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再生可能エネルギーの導入でサスティナブル社会の実現へ―畦地啓太

再生可能エネルギーの導入でサスティナブル社会の実現へ―畦地啓太

畦地 啓太さん
Keita Azechi

自然電力株式会社 洋上風力事業部
博士(工学)

サスティナブル社会のリーダー国となる未来を見据え、再生可能エネルギーの推進に挑む

地球温暖化を始めとする環境問題が進行する中、抜本的な対策が急がれる今日。サスティナブル社会の実現をライフテーマに掲げ、東工大での研究を重ねた畦地啓太さんは、現在自然電力株式会社で再生可能エネルギーの導入に携わっている。研究を始めた学士課程、卒業後に経験した農家と海外での生活、再び東工大で学んだ修士課程と博士後期課程。その10年の軌跡を振り返り、今につながる学び・気づきを語ってもらった。

環境技術研究で感じた「限界」そして「電気ナシの社会」へ飛び込んだ

サスティナブル社会の実現に興味を持ったのは15歳の時。『沈黙の春』(レイチェル・カーソン著)と『風の谷のナウシカ』(宮崎駿著)を読んで感銘を受けました。地球規模の環境問題を前に、人は国を超えてどう共生し、どう解決していくのか。一生をかけて取り組める大きなテーマだと感じて、その後の基軸となりました。当時は宇宙で太陽光を利用して高効率で発電する「宇宙太陽光発電」が世間で話題になっていて、サスティナブル社会を叶える方法として再生可能エネルギーに着目。発電に関する学びへの関心はますます高まり、東工大の工学部電気電子工学科に入学しました。

学士課程では環境技術の一環として、蛍光灯の調光技術を研究しました。交流(AC)・直流(DC)の変換など、電力変換工学の分野にあたるものです。ただ、こうした技術を研究する中で徐々に「技術の限界」を感じるようになりました。技術の進展自体は日進月歩ですが、その技術が人々の暮らしの内部にまで浸透するスピードは決して速くありません。サスティナブル社会が本当に技術だけで実現できるのかどうか、疑問を覚えたのです。そこで、広い視野で「サスティナブル社会実現の道」を探るべく、学士課程卒業後、半年間農家で住み込みで働きながら資金を貯め、ネパール、インド、タイ、カンボジアなどのさまざまな国を回りました。その半年間の海外生活の中でも特に、電気の無いコミュニティで2、3ヵ月暮らした経験が大きなターニングポイントになったと思います。明かりといえば、日中に太陽光を蓄電池で貯めて、夜にキッチンで点けるのみ。それ以外は自分の手元をろうそくで灯すくらいで、7時ごろには就寝します。この生活を通じて、「0から1」を生み出す再生可能エネルギーの価値を改めて感じ、研究に戻ろうと決意しました。

技術と社会をつなぐ立場を目指し、再び東工大での研究へ

「技術」にどっぷり浸かった学士課程と、電気のない「社会」を経験した数ヵ月を経て、自分は「技術と社会の間に立つことで、自分の価値を発揮できる」と気づきました。当時、日本国内では風力発電の風車設置が地域の反対運動を受けてなかなか進まないという課題がありました。どうしたら再生可能エネルギーが社会に受け入れられていくのか、社会的合意形成や土地利用政策などに取り組める大学院を探したところ東工大の原科幸彦・錦澤滋雄研究室へ行きつき、結果的に東工大へ“帰る”ことになったのです。

修士課程では、日本中の風力発電建設の事例を調査し、地域住民の反対につながる因子を割り出して統計を取りました。一つの結論として、再生可能エネルギーの導入においては、民間事業者に任せるのではなく、国や公共機関が指揮を執って、そこに民間事業者を呼び込む方が反対を受けにくいということが分かりました。実際にこうした制度を導入しているのが、再生可能エネルギーの先進国であるドイツです。1970年代のオイルショックおよび1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故による影響を受けた経験から、ドイツでは国や公共機関はもちろんのこと、民間にも再生可能エネルギーへの転換意識が強く浸透しています。自分自身の体験としても、修士課程の2011年に東日本大震災での福島第一原子力発電所事故があり、そのときに「日本の再生可能エネルギーをもっと推進しなければ」と研究の継続を決めた背景があります。そこで、博士後期課程ではドイツを訪れ、再生可能エネルギー導入のステークホルダーとなる人々へのヒアリングを通じて、制度の強みや課題に関する研究を行いました。アポイントを取るためにメールを50-60通も送り、産官学問わず返信が来た相手にひたすら会って、ドイツ語を翻訳しながら話を伺う……という流れです。良い面だけしか見えない制度も、現場では愚痴が色々出てきます。政策を考える上では、その愚痴が大切な課題となって見えてくるのです。

