Asia-Oceania Top University League on Engineering (AOTULE) 韓国科学技術院(KAIST) 2016年10月~12月
留学時の学年: |
修士課程1年 |
---|---|
東工大での所属: |
工学院 |
留学先国: |
大韓民国 |
留学先大学: |
韓国科学技術院(KAIST) |
留学期間: |
2016年10月~12月 |
プログラム名: |
派遣大学の概要(所在地、創立、規模など)
KAIST(Korea Advenced Institute of Science and Technology)は,メインキャンパスを大韓民国において第五の都市と呼ばれる大田(テジョン)広域市,儒城(ユソン)区におく理工系総合大学である.首都であるソウルからは日本の新幹線に相当するKTXで約1時間の距離にある.創立年は1971年で,国家の技術力・研究開発力向上を目的として設置された.創立当時は大学院大学であった.ビジネス・経営学部を含め,「理工系」で括られる学部・学科はほぼ全て擁しているといって差し支えない.
グローバル化促進のため,全ての講義は英語で行われており,学生・教員・スタッフは簡単な英語は問題なく通じると考えて差し支えない.
留学準備など
学生寮に申し込むためには健康診断(必須項目:結核検査のための胸部X線検査)を受診しておく必要がある.(後述)
学内と対比して市中ではほとんどの場合英語が通じず,看板・レストランのメニューなどの表記も韓国語のみなので,韓国語を勉強せずに渡韓したことを後悔した.例えばチキン,トンカツなどの外来語は発音どおりに表記されているため読みやすく,日常生活で重宝する.ハングルを読み方だけでも覚えてから留学することをおすすめする.
90日以下の滞在の場合,留学目的であってもビザの取得は不要であった.公共サービスの利用にはビザの発給と外国人登録証が必要であることがほとんどで,時たま不便に感じることがあった.
所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など
東工大では学部・修士ともに同じ研究室に所属し,炭素繊維複合材料(CFRP)に対するアコースティック・エミッション法(AE法)という非破壊検査手法の改良について,信号処理を中心に研究を行っているため,この研究の幅を広げるべく,「AEを取得するためのセンサー」をよりメリットのある方式に変えるというハードウェアの側面について研究を行うこととした.訪問先の研究室では,光ファイバーを用いたFBG(Fiber Bragg Grating)センサに関する研究を一つの軸としているため,FBGセンサを用いてAE法を実施することを研究の中心に据え,研究・学習を行った.
滞在していた三ヶ月間の研究に対する割当としては,チェジュ島で行われた学会に,東工大の研究室の博士課程の学生の代理として参加するための準備をしていた2週間を除くと,最初の2週間でFBGセンサを用いたAEの取得法の勉強(論文精読),その後の1ヶ月で実験装置のセットアップとAEがきちんと取得できているかの検証,最後の1ヶ月でCFRPを破壊した際のAEの損傷モード分類を行う実験とそのデータ整理,という段取りでいた.しかしながら,CFRPにセンサを取り付ける作業が予想外に難しく,最後に行おうと考えていた実験の準備に手間取ってしまったため,滞在の最後になって実験とデータ整理に追われることになり,余裕がなくなってしまったことを後悔している.
最終的には,FBGセンサを用いてAEを良好に取得することができたが,一方で,FBGセンサの持つデメリット(微弱なAEに対しても高感度であると同時に,レーザー光源の強度や実験室の気温にも敏感である)が浮き彫りになるという結果を再認識することとなった.
所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行った事など)
基本的に,平日には研究室に滞在する生活(10時-21時)を送り,土日には寮で休む・大学周辺を見て回る・時たま他の都市(ソウル・プサンなど)に旅行する,といった生活を送っていた.
研究室では週に1回・木曜日に全員の集まるゼミが行われ,発表担当となる1名が自身の研究の進捗について報告するという形式だった.講義を英語で行う大学であることもあり,発表言語とスライドの記述は英語とすることがルールになっていた.(パートタイムの社会人学生の場合は,韓国語を行うことが黙認されていた.)一方で,ディスカッションは韓国語/英語のどちらも認められているので,留学生が議論に入っていけないという状況も頻繁に見られた.研究室で過ごした平日は上に書いた時間帯にひたすら研究に明け暮れていたというわけではなく,ネパール人の留学生に誘われてプールでリフレッシュしたり,留学生の学生団体が主催するイベントに参加したりもしていた.
滞在中にはソウルに2回,プサンに1回旅行することが出来た.テジョンは韓国の国土の中心近くにあるため交通の要所とも言われている都市で,鉄道や高速バスで他の都市に足を伸ばすのも容易だった.旅行中,必ずと言っていいほど朴槿恵大統領の機密漏洩問題に対するデモを目にし,韓国市民の怒りを肌で感じることが出来た.しかしながらデモは暴力的なものではなく,統制が保たれた中で実行されているのが印象的であった.テジョンおよび大学周辺では,大統領に対しての抗議文が張り出されている程度だったので,旅行と同時に韓国の政治情勢を肌で感じることが出来たのは貴重な経験であったと思う.
留学先での住居(寮、ホームステイ等)、申し込み方法、ルームメイトなど
KAISTでは,テジョンに自宅のある学生以外は寮に住むことが基本となっている.学内には,学生全員が入ることのできるだけの寮が用意されていると聞いた.個室の寮もあるが割高で,ほとんどの学生は2人1室で生活をしている.部屋は机・ベッド・クローゼットが2つずつあり,それらの設備で部屋のほとんどを占めているのでやはり狭く,寮には寝るために帰るだけ,という学生が多かった.
一方で,私が滞在することになったのはKAIST学内の寮ではなく,KAIST2km程離れたところにある,テジョンにキャンパスを構える大学が共同出資して設立したという,留学生向けの寮であった.こちらも2人1室であることは変わらないが,部屋の面積はKAISTの寮よりも若干広いらしい.留学生向けということで韓国人の入居者は少なく,中国・ベトナムの学生が大半を占めていた.日本人は10名強が滞在しているということだったが,本プログラムで留学した2人(私と,物質理工学院修士1年の中谷くん・ルームメイト)以外にはKAISTの学生はおらず,近隣の韓南大学や忠南大学の学生が主であった.
寮から各大学には通常シャトルバスが運行しているが,KAISTは学生数が少ないためかシャトルバスがないという問題があった.寮の近くからKAISTの正門を通る路線バスも運行していたが,運行間隔が長く不便であったため,テジョン市が提供している公共レンタサイクルシステム(500円/月,図1)を利用していた.しかし,これを利用するには韓国国民の持つ社会保障番号(日本でいうマイナンバー)か,外国人の場合は外国人登録証が必要になるので,ビザの発給が不要であるAOTULE派遣の場合には利用することが出来ない.そのため私は,研究室の韓国人学生の方の好意で,その方の名義で代わりに登録してもらい,私が利用するという形をとっていた.
部屋には冷蔵庫が1台と,シャワーとトイレのある小部屋(図3)がついている.図2を見ていただくと分かるように,ベッドはマットレスのみであり,寝具が用意されていない.私は訪問先研究室の方に頼んでレンタル寝具を手配してもらったが,初めの数日はシーツや毛布なしで寝る羽目になった.今回の滞在で最も困ったことがこの問題であった.
AOTULEを利用する場合寮の申込みは,訪問先研究室からの受け入れ許可が出ると同時に,KAISTの国際学生オフィスから申し込みに関する通知が来るので,特に自分から動く必要はなかった.申込みのためには健康診断受診が必須で,KAIST指定のフォーマットで医師により記載された診断書を提出する必要がある.日本国内に留学前健康診断を専門にする医院があるので,私はそこを利用して診断書を作成してもらった.また,結核診断のために胸部X線検査を受診する必要があり,KAIST指定のフォーマットに加えて,X線検査の結果証明書も準備しておくと安心である.
留学費用
今回の留学では,工系3学院学生国際交流基金とJASSO短期派遣奨学金を併用して,月10万円の奨学金を頂いていた.今回は,個人的に航空券を航空会社のマイレージ特典で調達することが出来たので,いただいた奨学金でその他すべての出費を賄うことができ,不自由なく生活することが出来た.以下に,留学費用の概算を記載する.
渡航費...40,000円以下(LCCを利用・最も高額な場合を想定)
食費...170,000円程度(2000円/日x85日で計算,学食は~600円/食,図4)
住居費...39,000円(13,000円/月x3ヶ月,寮を利用)
保険料...23,155円(東工大指定のもの・最安プラン)
この計算でも,28000円程度を雑費(生活必需品の購入など)に充てることができ,渡航費も40000円よりは割安になることが予想されるので,いただいた奨学金でぴったりか,少し足が出る程度で済むのではないかと思う.
今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望
KAISTの正規課程に在籍している留学生(出身はドイツ・インドなど)の一部は韓国人学生と韓国語で会話をしていた.韓国滞在中は基本的に英語での会話が主であったが,個人的な感覚として,「英語で話しているうちはお客様扱い」されているようにひしひしと感じていた.英語は世界の公用語として扱われているが,やはり異国の地で学ぶからには現地の言葉を学ぶべきである,ということを強く認識した留学であった.滞在中韓国語を勉強していたものの,平易な文を理解できる程度までしか習得できなかったので,これを機に韓国語の学習は帰国した後も続けようと思っている.
研究の高度さや英語力の向上を目指すといった点から,半年以上の長期的な留学の場合には欧米の大学を希望することが多いが,短い期間でかまわないのでもし時間を割くことができるのであれば,英語を公用語としない国に滞在することも意味のある経験になると思う.特に,韓国のような隣人であるがゆえに政治・外交問題で敵対することもある国であるからこそ,一度その地で暮らすことで,欧米諸国に留学するのとは,また一味違った経験を積むことができると思う.
図1. レンタサイクル(奥に見える建物が寮
図2.部屋の内観(滞在初日時点)
図3. トイレ兼シャワー部屋(バスタブは無い)
図4. 学食での食事の一例(3500ウォンのセット)
この体験談の留学・国際経験プログラム情報
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