派遣交換留学 スウェーデン王立工科大学 2018年8月20日~2019年6月21日

派遣交換留学 スウェーデン王立工科大学 2018年8月20日~2019年6月21日

留学時の学年:
修士課程1年
東工大での所属:
環境・社会理工学院 土木・環境工学系 土木工学コース
留学先国:
スウェーデン王国
留学先大学:
スウェーデン王立工科大学
留学期間:
2018年8月20日~2019年6月21日
プログラム名:

留学先大学(機関)の概略

スウェーデン王立工科大学(以下、KTH)はストックホルムにある理系総合大学です。メインキャンパスの最寄り駅Tekniska högskolanはストックホルム中央駅から地下鉄で3駅、歩いても中心まで25分ほどと、とても立地の良いところにあります。それにも関わらずキャンパスの周りは森と湖に囲まれ、野生のウサギや鹿も見かけられるほど、首都中心部にあるとは思えない自然豊かな大学です。国外の多くの大学とも提携を結んでおり、キャンパスには留学生も多く、国際色豊かな大学です。

  • 写真1.赤レンガのキャンパスと中庭

    写真1.赤レンガのキャンパスと中庭

  • 写真2.秋はツタの紅葉が綺麗

    写真2.秋はツタの紅葉が綺麗

  • 写真3.お気に入りの図書館

    写真3.お気に入りの図書館

留学前の準備

就職活動や将来の選択を急ぎたくなかったため、1年間留学をして修士をそのまま1年間遅らせることは最初から決めていました。スウェーデンに住みたいという憧れがもとからあり、季節の変化や文化を体験したいというのも、留学を 1年に決めていた理由でした。

留学中は授業の履修と研究の両方に手を出してみたいと思っていたので、授業履修の申請に加え、指導教官探しも行っていました。幸いにも日本での指導教官がKTHの交通の先生方とお知り合いであったので、そのつながりを通して指導をお願いしました。最終的には夏学期は授業をメインに履修し、春学期は授業を履修しながらも研究をメインに行うという計画を立てて留学に臨みました。そのために春学期は少し履修する授業を減らすなどして研究とのバランスを取る必要がありました。

KTH自体が多くの交換留学生を受け入れている大学であったので、ホームページも留学生にわかりやすいように作られています。それに加えて手続きに必要なことや到着後の予定など必要な情報は随時メールで送られてきました。基本的にはそれに従って手続きを進めていけばよかったので特に難しいことはありませんでした。住居についても、手続きの段階でボックスにチェックすれば大学側が手配をしてくれるので特に心配はいりません。VISAについてはスウェーデンは3カ月以上の滞在には居住許可が必要です。移民が多く、発行までに時間がかかると聞いており、留学前は間に合うのか心配でした。実際は応募から一カ月程度で承認され、何も問題はありませんでした。到着後はその承認の証明を持って移民局で滞在許可を発行してもらう必要があります。時期によっては移民局が混んでおりなかなか予約が取れないことがあるそうなので、そこだけは注意した方がいいかもしれないです。

留学中の勉学・研究

留学中、はじめの半年は授業の履修をメインに、残りの半年は研究室での指導をメインに据えていました。秋学期の授業は渡航前に予め履修したい科目を申請しておく必要がありましたが、到着後授業の第一週が終わるころまでは自由に履修を変更することができました。春学期についても同様に、年明け前に履修科目の調査があり、最初の授業一週間で決めるという感じでした。授業科目は履修の半分を自分の所属する学部のものから選べば、他の学部のものも好きに選ぶことができたので個人の興味に応じて選択でき、KTHの良いなと思う点の一つでした。私の専門は交通でしたが、特に日本ではあまり学ぶことのできなかった、環境との関連性の中で交通や土木や都市計画について勉強してみたいと思って履修を決めていました。そのため交通の授業の他に、環境工学が専門の学生と一緒に受ける授業なども履修していました。視野が広がったこと、お互いの専門外の知識を補い合えたことなど良い刺激をもらえました。KTHの展開している科目は、環境都市ストックホルムを代表する工科大学だけあり、多くの科目が環境や持続可能性について同時に扱っていて、シラバスを読むだけでも興味深い内容のものばかりです。これらの授業を通して、ストックホルムが当たり前のように考えている環境都市・環境交通の可能性について触れられたのが、これらの授業を履修して一番良かったと思う点です。

履修登録した科目

  • Challenges for Metropolitan Urban Regions
  • Swedish Society, Culture and Industry in Historical Perspective
  • Sustainable Rural and Urban Development
  • Applied Urban and Regional Analysis
  • Transport Policy and Evaluation
  • Transport and Sustainable Development
  • Swedish A1 for Engineers

基本的にはどの授業も3、4時間のコマが週2、3回あり、それを各ピリオドで2つずつくらい履修していました。内容もレクチャーの他にラボ課題やセミナーなど、時間的にも内容的にも日本の授業に比べればかなりハードでした。また多くの授業はグループワークを最終課題等に割り当てており、グループワークの時間は各グループが授業外で取るのでそこでも時間を取られます。しかしグループワークはみなとてもやる気があり、たくさんの意見が出て、自分から率先して発表準備を行ってくれ、ヨーロッパの大学生の意識の高さに驚きながらも、とても楽しく気持ちよく課題をこなすことができました。

春学期からは交通系の先生が集まるユニットに席を作っていただき、1、2週間に1回のペースで指導教官に研究ミーティングをしていただきました。最終的には、ストックホルムの混雑課金について、研究者や政策担当者にインタビューを行い、日本での導入可能性について検討を行いました。興味があることを深く勉強できただけでなく、スウェーデン人ばかりのコミュニティで、スウェーデンの人の働き方や考え方、文化に至るまで内側から見えるきっかけができたのが、本当に研究室に所属させていただけて良かったと思っている点です。特に私の指導教官の先生をはじめとするたくさんの女性の先生方が、ストックホルムの交通の研究者として、小さな子どもを抱える母として、仕事と家庭を両立しながら第一線で活躍されている姿には感銘を受けました。

写真4.授業でのポスター発表
写真4.授業でのポスター発表

写真5.お世話になった研究室
写真5.お世話になった研究室

留学中に行った勉学・研究以外の活動

週末は友達とスウェーデンの観光をしたり、近くのカフェでFikaしたりすることが多かったです。特にFikaはとても素敵な文化で、気軽に楽しく友達とおしゃべりができる大切な時間です。外食はあまりしませんでしたが、ストックホルムの可愛いカフェにはたくさん行きました。KTHは夏に留学生を一斉に迎え入れるため、最初の週は留学生向けのレセプションやイベントも多く開催され、簡単にいろいろな国の子と友達になることができます。また、特に仲良くなった子とは、お互いにご飯を持ち寄って一緒に食べたり、パーティーをしたりすることもあり、留学生らしい生活を楽しむことができました。授業だけではスウェーデン人の友達を作ることはなかなか難しいのですが、日本語のLanguage Caféに行けば スウェーデン人の友達を作ることができるのでおすすめです。

2月にはスケートやスキーをして季節ならではのアクティビティーを楽しみました。特にスウェーデンはスケート靴さえあればスケートはどこでも無料でできるばかりか、そこら辺の湖も凍って滑れるようになるので、スケートはとても楽しい趣味になると思います。またスウェーデンの友達の実家に招待してもらい、お母さんにスウェーデン料理を習ったり、スウェーデンの祝日を一緒に祝わせてもらった りしたのはとても素敵な思い出です。北欧の暗い冬は思ったよりもつらいですが、外でのアクティビティーや、家の中を快適にして乗り越えていく方法を教わりました。そして季節が変わって夏には、外の公園や湖のそばで過ごす心地よさを教えてもらいました。

また帰国直前の6月にはストックホルムマラソンに参加しました。コースはとても素晴らしく、走りながら10カ月間のいろいろな思い出があふれてきました。最後にお世話になったストックホルムの街を走り切ることができて本当に良い思い出になりました。

写真6.旧冬至のルシア祭
写真6.旧冬至のルシア祭

写真7.冬にはストックホルム中の湖が凍る
写真7.冬にはストックホルム中の湖が凍る

写真8.春の訪れを祝うお祭り
写真8.春の訪れを祝うお祭り

写真9.夏至祭
写真9.夏至祭

留学を終えて、自分自身の成長を実感したエピソード

留学を通して自分の中で変化したと思うことはたくさんあります。一つは自分の将来の働き方についての軸のようなものを見つけられたことです。男女平等が進んでいるスウェーデンだからこそ、女性の先生方も自身の責任を持って、責任ある仕事をしている、男の先生たちも当たり前のように家事を分担し、育児を一緒になってやっている。これから私自身もどこかで働き始めるということを考える時に、このスウェーデンの先生方の働き方は、まだ男性が多い日本の土木・交通分野で女性として働いていく道を模索する時に、確かな 勇気になると思います。

また 自己の日本人的な性格も破ることができたかなと思います。私は特に周りの目を気にして発言を控えたり、あまり自分の意見を言わないところがありました。しかしKTHでの授業では毎回のようにディスカッションがあり、はじめはあまり自分の意見を持とうとしていなかったので、何を聞かれても答えられませんでした。でもそうするとこの子は話し合いが嫌いなのかとか、そういう風に周りにはとらえられてしまいます。それは良くないなと思い少しずつ変えていって、他の子たちの活発なトークがやんだ隙にちょっと意見を言ってみようとし始めると、みんなそれをちゃんと聞いてくれてそれに対して意見を返してくれて、これはとても 意味があるということに気付けるようになりました。これはグループワークがどんどん楽しくなった理由でもあります。思っていることは言って話し合って解決した方がいいなと思うようになりました。

あと料理はうまくなりました。今までは実家暮らしだったため、家事もほとんど やることがありませんでした。しかしもちろんスウェーデンは物価が高いので、食事も自分でやりくりしないと大変なことになります。一通りの家事や料理を通して、自分の周りのことを全部自分でできるようになったのも、留学で得た一つの成果です。

留学費用

奨学金はトビタテ留学JAPANに採用していただき、月に16万円と渡航費として25万円を支給していただきました。航空券は往復15万円ほどで手配し、大学斡旋の保険に15万円ほどで入りました。また私が住んでいたアパートはとても新しく、前の住人が残していったものなどがなかったので、調理器具やヒーターなど必要なものを買いそろえるのにも少しお金がかかりました。でもスウェーデンにはIKEAがあるので食器などはそこで安く買いそろえられますし、少しお金を多く払って買ったものは、退居前に半額ぐらいの値段で寮にあるセカンドハンドのマーケットに出品すれば、捨ててしまうようなもったいないことにはならないですし、多少お金を回収することができます。

家賃は月6300kr(約8万円)で、生活費は普段は自炊と、週1、2回の外のカフェでのFIKAや食事で月2万円、交通費と雑費を入れても3、4万円もあれば足りました。私は大学のすぐそばの寮に住んでいたので、お昼に部屋に戻ってパスタをゆでたりしましたが、大学のカフェテリアは一食1000円以上する高さなので、他の留学生の多くはお昼ご飯にお弁当を持ってきて、レンジで温めているという人が多かったです。

留学先での住居

留学前の手続き時に申し込むだけで、KTH accommodationが寮を割り当ててくれるので基本的には心配はいらないです。ただ寮は選択をすることができず、割り当てられた寮に入るか断るかの二択です。ストックホルムは家不足なため自力で探すことは不可能に近く、実質その与えられた寮に入ることとなります。クオリティーは寮ごとでかなり差があるみたいです。私が入ったMalvinas vägはキャンパス内にあり、築2、3年のとても新しい部屋で利便性も良く、家賃は他の寮より高いですが総合的にはかなり良い住居でした。スウェーデンではキッチンをフロアごとにシェアするコリドータイプが一般的で、その方がもちろん安いのですが、私たちのところは自分の部屋にキッチンやバスルームも全てついていました。共有スペースのようなものがなく最初は少し寂しく感じますが、自分のキッチンで好きに料理ができるのはとても快適なので、私はここで良かったと思っています。私が留学していた時期では東工大からの留学生はみなこの寮に割り当てられているようでした。でも他の大学から来た日本人の学生なんかは、通学に40分以上かけていたりもしたので、運次第なところもあるかと思います。あとキャンパス内に住んでいると電車に頻繁に乗る必要がないため定期を作る必要がありません。中心までも歩いて25分くらいで行けてしまいますし、遠くに行くときは電車のアクセスカードにお金を チャージ して利用していました。

写真10.キャンパス内にある寮
写真10.キャンパス内にある寮

写真11部屋にはオーブンもあり快適
写真11部屋にはオーブンもあり快適

留学先での語学状況

私の英語の語学レベルは十分とは言えなかったので、最初のころはかなり苦労しました。レクチャーの授業自体は、先生方は比較的ゆっくりわかりやすく説明してくださるので少しすればついていくことはできるようになりますが、英語でのディスカッションは2、3カ月は全然慣れず、最初のピリオドが終わる頃にやっと自分の意見を言えるようになりはじめ ました。あと授業とは別に、友達との会話も最初のころは特に大変でした。教科書で習うような文法でしか英語を理解しておらず、スラングや独特の表現を使われたり、早口でしゃべられると会話についていけないことが多々ありました。ただ留学期間を通して思ったのは、へたくそでもしゃべらないと何を考えているか伝わらないということです。とりあえずしゃべるという度胸だけはついたような気がします。

また、英語については春学期からの半年はKTHのタンデムパートナーと週1回くらいご飯を食べながらスピーキングの練習をさせてもらっていました。タンデム制度は言語交換の制度で私は英語やスウェーデン語を教えてもらう代わりに、日本語を教えていました。友だちと話している感覚で堅苦しくなく語学の勉強ができるのでとてもいい制度だと思います。

スウェーデン語については、スウェーデン人は誰でも英語がネイティブ並みに話せるので特に勉強しなくても大丈夫です。ただ、余力で勉強してみると町中に書いてあることが分かるようになって面白いです。スウェーデン語の入門の授業はスウェーデン語を習うというモチベーションがなくても、スウェーデン文化のことも知れるし、留学生の友達ができるし、基本的な文法がわかるようになるのでお勧めです。

単位認定(互換)、在学期間

1年間の留学だったのでその分在学期間は延長することにしました。単位を交換したり、研究の進捗によっては1年間の留学だからと言って必ずしも在学期間を延ばす必要があるわけではないのですが、私の場合は留学中も留学前後もじっくりと考える時間を取りたかったので、これは渡航前から決めていました。結果的に延長したスウェーデンの時間を味わって使うことができたので良かったと思っています。単位互換についても、必ずする必要はありませんが、交換可能な単位については交換しようと考えています。

就職活動

在学期間を延長するため、留学中は特に就職活動は行っていません。帰国直後はスウェーデンと日本の夏休みの時期の違いによって、約4カ月の夏休みが手に入るので、海外インターンなどをしてじっくりと今後のことを考えていきます。

留学先で困ったこと(もしあれば)

他のヨーロッパの国に比べるとスウェーデンはかなり治安が良いので特に困ったことやトラブルに巻き込まれることはありませんでした。寒さも思ったよりも全然平気です。冬のブーツやコートは現地で買った方が安く、スウェーデンの生活に合ったものが手に入るので、その方が良いと思います。ただ辛いのは冬の暗さです。11月などは雪も降らずクリスマスもまだなので、毎日短くなっていく日照時間に、どんよりとした気分になっていきます。スウェーデン人も飲んでいると言っていたので、気休めかもしれませんが、ビタミンDのサプリメントは持っていくといいと思います。夏は逆にすごく日が長くなって楽しいですが、睡眠時間とか、一年を通してかなり太陽には振り回されます。調子が良くない時はあまり考えすぎず、それを 受け入れるぐらいの気持ちでいるのがいいと思います。

留学を希望する後輩へアドバイス

留学で何を学びたいか、何を得たいかというのは人それぞれだと思います。私の場合、交通という自分の研究分野への興味ももちろんですが、環境や自然に対する意識、男女平等の考え方をもっと知りたくてスウェーデンを選びました。語学のため、研究のため、理由は何でもいいと思います。強い目的を持っていけばこれ以上の学びのチャンスはありません。また留学したいけれど留学先が決められないという人がいたら、自分の住んでみたい国に行くというのも大いにありだと私は思います。VISAとか難しい手続きを乗り越えられる、学生というのは素晴らしい身分です。もちろん、留学生活をどの程度実りあるものにできるかは自分次第です。日本から見ると海外に出るというのはものすごいハードルがありますが、出てしまうのは勇気があれば出れるんです。そして出てしまったらもうやるしかないんです(笑)せっかくの開かれている機会です、ぜひ時間を割いて留学という選択肢を取ってみてください。最初は惜しいと思ったその時間も、後で振り返った時には貴重なものになっているはずです。

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