教育

ゼロから新たな価値を生むマインドを育てる

東工大のアントレプレナーシップ育成プログラム

ゼロから新たな価値を生むマインドを育てるゼロから新たな価値を生むマインドを育てる

アントレプレナーシップ(企業家精神)とは、自分がしたいことや新たなアイデアを基に、失敗を恐れず挑戦して、新たな価値を創出し、社会に定着させていくマインドです。これはスタートアップだけではなく、既存の企業や政府、NGO/NPO、大学における教育・研究活動においても求められています。
アントレプレナーシップを育成する東京工業大学の教育の意義や特長は何か、どのような人材を育成しようとしているのか。
教育運営を担当する井村順一副学長のインタビューや履修生・修了生の声を紹介します。

「専門性をベースに新たな価値創出の基礎力を培う」 井村順一副学長(教育運営担当)インタビュー

井村順一副学長(教育運営担当)

井村順一副学長(教育運営担当)

起業だけでなく、さまざまな場で求められるアントレプレナーシップ

―まず、東工大におけるアントレプレナーシップ育成プログラムの位置づけ、意義を聞かせて下さい。

井村理工系総合大学である本学は「より良い社会を目指し、卓越した専門性とリーダーシップを併せ持つ人材の養成」を教育目標に掲げています。ここでリーダーシップとは幅広い教養やコミュニケーション能力、社会課題に挑戦する気概などを意味します。一方、アントレプレナーシップ(企業家精神)とは、リーダーシップと重なる部分がありますが、新たな価値を創出して社会を変革する能力であると定義しています。

中学や高校の授業で解く問題には必ず正解がありますが、大学や実社会では正解がない問題がほとんどです。近年、ますます複雑化し変化も速い社会の中で、さまざまな社会的な課題が顕在化してきています。それらに対し、自ら課題を設定し、新たな価値を創出することによって解決していく能力が強く求められています。そういった社会にパラダイムシフトをもたらす人材の養成に注力するのが東工大のアントレプレナーシップ育成プログラムです。

アントレプレナーシップというと真っ先に、“起業”をイメージしがちですが、アントレプレナーシップはアントレプレナー(企業家)によるスタートアップに限らず、既存の企業や研究機関、政府、NGO(非政府組織)においても強く求められる能力です。このように、東工大ではさまざまな場において求められる広い意味でのアントレプレナーシップ育成を推進しています。

さまざまな場で求められるアントレプレナーシップ
さまざまな場で求められるアントレプレナーシップ

さまざまな場で求められるアントレプレナーシップ
さまざまな場で求められるアントレプレナーシップ

新たな価値創出のための基礎力とは

―次に、東工大のアントレプレナーシップ育成プログラムの特長と強みを聞かせて下さい。

井村新たな価値創出のための基礎力として、次の3つに注力している点が特長です。1つ目は、新たな価値を創出し社会に設定する力。2つ目は人を巻き込んでいく力。多くの場合、チームでやっていく必要があるためです。そして、3つ目は自らの強い意志のもとで、正しいと思うことを貫き行動していく力です。

また、新たな価値を創出するには科学技術が不可欠です。この点において本学は卓越した科学技術の専門力に強みがあり、そうした高い専門性を基礎におく理工系の学生に向けたアントレプレナーシップ育成プログラムであるという点も大きな特長です。

東工大の提供する3つのプログラム

―現在、「CBEC」「PEECs」「ToTAL」という3つのアントレプレナーシップ育成プログラムが開設されていますね。

井村各年度、CBECもPEECsも100名前後の学生が履修しています。一方、ToTALには、大学院の学生が各学年約20名、全体で現在約70名が登録されています。

まずCBECは「チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム」の略で、2014年度に始まった1年間のプログラムです。東工大の学生に加え、企業の方や芸術大学・美術大学の学生も参加しています。パートナー企業には実際の社会課題を提供してもらい、デザイン思考に基づき、チームを組んで、プロトタイプを作り学内外で発表したりイベントに参加したりしています。ここでいうデザイン思考とは、社会が求めているものを見極めた上で、社会にとって真に価値あるものを作り出し提供していくための設計手法のことをいいます。

PEECsは「実践型アントレプレナー人材育成プログラム」の略で、2018年度に始まりました。起業や新規事業に挑戦し、価値創出や社会変革できる人材の養成を目指すプログラムです。特長は病院などと連携して医療現場などに出向き、フィールドワークを通して社会課題を発見することにあります。CBECが大岡山キャンパスを中心として開催されているのに対し、PEECsはすずかけ台キャンパスを中心に開催されています。