修士課程・博士後期課程では東工大のグローバルリーダー教育院(AGL)にも第1期生として所属しました。業務では、全貌が見えない不確実な状況の中で一歩を踏み出す行動力・判断力や、スピードが求められる状況が多々あり、AGLでのワークショップやディスカッションを重ねる中で身に付けたデザイン思考がダイレクトに生かされています。また、AGLプログラムにあるスタンフォード大学やインド工科大学での研修でも、世界トップレベルの学生との議論の経験は、企業や住民との交渉の場面でとても役立っています。

サスティナブル社会を国際的に牽引する“JAPAN”を目指して

サスティナブル社会を国際的に牽引する“JAPAN”を目指して

現在勤務している自然電力株式会社は、実は、ドイツでのヒアリング中にご縁があった企業です。入社後に主に携わっているのは、風力発電の企画開発です。国内外の地点についての条件分析、風車を立てる地点の決定、実際の地域住民との合意形成や調整、行政との折衝、風車を立てる工事業者との調整など、初期段階を主に担当しています。特に現在は海の上に風車を設置する洋上風力発電を担当していて、国内外のパートナー企業と連携しながら進めています。多様な立場の人との調整はときに苦労しますが、東工大で培ったロジカルシンキングとコミュニケーション能力、リーダーシップを存分に活用しています。業務の中で痛感するのは、論理的な思考だけでは人は動かないということ。相手の不安を取り除く接し方や見解の違いを受け入れる柔軟性、さらには複数の立場を考慮しながらプロジェクトを推進していく力が必要です。こうした力は、1年間の海外生活やAGLでのワークショップ、ドイツでのヒアリングで培われたと感じています。

今後は、政府が宣言している2050年までのカーボンニュートラル達成に主体的に携わっていきたいと考えています。現在担っている仕事の中心は風力発電ですが、それ以外にも太陽光やデジタル技術を活用した蓄電池など再生可能エネルギー全般に携わる業務もあり、全貌を捉えた仕事をしています。さらにその先のビジョンとして、「日本をサスティナブル社会のリーダー国にしたい」という大きな目標があります。博士後期課程で訪れたドイツでは、人々が世界中から再生可能エネルギーを学びに集まり、その人材の集積がさらにドイツを強くする好循環がありました。「サスティナブル社会といえば日本だ」「日本に学びに行こう」と思われる未来を目指して、国内外の再生可能エネルギーへの転換を推進していくつもりです。

畦地さんのキャリアパス

  • 2001
    15歳の時、『沈黙の春』と『風の谷のナウシカ』を読んで環境問題に興味を持ち、サスティナブル社会の実現をライフテーマとすることを決意
  • 2005
    太陽光電池や風力発電などの「電気」を学ぶため、東京工業大学工学部 学士課程に入学
  • 2009
    学士課程卒業後にギャップイヤーとして、農家で半年間働いたのちに海外に半年間滞在し、電気のない暮らしを経験
  • 2010
    東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻修士課程入学。原科・錦澤研究室にて風力発電導入事例の分析に励む
  • 2011
    グローバルリーダー教育院(AGL)の第1期生として、博士後期課程修了までデザイン思考を学ぶ
  • 2012
    同大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻博士後期課程入学。再生可能エネルギー先進国であるドイツに留学。エネルギーインフラの制度と課題を分析し、研究テーマとする
  • 2015
    自然電力株式会社へ入社。国内外への再生可能エネルギー普及を目指し、複数のプロジェクトを推進中

畦地 啓太

畦地 啓太
あぜち けいた

Profile

2009年、東京工業大学工学部 電気電子工学科を卒業後、世界各地を回る中で「電気のない暮らし」を経験。2010年に再び同大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻。2015年博士後期課程修了後、同年4月より自然電力株式会社に入社。国内外の再生可能エネルギーのプロジェクトを推進する業務に励んでいる。

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Tech Tech ~テクテク~

本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ~テクテク~ 42号(2023年3月)」に掲載されています。広報誌ページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。

取材日:2022年12月/自然電力株式会社 東京オフィスにて

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp