大学院で学びたい方

人と違うことをやって、クリエイティブに生きたい ― アレクシー・アンドレ

アレクシー・アンドレさん

Alexis André

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
リサーチャー 学術博士

15年前、故郷を離れ東工大にやってきた一人のフランス人青年。東工大大学院で苦労しながら博士号を取得した彼は今、アートとコンピュータサイエンスの出会いともいえるユニークな研究の成果を次々と世の中に発信し始めている。

アルバイトで知った刺激的な研究の世界

ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニー CSL)には約30人の研究者が所属し、それぞれユニークなテーマの研究に取り組んでいます。私が初めてこの研究所に足を踏み入れたのは、まだ東工大大学院(博士後期課程)に在学中のこと。アルバイトとして週2回ほど、ソニー CSLに通って研究者のアシスタントとしてプログラミング作業を行っていました。上司は高度な数学の研究をしていたのですが、正直何をやっているのかさっぱり分からなかった(笑)。そして隣の研究室にいたのがなんと脳科学者の茂木健一郎さん。とても刺激的な環境で、“いろんな研究のやり方があるな~”と目を開かれる思いがしました。実は当時の私は博士論文作成にあたって壁にぶち当たっていたのですが、アルバイト先からの刺激を得てなんとか博士論文を仕上げ、そのままソニー CSLの研究職に応募し、大学院修了後に採用していただいたというわけです。

「面白い」や「きれい」をコンピュータで生成する

アンドレさんのインスタグラム画面。「自分がクリエイティブでいるためのトレーニングです」
アンドレさんのインスタグラム画面。
「自分がクリエイティブでいるためのトレーニングです」

東工大大学院では、機械学習やコンピュータグラフィックスのインターフェイス、人間の視覚の特徴を活かすコンピュータビジョンの研究などに取り組んだのですが、ソニー CSL入所時に「ここでは大学とは違う研究をやりなさい」と言われました。望むところです。そこでまず私が取り組んだのはゲーム。大学院時代、ゲーム会社への就職を狙っていた後輩たちを集めてゼミを開いていた経験があり、今度は自分でもゲームを作ってみようと思いました。それもあまり一般的ではないクセの強い「クソゲー」です(笑)。なぜ人はクソゲーを面白がって、ハマってしまうのか? この研究所の良いところは、そんな研究でもやっていることが面白くて、オリジナリティさえあればOKだということです。やがて「あそび」の研究から、大学院で取り組んだ視覚の研究などを活用して次第に「きれい」を追求するアートや美学の世界へも触手を伸ばしていきました。

もともと趣味でパソコンを使って絵を描いています。2017年の目標は、どんなに酔っぱらっても疲れていても(笑)、インスタグラムに毎日自作のアニメーション作品をアップすること。まるでスポーツ選手の筋トレのように、毎日続けることで新しいアイデアが飛び出して、プログラミングのスキルアップも図れます。来年の目標は、音楽制作に切り替えるかも。

やがてソニー CSLの“アート担当”を担うようになった私は、自分で考案したユーザーの個性にぴったり合うデザインを自動生成するプログラムで、研究者全員のマークをつくったりもしました。絵やデザインをつくる際、苦労するのは色を選ぶ作業です。そこでもう一つ、色合わせの労力を軽減するため、写真を入力すると配色を自動的に抽出して色パレットを生成するプログラムもつくりました。それが『Omoiiro(おもいいろ)』と名付けられたカラーパレット抽出システムです。

もともと作業効率を上げるためにつくった“裏プログラム”なのですが、仕事で知り合ったイッセイ ミヤケのデザイナーの知るところとなり、面白がってくれた彼らとのコラボで世界の都市で撮影したスナップショットから『Omoiiro』で色味を抽出し、バッグのデザインに落とし込むという面白い試みをしました。

思い出の詰まった写真や特徴的な画像データからコンピュータが自動で色を決め、その結果が見事に人の気持ちにフィットする…。そこに面白さと意味がある。AI技術が浸透していく中で、絵やデザイン以外でも自動生成される音楽はもうすでにありますし、将来的にはその日の気分に合わせてストーリーが変化する映画だってつくることができるようになりますよ。

子どもたちの創意工夫がオリジナルの「あそび」をつくる


『toio』のキューブは子どもの工作物やレゴ作品、
フィギュアなどと組み合わせることでおもちゃに“命”を吹き込む

2018年にソニーで製品化された『toio(トイオ)』は、2012年頃から取り組んでいたプロジェクトです。この製品は子どもたちの創意工夫を引き出し、いわば「あそび」を自動生成するトイ・プラットフォームです。

幼い子どもの頭の中には奔放なイマジネーションが広がっており、奇想天外なストーリーが展開されています。しかし成長過程において、子どもは次第に自分だけの遊び方を編み出すことをやめてしまい、市販のゲームなど他人から与えられた遊びをするようになっていきます。それはそれで成長段階で意味のあることかもしれません。

でも私は子どもに受け身の遊びだけではなくて、自ら創意工夫しながら遊んでほしい。『toio』はおもちゃそのものではなく、子どものイマジネーションとアイデアによっておもちゃで遊ぶ楽しみを広げる「プラットフォーム」です。子どもたちは小さいキューブ型ロボットを自分の好きなおもちゃと組み合わせ、リング型のコントローラも使ったりして、試行錯誤しながら自分の遊びを創り出していくことができます。キューブ型ロボットは、このサイズでは他に類を見ない高性能を誇るものですが、ここではあくまで黒子役。『toio』で遊ぶ時の主役は子ども自身とそのお気に入りのおもちゃなのです。

『toio』が製品化されるまでにはいくつかの壁を乗り越えなければなりませんでした。でも、私は決して悲観しませんでした。それというのも博士論文作成時に苦労を乗り越えた経験があったので、“今回も大丈夫!”と思えたのです。今振り返ってみると早い時期に挫折を経験して、むしろ良かったと感じています。

また、日本に来て本当に良かったと思っています。留学生仲間の妻と出会い、仕事でも多くの素晴らし人々と出会えた。日本は住みやすい国ですし、いろんなチャンスがある国だと思います。これからも多くの方との出会いを楽しみ、自分なりの面白さや美しさを求めて、クリエイティブに生きていきたいです。

アンドレさんのキャリアパス

  • 2002

    フランス・グランゼコールSupélecから東京工業大学大学院に留学

    修士課程でコンピュータサイエンスを専攻。

    「20歳で来日後、東工大の学生寮(松風学舎)のある横浜市の成人式にわけのわからないまま出席したのが良い思い出です(笑)」

  • 2004

    東京工業大学大学院 博士後期課程に進学

    コンピュータグラフィックス、コンピュータビジョン、インターフェイスなどの研究に取り組む。

  • 2009

    博士後期課程修了後、ソニーコンピュータサイエンス研究所入所

  • 2015

    教会のステンドグラスの写真からつくられたカラーバリエーション
    教会のステンドグラスの写真からつくられたカラーバリエーション

    イッセイ ミヤケとのコラボで、カラーパレット抽出システム『Omoiiro』を使ったデザインのバッグが販売される

    「いろいろな出会いで自分のアイデアが実現されていく楽しさを感じ始めていた頃です」

  • 2018

    コンセプト発案と開発に携わった子どものためのトイ・プラットフォーム『toio(トイオ)』発売

    「もともとは自分の子どもを見ていて思い付いたおもちゃのコンセプトです」

アレクシー・アンドレ

アレクシー・アンドレ
Alexis André

Profile

フランスのグランゼコール(高等職業教育機関)の一つ、 高等電気学校(Supélec, École supérieure d'électricité)に2年飛び級して※118歳で入学。エネルギーと情報科学を専攻し、2004年に卒業。2002年に東京工業大学 大学院情報理工学研究科 計算工学専攻に進学。2004年に修士課程修了※2、2009年に博士後期課程を修了。2009年、ソニーコンピュータサイエンス研究所に入所し、現在に至る。

※1
フランスのシステムにおいて。
※2
2002年~2004年はSupélecと東工大修士を並行。

Tech Tech ~テクテク~

本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ~テクテク~ 33号(2018年3月)」に掲載されています。広報誌outerページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。

(2017年取材)