派遣交換留学 デルフト工科大学 2017年8月17日~2018年7月26日

派遣交換留学 デルフト工科大学 2017年8月17日~2018年7月26日

留学時の学年:
修士課程3年
東工大での所属:
環境・社会理工学院 建築学系 都市・環境学コース
留学先国:
ドイツ連邦共和国
留学先大学:
デルフト工科大学
留学期間:
2017年8月17日~2018年7月26日
プログラム名:

留学先大学(機関)の概略

オランダ南部の古都デルフトにある国立理工系大学。国内外で高い評価を受けており、特に航空宇宙・土木・建築・インダストリアルデザインの分野では世界トップ校に挙げられる。2018年のQS World University Rankingsでは建築分野で世界第3位とされ、私の所属した修士の建築学専攻でも半数程度が高いレベルの教育を受けに国外から学びに来た国際学生であった。

留学前の準備

留学を検討し始めたのが修士入学後と遅く、M1冬出発の出願締切までに書類を揃えられなかった。そのため基本的にはM2夏から1年間留学し、就職活動の時期を待ってM4の3月に卒業するつもりで計画を立てていた。

「どこでもいいから日本以外の環境で揉まれたい」というのが一番の動機であったので、留学先については特に決めておらず、行ったことがないからヨーロッパ・できれば第二外国語を学ぶ必要性が高くなく英語だけで十分に勉強ができる環境という程度の考えしか持っていなかった。最終的には、当時の語学スコアで行ける範囲で最も有名であるということ・周囲に強く勧められたこととが決め手となった。

私の場合は留学先選択の後、オランダ建築・デルフト工科大学の特色を徐々に知り、自分の関心との合致を見出せたので結果として正解だったが、個々の大学それぞれに強い個性があることを考えると、本来はもっと慎重に選択をすべきであると思う。(実際、他大学から別の国に留学をしていた日本人学生の中には、留学先の授業が「期待に反してつまらなかった」と断言している人もいた。)

国際学生の多い大学なだけあって、DUWOを通じた寮の契約や銀行口座開設等も含めて大学側が比較的丁寧に面倒をみてくれる。ただし、寮選択前の4月末にビザ申請のため1万ユーロの準備を求められたこと、渡航前に外務省で戸籍謄本のアポスティーユを取り(原則)現地日本大使館で翻訳を依頼する必要があること等、事前に一人では情報を得られなかった部分もあり、同時期に留学した他の学生と情報を共有しながら手続きを進めていった。

留学中の勉学・研究

当初からの計画通り、研究室所属等はなく授業履修のみ。前期については渡航前にコースパッケージを選び30ECTs分をまとめて登録し、後期は自らウェブで申請した。デルフトの建築学専攻のカリキュラムは非常に構造的に組まれており、必修の共通座学とセミナー、選択デザインスタジオと関連講義、その他選択講義(後期のみ)を組み合わせることになっていた。シラバス上ではスタジオの担当教員に有名建築家の名前が出ているが、実際の指導はチューター(PhDや他の建築家等)により進められる。留学生と正規学生の区別は全く無く、前期は授業以外に何もできないほど忙しかった。

後期はかなり授業数を減らし、スタジオと必修の座学・論文セミナーのみを申請したが、座学の試験は別の都合と重なり受けず、論文セミナーは期待に反し(内容や理論ではなく)論文の作法のみにフォーカスしたものだったので開講後に取り消した。そのため、スタジオ開講前の3Qに予定外の時間ができ、この期間に多くの都市・建築を行脚した。

デルフトの学生間で語られる特徴として、最終的な学びのゴールと、それに到達するまでの教員側によるガイダンスが過剰なほどしっかりしていることが挙げられる。多くの授業・スタジオでは、全ての学生がチューターの指導に従いながら一歩ずつ課題を進めていくことになる。的確なアドバイスやリファレンスをくれる優秀なチューターにあたれば授業ごとに核の部分を確実に学べる反面、(主にスタジオについて)自由が制限されることに窮屈さを訴える学生も多い。課題量が多いことは全専攻共通なようで、デルフトの理念である「learn how to learn」を反映しているといえる。

また、全体を通して、オランダ建築という枠内ではなく、世界のどこでも通用する普遍的な思考を教えているように感じた。実際、ほとんどのスタジオの敷地は国外であり、私の履修したComplex Projectsではウィーン、Transdisciplinary Encountersではサラエボを敷地として現地リサーチとデザインとを行った。

履修科目

前期

  • Delft Seminars on Building Technology
  • Delft Lectures on Architectural Design
  • Complex Projects Design Studio
  • Anatomy of a Landmark Seminar
  • Delft Lectures on Architectural History

後期

  • Transdisciplinary Encounters
  • Delft Lectures on Architectural Sustainability
  • Delft Thesis on Architectural Design

前期は語学や要求される基礎知識の違いもあり授業に着いていくので手一杯であった。Complex Projectsではオランダ建築の核心に近い考え方をフルに学べた実感の反面、オランダ人学生とのペアワークに四苦八苦し、満足のいく成果物をまとめられない悔しさも味わった。

より自発的に学ぶことを意識した後期は、Transdisciplinary Encountersのみに集中した。インド人・ポーランド人と共同でとても満足のいく成果物を完成させられ、彼らとの議論の中でも非常に多くのことを学んだ。一方で、どこまでもいい加減で自分の主張を連呼するだけのチューターに頭を悩ませ、毎週の「perfect」等のポジティブなコメントにもかかわらず最終的な成績がスタジオ内でほぼ最下位であったり、最後まで理解できない面も多々あったのが残念であった。

留学中に行った勉学・研究以外の活動

前期は完全に授業で手一杯であったので、後期は反省を活かし自発的に学ぶ時間をつくろうと意識した。具体的には、時間を見つけてはオランダ国内のみならず各地の建築を訪れ、雑誌やインターネットからだけでは得られない体験や情報を得た。論文セミナーの履修を取り消し予定外の時間ができた時期にインターンも検討したが、都合が合わず諦めた。

留学を終えて、自分自身の成長を実感したエピソード

常に人の顔色を伺っているような日和見人間であったが、「too direct」なオランダ人とわたりあう中で自分の意見を表明することをようやく覚えたように思う。また、一アジア移民として生活する中で、何事についても世間的な基準に縛られず自分で考えるようになった。

奇しくも両デザインスタジオで民族間対立やアイデンティティをグループのテーマとして扱うことになり、メンバーやチューターとの議論を通してコスモポリタン的な思考に触れたことも自分にとっては鮮烈な体験であった。単に生まれ育った日本を離れたからか、オランダという国の自由な気風に曝されたからか、とにかく思考の制限がなくなったことを強く感じる。

留学費用

渡航費:往復計15万円、保険料:17万円(AIU)、生活費:月3万円程度、家賃:光熱費込月6.7万円。トビタテ!留学JAPANから月額16万円を受給。基本的に夕飯は自炊を心がけていた。オランダの外食は高いが食材自体は安く、それほど生活を切り詰めるようなこともなかった。

クレジットカード2枚・デビットカード1枚を用意してあったが、現地銀行口座のキャッシュカードに付属する タッチレスのデビットカードが主流であったため、基本的にはビザ申請用に事前に振り込んだ1万ユーロを切り崩しながら生活していた。

留学先での住居

大学からの案内に従いDUWOのサイトから学生寮を選んだ。Stieltjeswegというキャンパス中心部にあるほぼ新築(リノベーション)の建物で、他の物件と比べると家賃は高い方であったと思われるが、キッチンのみ7人シェアでその他水回りはプライベートと快適だった。入居後に建物内に小さなスーパーとレストラン・バーができ、また図書館にも近いので書類の印刷もしやすく、利便性が高かった。自分含めルームメイトはシャイな人が多く、それほど密に交流したりはしなかったが、キッチンで会えば話をしたり、何かあれば相談しあったりと、自分にはほどよい距離感だった。自分は当てはまらなかったが、シェアでないスタジオタイプの住居を選ぶと政府から月1万円弱の家賃補助が出る制度があるそうである。DUWOではなく不動産屋やfacebookを通じて自ら部屋を探す方法もある。

留学先での語学状況

オランダは非英語圏で最も英語に自信がある国というデータがあるほど誰もが英語を話せるので、オランダ語はスーパーの食品表示くらいでしか接する機会がなかった。その分、学生もオランダ人・外国人ともに英語が非常に堪能で、正直に言ってはじめの3ヶ月間ほどは全くついていけず実用的にも精神的にも非常に苦しんだ。IELTSでoverall6.5の要件は何とか満たしていたが、正規学生はそれよりはるかに高い水準で選抜されているようである。

ある東欧出身の友人が「自分のスピーキングはIELTS6.5程度しかない。いつもわかりづらい英語で申し訳ない。」と周囲に謝り、その場の他の学生が「入学前の点数は問題じゃないよ」と慰める場面に出くわしたときには絶句した。

単位認定(互換)、在学期間

渡航前に修士論文以外の単位を取り終えていたため、単位互換の予定はない。当初計4年で修了する計画であったが、3年半への短縮も視野に検討中。

就職活動

就職活動については留学中には何も行っていない。これから徐々に進めていく。

留学先で困ったこと(もしあれば)

重複するが、とにかく語学には苦労した。渡航前から留学生と交流する機会も多く、比較的喋れるつもりでいたが、それは相手がこちらに合わせてくれていたからだと思い知った。複数人で他愛もないお喋りをする場でも話題すら掴めず、愛想笑いをしていると「日本ではどう?」と急に話を振られ困惑するということが何度もあった。3ヶ月を過ぎた頃からそのようなことは段々と減っていき、スピーキングについても徐々に自分の考えていることを伝えられるようになった。最後まで他の学生ほど流暢な喋りを身につけることはできなかったように思うが、開き直ってからはるかにマシになった。

留学を希望する後輩へアドバイス

いろいろな友人と話していると、大学ごとに学べる内容や得られる経験は全く違っているようなので、留学先を決める際には様々なルートで可能な限り情報を集めるべきです。

留学そのものを迷っている人には勢いで挑戦してしまうことをおすすめします。学生のうちに可能性を広げる選択肢の一つとして、1年間を費やす価値は十分にあります。

この体験談の留学・国際経験プログラム情報

他の関連する体験談