Asia-Oceania Top University League on Engineering (AOTULE) 南洋理工大学 2018年6月~9月
留学時の学年: |
修士課程1年 |
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東工大での所属: |
物質理工学院 |
留学先国: |
シンガポール共和国 |
留学先大学: |
南洋理工大学 |
留学期間: |
2018年6月~9月 |
プログラム名: |
派遣大学の概要(所在地、創立、規模など)
1991年に創立された南洋理工大学(NTU)は,まだ創立から30年も経っていない若い国立大学である.シンガポールにはNTUの他にもう一つシンガポール国立大学(NUS)という国立大学があるが,いずれの大学もレベルの高い大学として有名である.2019年のQSWorld University RankingsではNUSが総合11位,NTUが総合12位に位置している.NTUはシンガポール内の中心部,観光地として有名なマーライオンやマリーナベイサンズなどからは電車で45分程度の場所にあるため,大学の周りは観光地というよりも住民の生活感が漂っていた.NTUの最寄り駅はPioneer駅であるが,この駅からは大学へCampus Riderというシャトルバスが走っており,また,Pioneer駅は市の中心部と電車1本でつながっているため,中心部から距離は離れているとは言え便利なところに立地しているという印象を受けた.
キャンパス自体は非常に大きく,各Schoolの建物,学生寮,生のフルーツなども売っているスーパー,レストランなどさまざまな施設が設けられていた.多くの学生は学内の寮に住んでおり,平日は基本的に学外に出ないようである.キャンパス内の設備は学生が生活に困らないように充実しているのだと思う.キャンパス内の建物について,多くが中でつながっており,外に出なくても隣の建物に移動できるようになっている.これは,熱帯に位置するシンガポールは雨季の際にたくさんの雨が降るため,なるべく外を歩かなくても良いようにするための工夫である.これはキャンパス内に限らず,街中の多くの建物に見られた.
NTUに通う学生について,学部生はシンガポール出身の学生が多いが,PhDの学生は多くが他国からの留学生である.また,ポスドクも多いことも特徴の一つだろう.留学生は圧倒的に中国出身の学生が多く,他にインドやマレーシアの学生がいた.私は滞在中日本人の学生を見つけることができず,Schoolの学生たちには日本人は私だけだと言われたので,日本人にはあまり馴染みのない大学であるのだろう.また,意外にも欧米の学生が少ない印象を受けた.私は実験の都合上NUSにも何回か足を運んだが,NUSでは比較的欧米出身の学生が多く,NTUはアジアの学生で占められている印象を受けた.
留学準備など
今回NTUに留学するにあたって,自分の研究室の先生にNTUの先生の知り合いがいなかったため,自分で各研究室のホームページを調べて希望する研究室を決定した.前年NTUに留学した先輩が学部生のときに参加した超短期の留学プログラムで一緒だった方なので,お話を伺ったりしていた.その中で,詳しくは後述するが,NTUは諸々の手続きが遅いことや安全講習が長くて実験をする時間が限られていることは聞いていたので,自分が東工大で専門としている研究分野から大きくはみ出さない研究を行える研究室を探した.受入研究室が決まり,先生とメールで連絡をとりあい研究テーマについて決めたあと,留学1か月前頃から研究テーマに関する文献を読んだりするなど勉強をした.語学に関しては,私は特に勉強しなかったし,しなくて良かったと思う.これは,前述の通り留学生が多く,英語を母語としていない学生が多いためである.それより研究内容について勉強して行く方が重要だと考える.現地では英語でコミュニケーションをとるものの,話すスピードは速くないため,充分に会話をすることができた.ただし,前述のとおりNTUには中国人の学生が多く,また街中でも中華系の人が多いため,中国語を少し勉強しておいた方が良かったと思う.