これら2つは修士課程向けのプログラムで、3つ目のリーダーシップ教育院ToTALは、修士・博士一貫の5年間のプログラムである点が特長です。2011年に始まった博士課程教育リーディングプログラムで培った育成プログラムをコアに、リベラルアーツ研究教育院の協力のもとで2018年度に開設しました。リーダーシッププログラムの一環としてアントレプレナーシップの育成を位置づけています。ToTALではアントレプレナーシップとリーダーシップの両方を習得したい学生が多く履修しています。

学士課程向けプログラムの充実へ

―アントレプレナーシップ育成プログラムの今後の展望を聞かせください。

井村順一副学長

井村現在のプログラムは大学院生向けのもので、学士課程の学生に対するプログラムがありません。今後、学士課程向けのアントレプレナーシップ育成の機会を充実する予定です。2021年6月にはそのトライアルとして、学士課程向けにアントレプレナーシップ入門ワークショップを開催しました。株式会社三井物産戦略研究所の副主任研究員で、新規ビジネスを手掛けられている辻理絵子さんに講演していただきました。辻さんはToTALの前身のグローバルリーダー教育院で学ばれ、そこでの学びが現在の事業に生かされているとのことです。履修生は、「こういうキャリアパスもあるのか」といった気付きや刺激を与えられたようで大きな手応えを感じています。

また、アントレプレナーシップへの意識が高い学生向けに、アントレプレナーシップ育成プログラムの上級コースを充実させていくことも重要です。本学の研究・産学連携本部 ベンチャー育成・地域連携部門と連携して、学生の高度な専門性を社会に実装する道を支援していく予定です。

さらに、現在CBECのプログラムではパートナー企業と一緒に進めていますが、やはり社会人を対象とするアントレプレナーシップのリカレント教育も推進していく必要があると考えています。

真に社会に求められ活躍できる人材に

―最後にアントレプレナーシップ育成プログラムに関心を寄せている学生に向けてメッセージをお願いします。

井村本学のアントレプレナーシップ育成プログラムは、社会が真に求めているものは何かを自ら考え、課題を設定し、新たな価値を創出し実行していくためのマインドセットとスキルセットという本質を理解し、トレーニングするための最適で実践的なプログラムとなっています。企業、研究機関、政府、NGOにおいてもアントレプレナーシップは強く求められる能力であり、発揮できる場は実に幅広く、多様性に富んでいます。是非1人でも多くの学生に受講していただき、真に社会に求められ活躍できる人材になってほしいと願っています。

アントレプレナーシップ育成プログラムの概要と特長

アントレプレナーシップ育成プログラムの概要と特長

アントレプレナーシップ育成プログラムには3つのカテゴリーがあります。

カテゴリー1
スキル・マインドセット・プログラム

アントレプレナーシップのためのスキルやマインドを醸成・強化し、「やりたいこと」を明確にする助けとなるプログラム。

カテゴリー2
実践プログラム

課題を設定し、それを解決する「アイデア」を創出し、ユーザーの価値になりうるかを検討する実践型プログラム。

カテゴリー3
事業創出プログラム

上記2カテゴリーは、個人の能力向上が主目的ですが、このカテゴリーは、それに加えて、提案する事業そのものの価値が問われます。既に、事業テーマが明確な人が参加できます。

これらを学ぶために「CBEC」「PEECs」「ToTAL」という3つのプログラムを展開しています。

東工大のアントレプレナーシップ育成プログラム

CBECチーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(シーベック)

デザイン思考に基づく創造手法を学ぶ1年間のプログラムです。東工大生、企業派遣学生、美大生の混成チームで、パートナー企業が抱えている現実問題を解決する問題解決型学習(PBL)を主軸としています。

CBECは、2021年3月で特別専門学修プログラムとしての認定期間を満了し、 現在のところ新規履修学生は受け付けておりません。

工学院 経営工学系 妹尾大教授

工学院 経営工学系 妹尾大教授

CBECは東工大を起点として、学士課程学生、大学院学生、社会人に対して、あらゆる境界を超えてチームとして世の中に新しい価値を生む力を育成し、その価値を実現する機会を持続的に提供します。

履修生

履修生の声

「アフリカのことわざ『If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.(早く行きたければ1人で行け。遠くへ行きたければ皆で一緒に行け)』にある、チームビルディングの重要性を学んだ」。

PEECs実践型アントレプレナー人材育成プログラム(ピークス)

異なる専門分野の大学院生からなる混成チームが、連携先の医療機関・地域行政・民間企業における現場ニーズを把握した「デザイン×ものつくり」に取り組む、実践的かつ独創的な教育プログラムを展開しています。

生命理工学院 生命理工学系 秦猛志准教授

生命理工学院 生命理工学系 秦猛志准教授

PEECsは、絶えず激変する社会、経済環境の不確実性の状況下においても、より幸福な社会を実現するために、新たなアイデアから先駆的な社会的価値を創造できる人材を輩出したいと考えています。

履修生

履修生の声

「社会課題を抽出して何かを作るプロセスにおいて、システマティックに作ることを学べて非常に良かった」。

ToTALリーダーシップ教育院(トータル)

共通教育組織、修博一貫の学位プログラムで、上記の3つのカテゴリーを学ぶさまざまなプログラムを提供しています。研究室で培う高度な専門性に加え、リーディングプログラム10年の資産とリベラルアーツ研究教育院の協力によるプログラムを主体的に学ぶことにより、新たな価値を創造し社会に設定するための世界レベルの「リーダーシップ」を強化できます。

リーダーシップ教育院 山田圭介特任教授

リーダーシップ教育院 山田圭介特任教授

多くの、実績ある学外講師・メンターのサポートを得て、「アントレプレナーシップ」の基礎から実践・事業創出まで、レベルに応じて学ぶことが可能です。ToTAL登録生ではない学士課程学生・大学院生も、科目履修、及び、ワークショップへのスポット参加が可能です。

履修生

履修生の声

「世界にとってより良いことを他者とともに実現する力を身につけたいと思いToTALを履修した」。「ToTALを通して多様な人々と一緒に社会課題を多角的な視点で捉えられるようになった」。

履修生の抱負

「再生可能エネルギー研究に生かす」 履修生 岡崎めぐみ

理学院 化学系 岡崎めぐみさん(博士後期課程3年:ToTAL)
理学院 化学系 岡崎めぐみさん(博士後期課程3年:ToTAL)

大学院(特に博士後期課程)において、自らの専門分野だけでなく、幅広い視野を持ちながら専門外の知識も積極的に習得したいと考えていました。そして、卒業後は研究者として働きたいと考えていたものの、どのような研究に携わりたいのか、また民間企業や大学等、働く場所によってどういった違いがあるのか、具体的にわかっていませんでした。ToTALは、現在第一線で活躍されている先輩社会人によるワークショップや、新規事業創出に実践的に取り組めるようなプログラムが充実しています。プログラムを通して、『社会人になるイメージ』を具体的に描くことで、私自身が将来どこで何をしたいのかを明確にしたいと考え、受講を決めました。

これまでToTALで学んだことは数多くあります。「ビジネスとは、お金儲けではなく、人と人との繋がりの中で、会社が顧客の要望を的確に捉えた『商品』という名の『価値』を創出し続けること」だということを学び、さらに、「新たな価値を創り出す」という目標は、いま私たちが取り組んでいる研究と一致していることに気が付きました。普段の研究から今後どのような価値が生み出され、世の中の役に立てるのか。一方で社会からはどのような場面での応用が期待されているのか、自ら考えながら研究を進めるようになりました。このことから、大学で基礎的な研究を行うことの意義を改めて認識できたと思います。私は現在、再生可能エネルギーに関連した研究を行っています。今後も研究者として、エネルギー問題の解決の糸口となるような新たな価値を創り出すべく、日々努力していきたいです。

「病院での現地調査が貴重な経験に」 履修生 前田翔一

物質理工学院 材料系 前田翔一さん(修士課程2年:PEECs) 物質理工学院 材料系 前田翔一さん(修士課程2年:PEECs)

履修のきっかけは、私が所属する研究室の指導教員である林智広准教授(物質理工学院 材料系)が、PEECsの実施教員の一人であったことです。特許出願や事業化を体験できる本プログラムにとても興味を惹かれました。

「デザイン創造基礎」では、ユーザー視点で問題を発見し解決する「デザイン思考」の基礎を学びました。私のような理系の技術者は、ついつい誰にも負けない高性能な製品を開発しようと思ってしまいますが、実はそれはユーザーが望んでいない物だったりします。ユーザーが何を求めているのかをしっかり分析することの重要性と、それを聞き出すインタビュー技術を学ぶことができました。「デザイン創造フィールドワーク」「デザイン創造実践」では、学んだインタビュー技術を生かして大学病院で現地調査を行います。医師や看護師らと病院が抱える問題について直接話し合い、それを解決するプロダクトやサービスを製作し、病院へ提案するこの取り組みは通常の講義では経験できない貴重な体験でしたし、提案が採用された時は大きな自信に繋がりました。

PEECs修了後の現在も、その経験を生かして自身の開発したプロダクトの商品化に向けて取り組みを続けています。各種コンテストへの応募や公募ファンドの獲得、さまざまな企業への事業化協力の依頼はどれも良い経験となっています。将来の研究者人生においてもPEECsで学んだ「デザイン思考」や「アントレプレナーシップ」を生かして、イノベーションを起こせる人材になりたいと思っています。

「強い意志を持って、新たなことに挑戦して欲しい」 修了生 岩田裕平

スポーツチームとファンを繋ぐ事業に賭ける

SpoLive Interactive株式会社 代表取締役CEO 岩田裕平SpoLive Interactive株式会社
代表取締役CEO 岩田裕平

現在、SpoLive Interactiveの代表取締役CEOを務めているCBEC修了生の岩田裕平さん。ビジネスデザインリードという役職でNTTコミュニケーションズ株式会社(以下NTTコム)にも在籍しながら、出向しています。同社はスポーツ観戦アプリ「SpoLiveouter」を提供するスタートアップです。スマートフォンを通じて観戦中に好きなチームに応援を送ることができ、スタジアムの大型ビジョンに可視化することができるなどスポーツチームとファンとの間の双方向コミュニケーションが可能なプラットフォームを提供しています。「SpoLiveはNTTコムの社内起業により始めた事業でしたが、スピード感をもって成長させていくため、出向起業(会社として独立させ、そこに出向する)という選択肢を取りました」。

CBECでイノベーション創出を体系的に学ぶ

修士までは素粒子物理学の基礎研究をしていました。2013年大学院修了後、NTTコムに就職し、研究開発部門で地域情報やデータサイエンスの研究に従事していました。そんな中、社内でCBECの話を聞きました。「学生時代から新技術の社会実装に興味があったのですが、社会人になってからは特にデザイン思考について強い興味を持っていました。CBECでイノベーション創出のマインドセットを基礎から体系的に学びたいと思い、2015年から1年間、平日の夕方以降や土日に学ぶことを決意しました」。

実際にCBECで学んで特に良かった点について岩田さんは以下を挙げます。「まず、デザイン思考やリーダーシップ、アントレプレナーシップ論に関する体系的な知識を学べたことです。特に自分が本当に実現したいことを推進することの大切さを学びました。新規事業を育てるには長い時間を要します。そのため、テーマはそれだけの時間をかけてもやりたいと思えるものであることが起業する上での大切なポイントになります」。

また、チーム全体の価値を最大化することも重要です。「SpoLiveの事業を進める上で、まさにCBECで学んだ『メンバー各々が得意とすることに注力し、自分の果たすべき役割を全うすることがチーム全体の価値を最大化する』という教えが役に立ちました」。

「これを実現したい」という強い意志が重要

東工大のアントレプレナーシップ教育では、「価値創造」「他者との協調」「強い意志」の3つを柱としていますが、岩田さんは中でも強い意志をもつことの重要性を強調します。「『これを実現したい』という強い意志さえあれば、何かあったとき、必ず誰かが助けてくれます。まずは自分の意志を強くもつことが大切です」。

CBEC修了後の2017年には、経済産業省主催の次世代イノベーター育成プログラム「始動Next Innovator 2017」にも参加し、シリコンバレーに派遣される選抜メンバーにも選ばれました。「始動の参加者はまさに強い意志を持つ人たちの集まりでした。CBECと比較するとより実践的な内容で、教育プログラムであるCBECで基礎をしっかりと固めていたからこそ、多くのチャレンジができました」。

挑戦することの素晴らしさを学んで欲しい

岩田さんは、起業や社内起業に興味を持っている学生に向けて、次のようなメッセージを送ります。「現在日本の学生の多くが安定志向なのは未知のものへの不安や恐れがあるからかもしれません。しかし近年社会課題の解決や価値創造へのニーズが急速に高まっています。強い意志を持ち、新たなことに挑戦したい人材に対して優しい社会になってきていますし、企業もそういった学生を求めています。アントレプレナーシップ育成プログラムを通じてまずは不安や恐れを低減し、挑戦することの素晴らしさを学んで欲しいですね」。

岩田裕平氏 プロフィール

2013年 理学研究科物理学専攻 修士課程修了
2013年 NTTコミュニケーションズ株式会社入社
2016年 東工大CBEC修了
2020年 SpoLive Interactive株式会社を起業、代表取締役CEO

「既定路線を歩むのではなく未知の世界の開拓に挑戦を」 プログラム講師 堤孝志

効率的に新規事業を立ち上げるためのプログラム

ToTAL オープンプログラム「リーン・ローンチパッド」ファシリテーター 堤孝志ToTAL オープンプログラム
「リーン・ローンチパッド」
ファシリテーター 堤孝志

東工大ではさまざまなアントレプレナーシップ育成プログラムを用意しています。その1つに、2013年からToTALで毎年提供している「リーン・ローンチパッド」があります。これは2010年に開発されスタンフォード大学などで導入されている人気のプログラムです。それを日本向けにアレンジし提供しているのが堤孝志さんです。「リーンとは効率的という意味、またローンチパッドとはロケットの発射台のことですが、ここでは新規事業の発射台という意味で使っています。効率的に新規事業を立ち上げるための実践型起業家育成プログラムであるということです」。

アントレプレナーシップ教育の意義とは

アントレプレナーシップ教育の意義を堤さんは3点挙げます。まず1つ目は事業創造を体系的に学べることです。従来は経験からしか学べないと考えられてきましたが、この10年ほどでパラダイムシフトが起こり、さまざまな手法が開発され事前に学べるようになりました。2つ目は事業創造の手法を学ぶことで、自分も挑戦してみたいと思えるようになることです。そして3つ目はアントレプレナーシップ教育は人生にも役立つ汎用性の高いものであるということです。「リーン・ローンチパッドでは、常に問題意識を持つことの重要性を教えています。それにより、より有用な情報をつかめるようになり、価値を創造するための画期的なアイデアを発見しやすくなります。この姿勢は自分の人生を充実させる上でも大切なことです」。

特にリーン・ローンチパッドは、限られたリソースの中で最大限の成果を出すことに着目した、新規事業の成功確率を上げるための手法です。たとえば、社会のニーズの捉え方を体系的に学ぶことで、社会のニーズにより合致した製品やサービスを提供できるようになり失敗のリスクを低減できるというわけです。これは起業に限らず、既存の企業においても求められる手法です。

科学技術の多岐にわたる専門分野をチームとして生かす

堤さんは東工大の学生がアントレプレナーシップ育成プログラムを学ぶことのメリットとして次の3点を挙げます。1つ目は東工大の学生は論理的思考力が高いため、手法をすぐに習得し実践できること。2つ目は自分が考案した製品やサービスを実際に作るという、本物に近い疑似体験をしますが、その際、技術力が高いため、製作と改良のサイクルが速いこと。3つ目は価値創造には科学技術が不可欠であり、専門分野が多岐にわたることで、チーム内、また学内で補完し合って取り組めることです。

技術を形にする研究成果の社会還元

「優秀な人材には、既定路線を歩むのではなく未知の世界の開拓に挑戦して欲しいと願っています。以前は大企業に入ることが1つの目標でしたが、今は事業の賞味期限が非常に短いため、大企業といえども新たなことに挑戦し続けない限り安泰ではありません。そのため、企業も事業創造力やリーダーシップ力のある人材を重要視しています。研究分野でも研究成果の社会還元が求められていて、その方法の1つに技術を形にする事業化(事業創造)があります。是非アントレプレナーシップ教育を活用し、これからの時代をけん引する人材を目指してほしいですね」。

堤孝志氏 プロフィール

1991年 東京理科大学 工学部卒業
2003年 McGill大学 経営大学院修了
総合商社、ベンチャーキャピタル勤務を経て
現在、スタートアップ・ブレイン株式会社代表取締役
ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社共同代表

SPECIAL TOPICS

スペシャルトピックスでは本学の教育研究の取組や人物、ニュース、イベントなど旬な話題を定期的な読み物としてピックアップしています。SPECIAL TOPICS GALLERY から過去のすべての記事をご覧いただけます。

2021年9月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp