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踊る惑星科学

サイエンスとダンス、異なるアプローチから世界とのつながりを探る

踊る惑星科学

惑星科学の研究者として地球や生命の起源、この世界の成り立ちに迫る井田茂教授と、ダンサーとして世界の今を表現する大久保裕子さんは旧知の仲。サイエンスとダンス、異なるアプローチから世界とのつながりを探るお二方に、お互いの考えを語り合っていただきました。

(対談日:2017年12月15日/大岡山キャンパスにて)

「身体性」からものごとを考える

大久保井田先生にお会いするのは1年ぶりくらいでしょうか。今日はお招きいただき、ありがとうございます。

井田日本科学未来館の科学コミュニケーターの方を介して知り合って以降、年に1回は食事会をしますよね。いろんな分野で活躍している固定のメンバーと、互いに興味があることを語り合える刺激的な機会です。

大久保そういえば、ミュージシャンの友人やダンスの仲間と、先生の研究室にお邪魔したことがありました。印象的だったのは、本やモノがあまりない研究室の中に、ダンスのポスターが1枚貼ってあったこと。先生の独特な感性が素敵だと思いました。もともとダンスに興味をお持ちだったのですか?

井田茂

井田大学時代を過ごした京都で、音楽や舞踏をよく鑑賞していたときからです。大久保さんが研究室を訪ねてきたのは、ダンスと物理学をテーマにした本を出版されるにあたって話を聞きたいということでした。僕の専門ではないですが物理学の出身ではあるので、科学者の立場から意見を述べ、フリーディスカッションをしましたね。なぜダンスの分野からサイエンスに思考が向かったのでしょう。

大久保ダンスは身体のラインというものが大切で、外と自分との境目の形がとても重要視されます。幼いころに始めたバレエからコンテンポラリーダンスへと長年やってきた中で、基本となるそのラインを超えていくような動きが見つけられないか、という思いがありました。ダンスの方法論が出尽くして色々と模索していたところ、サイエンスの発想からイメージをもらえたり、共通点を見い出せたりできるのではないかと感じたのです。ちょうど先生に出会って少し経った頃で、まずはお話をお聞きしようと思ったのですが、私からの一方的なアプローチというか相談というか…。今考えると、答えに困るような質問をいっぱいしていましたね(笑)。

井田よくアートと科学は親和性が高いと言われますが、いざ深く入ってみると全然違うものです。実際にクリエイターやアーティストの方と言葉を交わすと、考え方やものの見方の違いが発見でき、そういうアプローチの仕方をするのかと刺激になりますね。

大久保私としても、科学者や研究者の方の思考の進め方に初めて触れ、その違いを発見できたのは大きかったです。

井田大久保さんと話をして僕が感じたのは、身体性はやはり重要だということ。宇宙などを研究しているわれわれ科学者は、そういう対象には身体性というものは関わらないと普通は考えます。身体性などの主観的なものを排除することが科学の基本的な方法論なのですが、科学をやるのは人間であり、宇宙を認識しているのも私であることを考えれば、科学や宇宙を語るときにも身体性を完全に無視することはできないのではないかと思います。著書『系外惑星と太陽系』の中で僕は、「天空の科学」と「私の科学」という2つの考え方を書き記しました。宇宙のはじまりやブラックホール、重力波、ひも理論の10次元などは、たとえばあの世に近い天空のような科学。一方で、医学や環境科学、私たちの身体に直接つながっている科学もあります。僕は物理から出発して地球科学にも携わったことから、あの世とこの世の間のようなところにいる気がしていて常に何か違和感を覚えていました。しかし、中間にいると分野ごとのアプローチの違いがわかり、「私の科学」につながる身体性も重要だと認識できる。宇宙の研究も結局は自分の身体を通して理解していくという部分では、あの世は私につながっていると考えるようになり、違和感の原因が次第に整理できるようになりました。

大久保自分の立ち位置が明確になって、やっていることが納得できるようになってきたということでしょうか。

井田そうですね。パフォーマンスをしている人たちは、やはり自分たちの身体を重視しています。科学は主観を排して客観性を追求することで逆に人びとをつなぐものですが、そこに身体性というものが介在する可能性があると気づかせてもらえました。

世界とつながるダンスとサイエンス

大久保裕子

井田本の出版後、山伏の方とダンス公演を開かれましたね。どういった経緯があったのですか?

大久保新しい表現を模索する中で、山伏は日本の芸術全般の起源にとても深い関係があるということを知りました。科学的な新しい発想からルーツへと興味が変化したのは、常に自分を客観視したい、バランスを取りたいというような感覚でしたが、さきほど先生にこの感覚を言葉にしてもらえたように思います。自分のことが理解できたみたいで嬉しいです。

井田大久保さんは、自分の身体というツールを使って世界をそこに映し出している。それが僕の印象なのですが、もし理解が正しければ科学者がやっていることも同じであると思います。多様なテクニックや知識を身に付け、強力なツールを使って世界を受け入れ自分を通して解釈し、違う形で外に出すという点において共感する部分があると考えています。

大久保確かに、コンテンポラリーダンスとして身体を通して「今」を考えるという活動をしていますね。自分の歴史の中で、ダンスとの関わりはその都度変わっています。小さい頃は単純に踊ることが楽しくて、段階を踏んで自分の中での踊りの意味が変化して、今は「ダンスを通じて世界とつながる」という部分で楽しんでいる感じでしょうか。

井田今の「世界とつながる」という言葉は僕も同じです。科学者はよく「なぜ研究するのか?」と聞かれます。まずは知りたいからですが、なぜかを深く考えると僕の場合、それは「世界とつながるため」だと思っています。幼少の頃、世界から自分が切り離されている感覚を持っていて、図書館に籠もって本棚の端から順にひたすら本を読む生活をしていました。

大久保そうだったのですか。先生の少年時代の話を聞くのは初めてです。

井田しばらくして物理学に出会い、大学で勉強に没頭して自分の中へ沈んでいくうちに、世界とつながれた気がしました。たとえば、科学者には大きく分けて2つのタイプの人がいると思います。自然観察や実験から入る人もいますが、一定の割合の人はそういうことには興味がありません。天文学者でも星なんか観察したことがないという人も結構います。

大久保えー!(笑)

井田本当ですよ。そういう人たちは、この宇宙の仕組みが知りたいというところに根源があります。基礎科学の分野では明確なゴールを設定しないことも多いんです。設定すると自分の可能性を狭めることもあるし、想定外から大発見が生まれることもあります。工程表を作らず、自分の興味の赴くままに専門を変えていく人も結構います。多くの科学者は、常に新しいことにチャレンジしようという気持ちを持っています。現在、地球生命研究所(ELSI)では、多分野の若いクリエイターと協働のプロジェクトを行うコラボレーション企画を進めていて、僕も参加しています。

大久保まったく異なる分野の人同士が一緒になる機会は、私の場合はあまりありませんが、とても刺激的な機会ですね。色々なハードルや難しさもありそうです。

井田クリエイターの人たちの方法論と科学者のそれとの違いに気づいて、それを科学コミュニケーションに役立てたいと思うのですが、いざやろうとすると、これまで日常性とか身体性から出発して表現するというトレーニングを積んできていないので難しいですね。科学を伝えるときに、結果だけを提示しても仕方がありません。自分が理解したときのわかり方をどう伝えたらいいか、わかるとはどういうことなのか。今回のコラボレーションでは、そのヒントを探っています。

大久保クリエイターとは違った角度からのとてもクリエイティブな作業ですね。科学者のステレオタイプとしては頭が固くて決まり切ったことしか言わないと思われがちですが、そんなことは全然ない。

井田それは、科学者はみんな慎重で迂闊なことは言わないからです。100%そうだと証明することは非常に難しいとわかっているから、言い切ることは科学者は避ける傾向にあります。それで言い方やニュアンスを変えながら各々が表現を凝らしています。ただ伝わらないだけで(笑)。

大久保かもしれない、そうである可能性は否定できない、のような言い方ですね(笑)。

井田論文の結論もcouldやwould、mayやmightなど英単語を使い分けて書く。世間一般が持つかもしれない曖昧なイメージや非常に固いというイメージとは違い、慎重に考え、なるべく正確に伝えようとします。

踊る惑星科学

ますます進歩を重ねる系外惑星の観測

井田今の惑星形成の議論は非常に激しく変動しています。1995年以前は、この宇宙で惑星系といえば太陽系しかわれわれは知らなかった。大久保さんはご存知でしたか?

大久保1995年! そんなに最近のことだったとは知らず驚いています。

井田1995年を境に何千もの惑星が発見され、議論やアプローチの仕方、観測の精度などが劇的に変わりました。このとき、太陽系の配置がなぜ水金地火木土天海の並びになるかを説明する理論はできていました。しかし、発見された何千もの惑星系はそれと似ても似つかない配列を持つものが大半を占めていて、誰も想像しなかったものばかり。当然それまでの惑星形成理論は適用できず、根本からつくり直すことになりました。

大久保足元をひっくり返された感じですね…。科学者の皆さんがどう受け止めたのか気になります。

井田最初は茫然自失、そして大喜びしました(笑)。権威のある研究者も若手研究者も一律に、みんなが同じスタートラインに立つことになったわけです。観測データを与えられ、太陽系をつくるモデルがあり、理論を組み立てていく作業ができるわけですから楽しくて仕方がなかったですね。太陽系と、発見された多彩な惑星系のそのバラエティを自然に説明できるモデルをつくるために、新しいアイディアがどんどん出てきました。あらゆる可能性を否定せず、議論を煮詰めては新しい謎が生まれてくる、その繰り返しという状況です。

大久保惑星が発見されるようになったのは、何かものすごい技術革新があったからなんでしょうか?

井田そうではなく、思い込みが邪魔をしていたのです。実は、今発見されている系外惑星を観測する技術は1980年代に確立されていました。それでも発見できなかったのは、太陽系しか知らずそのバリエーションでものを考えるしかなかったからです。木星は12年、土星は30年かかって公転しているので、10年20年周期で変動する星を探していました。しかし、最初に見つかった惑星は4日で変動していたのです。

大久保何十年と思っていたのが、たったの4日! それは見つけられませんね。

井田観測データからノイズを落とさないとシグナルは見えません。真っ先に落とすのは、短い周期で変動しているもの。そのノイズだと思っていたところに実はシグナルがあって、果敢に拾い上げた人がいた。検証の結果正しいとわかると、みんな古いデータを出して解析し直しました。するとシグナルがどんどん出てきたのです。それ以降は目的に特化した装置が生まれ、観測技術も飛躍的に向上しました。

大久保狙いがはっきりすると、確かに精度は増していきますね。それに、光っている星を見つけるには工夫やアプローチの仕方といったアイディアも必要になりそうです。

井田その通りです。惑星によってふらつく恒星の光のドップラー効果による色の変化を見つけるのか、惑星による中心星の食を見つけるのか、惑星重力による相対性理論的な光の歪みを見つけるのか、さまざまな観測方法が新しく提案されています。装置も同軸ケーブルから光ファイバーにしたり、10の-5乗程度で一定温度にしてみたり。細部の積み重ねで何桁も精度の高い観測ができるようになりました。かつて地球大のものを見つけるのは原理的に不可能、100年はかかると言われていた惑星が10年くらいで発見できてしまいました。

大久保やっぱり、最近の科学の進歩は早いですね。情報も今はインターネットで一瞬で共有できてしまいます。たとえば先生がコンピュータを使っていて実感することもあるのではないですか?

井田観測データの計算やシミュレーションが早いと、試行錯誤するペースも上がります。今では惑星系のバラエティの形が見えはじめ、地球のように、生命を宿しているかもしれない惑星まで話が進んできました。

光のドップラー効果…ドップラー効果とは、例えば救急車のサイレンが近づいてくるときは高く聞こえ、遠ざかるときには低く聞こえるなど、音波や電磁波などの波の発生源と観測者が動く事で、観測者に聞こえる音の振動数が大きくなったり小さくなったりする現象を指す。光の場合も同様の効果が観測されており、近づいてくる星は青っぽく、遠ざかる星は赤みがかって見えるなど、振動数によって色の変化をもたらすことがわかっている。

井田茂 大久保裕子

地球外生命は新たな学問に

大久保生命のいる惑星というと、夢やロマンを感じますね!

井田面白いことに、生命を宿しているかもしれない惑星として、今観測が進んでいるのは、赤外線を出す暗い恒星のすぐそばを回る惑星で、海はありそうだけど地球とかけ離れた環境の惑星なのです。恒星の近くを回っている惑星は観測しやすいからですが、X線や紫外線なども多い。この少し刺激の強い環境の方が生命が進化するかもしれないという議論になってきています。私たちと同じ世界を考えていたのに、今は私たちと違う世界を探しているのです。

大久保地球からずっと遠くにあるのに、その星に生物がいそうだとどう判断するのですか?

井田たとえば望遠鏡観測で大気の組成を調べることです。地球の酸素は植物やバクテリアが光合成の廃棄物として出していますし、大気から何か導き出せないか議論されています。ヨーロッパ南天文台(ESO)が1年ほど前に地球から4.25光年の位置に地球サイズで海がありそうな惑星があると発表しました。現在のナノテク技術を使えば1cm四方のマイクロチップにカメラが載り、レーザーを当てれば光の速さの4分の1のスピードまで加速できることは原理的に可能だと言われています。16年かけて到着し、撮った写真を送り返すと帰りは4年で届く計算です。

大久保今から送れば、20年後に別世界の写真が送られてくるかもしれないということですか。ひとつのエポックが1995年にあって、惑星の科学はまさに日進月歩で変わっているのですね。

井田さらにその10年後、2005年も重要な年です。土星のリングを観測しにいった探査機カッシーニが、土星の衛星エンケラドスの表面から水が噴き出しているのを発見しました。エンケラドスの表面は氷です。割れ目から水が噴き出るのは内部が高温である証拠で、水には有機物も入っていました。つまりエンドラケスの中には熱い海があり、生物がいるかもしれないと考えられています。

大久保生命の起源に迫るような話で、関心して聞いてしまいますね(笑)。ここが地球生命研究所だということもあって、さらに実感が湧いてとても面白いです。

井田地球と生命の起源を探るというのがこの研究所の目標です。地球だけを見ていたらわからなかったその起源について、系外惑星の発見をもとにかなり正確に分かってきました。生命の理論もそうです。地球の生命はバクテリアも木々も私たちも共通祖先を持ち、遺伝暗号はほぼ同じ。アミノ酸は無数といっていいような種類が存在しますが、人間も大腸菌も同じ20種類のアミノ酸で構成されています。つまりわれわれは1種類の生物しか知らないのです。

大久保1種類しか知らないと全体は見えてこない…、太陽系のモデルと同じですね。

井田そうです。エンケラドスや木星の衛星エウロパへ向かって別の組み立ての生物を発見することや、系外惑星を観測して情報を得ることで、地球の生命の起源に迫ることができる、そういう機運が高まっています。実証して共有の知識にしていかなければ科学に進歩はありません。今はその段階に入っていて、世界に先駆けて設立されたこの地球生命研究所と同じような研究所をつくり、生命の起源の研究に力を入れていこうという流れが生まれています。今猛烈に進歩している宇宙生物学の分野で、東京都三鷹市に、自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンターが数年前にできました。これからも同様の研究所が多く誕生するでしょう。科学において実証できないものは学問ではなく、僕が学生の頃は生命の進化すら学問ではないと言われていました。

大久保そうだったのですか。今では立派な学問分野のひとつですよね。すると生物の起源にも、これからますます謎が解明されていく可能性があると思ってしまいます。

井田生命の起源の議論が今後急速に進展していくことを期待します。

大久保先生のお話を聞いていると、子どもの頃に興味があったことや、身体を通してダンスで世界とつながる感覚が呼び覚まされていくようです。今日はそれを実証していただきました。面白いと思う目の前のことに必死で取り組むことが何より大切なのですね。

井田興味のあることに熱を上げるタイプが科学者には多いと思います。もちろんいろんな人がいますが、研究に限らず何にでも熱中していく生き方はやっぱり刺激的だし、僕も今日は楽しい時間を過ごせました。惑星科学を目指す学生には、こんな考え方もあるんだと伝えていきたいですね。

探査機カッシーニ エンケラドス 土星

井田茂

井田茂

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI) 教授

1960年、東京都生まれ。1984年、京都大学理学部物理系卒業。1989年、東京大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程修了、理学博士号を取得。1993年に東京工業大学理学部地球惑星科学科の助教授(現在の准教授に相当)となる。2006年より教授。2012年、文部科学省のWPIプログラムによって設立された東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の副所長に就任。著書は『地球外生命体』『異形の惑星-系外惑星形成理論から』『系外惑星と太陽系』など。理学院 地球惑星科学系担当。

対談 Shigeru Ida、Yuko Okubo

大久保裕子

大久保裕子

コンテンポラリーダンサー

橘バレエ学校卒業。牧阿佐美バレエ団退団後、コンテンポラリーダンスの活動をスタートし、国内外のダンスフェスティバルに多数参加。2002年、パフォーマンスグループKATHYを結成し演出・企画を中心に担当。2007年、LISTE(Art B ASEL)にスペシャルゲストとして選出。ダンスの理論書『KATHY's New Dimension』の出版、ファッションショーの演出や振り付けなど、さまざまなアプローチで身体にまつわる作品を発表。近年は「あたらしい芸能」の創作に取り組む。2016年、古来から続く芸能とマツリの歴史を現代へとひらいていく新作ダンス公演「三つの世界」を開催。

地球生命研究所(ELSI)

「生命が生まれた初期地球の環境をもとに地球・生命の起源を解明する」ことを目的とする、バーチャルなネットワークではなく、実際に人々が集う研究所。 地球科学、生命科学、惑星科学など幅広い分野の学問を融合し、異分野のコラボレーションによって人類の根源的な謎に迫ることを研究ミッションとする研究所は世界に例を見ない。

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)outer

Tech Tech ~テクテク~

本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ~テクテク~ 33号(2018年3月)」に掲載されています。広報誌outerページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。

SPECIAL TOPICS

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(2017年取材)