所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など
所属した研究室でのテーマはflame synthesisで青色TiO2を合成し,可視光下での気相IPA分解測定を行うというものだった.大枠の分野は光触媒であるため,私が東工大で研究している内容と同じである.しかし,今回は私が自分の研究室では行っていない合成方法を習いたいという思いがあり,この研究テーマを選んだ.当初,活性評価は液相系で行う予定であったが,私が気相系での活性評価を普段行っていることを教授に伝えると,ぜひその測定系を組んでほしいと言われたので,結局気相IPA分解で評価を行うことにした.アウトプットすることが多く自分が学ぶことが少なくなるのではないかと懸念もしたが,結果的には研究室の学生やポスドクと話し合いながら無事に測定系を組めて,自分の知識や経験を提供することで研究に貢献できたので,とても有意義な経験だったと思う.試料の合成方法であるFlame synthesisはNUSにあるCREATE Lab.で行い,そこではケンブリッジ大学の学生とも関わる機会があったため,このテーマを選んだことは正解であった.3か月の留学期間ではあったが,NTUは安全管理に厳しく,安全講習に1か月強時間を必要としたため,実質研究できたのは2か月弱であった.正直この点に関しては,例えば同じプログラムで東工大に来ている学生が初日から実験をしているのと比較すると,NTUは短期間の留学には向かないと感じた.しかし,限られた期間内でflame synthesisにより酸素欠陥を導入した青色TiO2の作製に成功し,気相IPA分解により活性向上が見られ,測定環境を変化させても活性の向上が確認されたため,ある程度の成果は出せたと思う.ただやはり,私がやりたい実験を自由に行えない(試料のキャラクタリゼーションにはライセンスが必要で私は装置を使用できない,など)環境にあったり,研究期間が短かったため,研究室の学生に測定を手伝ってもらったり,私の帰国後に私がやりたかった実験を彼らにやってもらったりしているため,物足りなさは少し残った.
所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行った事など)
研究室には平日に毎日8時か8時半頃に行き,夜は10時前後まで実験を行っていた.私が滞在していた寮ではほとんど料理ができる環境が整っていなかったので,基本的に朝食は前日に購入したパンやヨーグルトを食べ,昼食は学食,晩御飯は毎日同じSchoolで仲良くなった先輩たちと学食か学外のレストランに出かけて食べた.また,1か月に1回ほどは教授と研究室の学生たちでご飯を一緒に食べに行く日があり,教授と学生の距離が近いと感じた.休日に関しては,私は大学には行かなかったが,研究室の先輩方は大学で研究していたので,基本的には一人で観光することが多かった.しかし,周囲は私が一人で観光していることを気にかけてくれ,都合の合う日には寮の友達や大学の友達が様々なところに連れて行ってくれたので,出会いに恵まれたなと感謝している.また,同じAOTULEのプログラムでNTUのSCBEの学生がたまたま東工大の私の研究室に留学しており,私がまだ日本にいるときに既に会っていた.彼がシンガポールに帰国してからは休日にあまり観光地として知られていない島々(St. John’s Island, Lazarus Island, Kusu Island)に連れて行ってくれたり,シンガポール独特の朝食を食べさせてくれたり,シンガポール料理店に連れて行ってくれたり,最後の方は日本に持ち帰るお土産についても相談に乗ってくれたりと,非常に良くしてくれた.昨年NTUに留学した先輩は近隣諸国にも何回か訪れており,私も行こうと考えていたのだが,現地の友人たちと近場に出かけることが多かったので,結局国外には出なかった.休日には観光やハイキング,サイクリングなどを楽しんだ.基本的に交通手段はMRT,バスであったが,日本と比較すると交通費はとても安い.また,タクシーに乗るのも日本ほど抵抗はない.自転車は自由にレンタルできるものがあり,自転車に付いているQRコードを読み取ればネットでお金を払い,自由に乗り降りできる.
MRTも混んでおらず,無人運転であり,全体的に交通手段は日本よりも発達している印象を受けた.シンガポールは小さい国なので,上に挙げた交通手段を用いれば2時間以内でどこへでも行けた.
留学先での住居(寮、ホームステイ等)、申し込み方法、ルームメイトなど
( 参 照 : http://www.ntu.edu.sg/has/Off-Campus/pages/off-campus_studenthostels.aspx )
しかし,NTUは申し込みなどの手続きには一切関与しないので,自分で予約する必要があった.申し込みはyo:HA HostelのホームページのReservationのページから行った.予約確認や,ホステルに到着したあとの手続きについては,ホステルからメールで逐一連絡が来たので,対応が丁寧だという印象を受けた.ホステルは4人部屋で,トイレとシャワーは同じフロアの人たちと共同で使用する.洗濯機や乾燥機,冷蔵庫も設置されており,ホステル近くにはホーカーと呼ばれる食堂やコンビニ,スーパーもあるため,生活には困らなかった.4人部屋は私以外の学生は皆マレーシアからの留学生であり,Ngee Ann Polytechnicに通っている.ホステル内はほとんどの学生がマレーシアからの留学生であり,日本人は私一人であった.そしてほとんどの学生がNgee Ann Polytechnicに通っている学生であるため,最初は心細さを感じることもあったが,仲良くなるとたくさん話をしたりご飯を食べに行ったりすることもでき,専門もバックグラウンドも異なる学生たちと交流する良い機会であった.留学先での住居について一人暮らしなどの選択もあるが,短い滞在期間だからこそより多くの人と交流できる学外の寮を強くお勧めしたい.
留学費用(渡航費、生活費、住居費、保険料)など
- 渡航費:21万8千円
- 生活費:2~3万円
- 住居費:5万円/月
- 保険料:3万3千円
- 娯楽費:10万円
- 奨学金:10万円/月+5万円
渡航費に関しては,格安航空を用いれば1/4程度で済むと思う.シンガポールは食事に関して,ホーカーと呼ばれる食堂や学内のCanteenで食べればとても安い.私の場合,大学の先輩方と遊びに行ったときは食事を毎回奢ってもらっていたので,食事にはあまりお金がかからなかった.
今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望
過去3か月程度の留学に参加した先輩方から,この短期間で研究を完成させることはできないし,行くなら研究以外にも目的を持つべきだということを言われていたので,私は留学の目的の一つに多くのバックグラウンドの人々と話すことを掲げていた.東工大にも留学生はたくさんいるし,話す機会はあるが,あくまでも日本人ベースになっていると思う.周りを見渡せば日本人がたくさんいて,話が続かなかったときに助けを求めることができる.それに私たちは日本での生活に慣れており,留学生と仲良くなることは慣れた生活に訪れる少しの変化でしかない.しかし,今回シンガポールでの生活は日本人が周りに一人もいない環境で,もちろん母国語を話す機会はない,知り合いもいなかったので頼る人も最初はいない,生活自体が手探りの状況であった.
その中で拙い英語で話しかけて仲良くなれたときは心から嬉しかったし,お互いの出身国について,専門について,そしてくだらない話で盛り上がったときはとても楽しかった.正直,留学してから1か月は孤独を感じることが多かった.と言うのも,私が所属した研究室は私以外が皆中国人で,彼らの結びつきはとても強かったし,ホステルも私以外ほとんどマレーシア出身の同じ専門学校に通っている学生だったからである.彼らの多くはまともに日本人と話すのは初めてだったこともあり,同じアジア人だとは言え接し方が分からなかったはずである.また,欧米と比べてアジア人はシャイな人が多いため,積極的に話しかけてはくれない.この環境に身を置くことは生まれて初めてだったために最初は戸惑った.ただ,根気強く話しかけていると,彼らは皆喜んで私を受け入れてくれるようになった.そして,仲良くなるまでの壁が分厚かった分,一度仲良くなるととことん仲良くしてくれた.この経験は少なくとも日本にいると経験できないだろう.かつ,日本人が多く住んでいたり多く留学しているところでも経験できないはずだ.NTUはまだ日本人があまり留学しておらず,かつ中心部から離れているため日本人があまり滞在していない.確かに学術的な面では欧米が先行しているが,これからアジア諸国は経済的にも学術的なレベルもどんどん上がってくると思う.その中で,多くのアジアの人々と交流できたことがシンガポールを選んだメリットであったと思う.
この留学のメインの目的であった研究については,先にも示したが3か月では大したことはできない.これに関してはどこの大学を選択しても同じだろう.しかし,NTUの場合は特に短期留学をすることを想定していない.安全教育はしっかりしているため,研究室に入るためのアクセスキーも1か月ほどの安全講習が終わらないと取得できない.実質2か月ほどの研究期間において,どれだけ研究ができるかなので,正直平日はかなり忙しかった.そして周囲の学生も朝早くから夜遅くまで実験をすることが通常なので,生半可なモチベーションで留学するべきでない大学であると思う.ただ,まだ創立から30年も経っていないのにも関わらず世界でもトップの方の大学になったのにはこの勤勉さがあってこそだと思うので,将来PhDを海外の大学でとろうと思っている方には,ぜひこの環境を一度体験すると良いと思う.
その他生活面については,同じアジアなので日本人にとっては住みやすい環境にはあると思う.食べ物も美味しくて安いものが多いし,日用品についても日本の製品がたくさん売られているので,いざという時に困らなかった.シンガポールと聞くと観光地だと思う人も多いと思うのだが,日系企業も多くあり,経済的な面ではこれから世界を引っ張っていく存在になるかもしれない.また,中国やマレーシア,インドなどのアジアの人々が数多く混在していることも特徴である.日本人はしばしば欧米に目を向けがちだが,近年目覚ましい発展を遂げているアジアの国に留学することも選択肢に入れても良いのではないかと思う.
この体験談の留学・国際経験プログラム情報
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