんなにレスポンスのある学生は文系でも珍しい」と感想をいただき、本当に感激しました。

増沢隆太特任教授

増沢 隆太 (Ryuta MASUZAWA)

イノベーション人材養成機構(IIDP)/グローバルリーダー教育院(AGL)特任教授。ロンドン大学大学院修士課程修了(「帝国及び海軍史」専修)。
産業カウンセラー。日経流通業を経て、30代でイギリス留学。外資系企業数社を経て、組織コンサルティング会社代表として独立。現在に至る。
近著「戦略思考で鍛える『コミュ力(りょく)』」(祥伝社新書)

1962 東京都墨田区生まれ
2006 東京工業大学キャリアアドバイザー
2009 同 プロダクティブリーダー養成機構(PLIP)キャリアアドバイザー兼コーディネーター
2013 同 イノベーション人材養成機構(IIDP)創設に伴い、チーフコーディネーター。グローバルリーダー教育院(AGL)オフキャンパスコーディネーター。

現在大学院キャリア科目「ロジカルコミュニケーション」「博士キャリアデザインⅠ」「博士キャリアデザインⅡ(修士も受講可能)」 「コミュニケーション戦略論」等担当。

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2014年8月現在

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp