派遣交換留学 スイス連邦工科大学ローザンヌ校 2018年8月15日~2019年7月23日

派遣交換留学 スイス連邦工科大学ローザンヌ校 2018年8月15日~2019年7月23日

留学時の学年:
修士課程2年
東工大での所属:
工学院 機械系 機械コース
留学先国:
スイス連邦
留学先大学:
スイス連邦工科大学ローザンヌ校
留学期間:
2018年8月15日~2019年7月23日
プログラム名:

留学先大学(機関)の概略

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École polytechnique fédérale de Lausanne, EPFL)は,スイスとフランスの国境のレマン湖の畔に位置する工科大学である.1969年創立で,今年50周年を迎えた.非英語圏だが大学ランキング上位校の常連である.学生数は約1万人で,キャンパスのサイズは東工大の大岡山キャンパスと同じくらい.世界120か国以上から学生・教員が集まり,特に大学院生は5割以上が留学生である.

留学前の準備

就職活動、修士論文などとの兼ね合い

留学前から修士課程を終えた後の進路について,博士後期課程に進学するか就職するかで迷っており,それによって修士課程を留学期間を含め2年で終了するか3年で終了するか決めかねていた.授業は修士1年の前期までにほぼ取り終えていたが,留学中に考えようという安易な考えもあり,留学終了後のことは全く決めないまま出発した.

留学情報の入手方法

学部の頃から長期留学に興味はあったため,留学フェアなど学内のイベントや,グローバル理工人育成コースの授業や海外派遣プログラムには積極的に参加しており,そこでできた友人やお世話になった先生方から情報は得ていた.留学先がEPFLに決まってからは,同じくEPFLに留学した先輩の留学報告会を聞きに行って個人的に質問したり,出発直前に会って現地での細かい手続きなどについて教えてもらったりした.

語学の準備方法

学部4年の夏に派遣交換留学に応募するにあたり,TOEFL iBT90点以上が必要な大学も視野に入れていた.ところがその前の春休みに受験したところ全く届きそうになかったため,焦ってTOEFL対策の授業を取ったり,グローバル理工人のe-learningを受講したりして英語の勉強をしていた.結局90点には届かなかったが,点数自体はかなり伸びたので勉強した甲斐はあったと思う.(ただ,応募半年前に受験して低い点数が出ると結構焦るうえ,研究室・院試などもあるため,TOEFLはもっと早めに,学部2,3年のうちに受けておいた方がよかったと思った.)英語に関しては院生になってからも授業を取ったり,英検を受験したりして触れる機会は増やしておいた.

フランス語については全く勉強したことがなかったので,一応文法書や単語集を購入したり,NHKのラジオ講座を聴いてみたりした.しかし現地ではだいたい英語が使えるという話も聞いており,出発前までには大して身につかなかった.

研究室について

東工大では光機能のある有機材料の研究を行っているのだが,せっかく研究をするなら修士論文に活かせる,かつ今の研究室ではできない内容を勉強してくるべきではという指導教員の意見があり,協定校の中から見つけたのがEPFLの有機材料の研究室だった.私の所属は機械系で有機合成の経験はなかったのだが,先方の論文を何本か読み,研究に興味がある旨をメールに書いたところ,スカイプでの面接を経て受け入れてくださるとの返事をいただいた.ポリマーについての知識があるといいと言われたので一冊日本語の参考書を買い,(あまり進まなかったが)少し勉強しておいた.

ビザについて

スイスに渡航するにあたり事前にビザを準備する必要はないが,到着後2週間以内に滞在許可証の申請をする必要がある.申請に行く役所は住んでいる場所によって違い,提出書類も異なるという話を聞いたが,私はEPFLのHPを参考にし,奨学金の受給証明書,銀行口座の残高証明書(月2000フラン以上の資金があることが必要),証明写真,attestation of studies(大学の在籍証明書,EPFLのIS-Academiaというポータルからダウンロードできる),住居の契約書のコピーを準備していった.到着後,役所でもらった書類1枚と,”letter of intent”(スイスで何を勉強するのかA4 1枚弱でまとめたもの)とCVが必要という案内があったので,現地で用意した.書類が受理された後1か月半程度で滞在許可証が届くが,銀行口座開設などでその前に必要な場合は,申請時に仮の許可証を発行してもらうことができる.

住居について

住居は,EPFLに出願した後,FMELというローザンヌの学生寮を斡旋している団体から連絡があり,寮の候補が送られてきたので,特に自分で住居を探す必要はなかった.(ただしFMELのシステムが2019年5月から変更になったようなので,もしかすると登録の方法も変わっているかもしれない.)

留学中の勉学・研究

研究室での活動を主とし,授業は1セメスターにつき二つずつ履修した.専攻は機械工学ではなく,その研究室の所属するDepartment of materials science and engineeringつまり材料工学専攻となり,その学科の授業の中から選んだ.東工大で有機化学や合成について授業を取ったことがなかったので,先生やスーパーバイザーのポスドクの学生の提案で,秋学期に学部生向けの有機化学の授業を履修した.

全体とし て,期末試験は口頭の科目もあったし,筆記試験でも試験時間が3時間で持ち込み不可というのが標準で,一つ一つの試験に対し時間をかけて準備する必要があった.学科や寮の友人たちも真面目に勉強していた.以下に履修した授業それぞれについて,概要と感想を記す.

Organic chemistry for material scientists (5単位)

学部生向けの授業はフランス語開講のものが多いが,この授業は英語で開講されていた.学期の前半は講義と演習,後半は実験で構成されていた.初めの方は学部の教養科目で勉強した内容も含んだが,反応機構などの話は研究で使っている反応と直接関係があり,有機化学の基礎を身につけるという意味で非常に有意義だった.また学生実験でも器具の扱い方を一通り学べたし,実験レポート(実験ノート)の英語での書き方も身についた.

Electrochemistry for materials technology (2単位)

電気化学のおそらく”応用”にあたる部分の講義.最初の方で少し基本事項の復習があったが,この学科では電気化学は学部で基礎を勉強しているらしく,その内容を補完しながら授業を受ける必要があったため少し大変だった.最終課題として3人で一本論文を読み,ポスター発表を行った.グループを組んだクラスメートにもだいぶ助けられた。

Organic electronic materials – Synthesis, properties, and applications (3単位)

有機半導体についての授業だった.有機材料の電子的な性質を中心に,その合成のしかたや結晶構造などについての授業であった.東工大での研究内容と深く関わっており,それまで自分で勉強していたことがわかりやすく説明されていたため,取ってよかったと思う.4か月の授業内容はある程度理解したつもりだったが,筆記試験で英語でうまく説明できているのかは微妙だったと思う.

Statistical mechanics (4単位)

熱力学と確率の復習から始まり,統計力学を講義とMathematicaによる演習で学んだ.東工大の院の授業で少しかじったことがあり,一つの授業として開講されているのなら取ってみようかと思って履修したが,相当な量の数式が出てきて最初の頃からついていくのが大変だった.期末試験は口頭形式だった.先生に質問されていることはわかったのだが,授業内容の理解が曖昧でその場で説明できるほどではなかった.

研究については,有機合成が初めてということもあり,テーマを先生とスーパーバイザーが提案してくださった.研究室の先行研究二つの組み合わせで,溶液中でらせん構造を示すポリマー材料と,室温で紫外線を照射することにより(例えばカーボンナノチューブのような)ナノ構造をもつ炭素材料の合成ができる分子の両方の要素をもつ分子を設計し,合成とキャラクタリゼーションを行った.最初はスーパーバイザーや他の学生さんが手取り足取り合成・精製の方法を教えてくれ,大変ありがたかった.ヨーロッパの研究室はPhDやポスドクの学生が多く,私の所属した研究室もそうだったが,少し特殊だったのは修士の学生も積極的に受け入れていたことだった.セメスタープロジェクトとして週2回くらい研究室に来る学生もいれば,修士論文を書くために理学部化学科から来ている修士学生も3人おり,この3人はPhDと変わらないくらい積極的に研究をしていた.

留学中に行った勉学・研究以外の活動

日常生活の中では,グループタンデムといって,週2回日本人と,日本語を勉強したいスイス人が集まって日本語とフランス語を教えあうイベントがあったのだが,そこで友達が多くできた.彼らにはカーリングやハイキングに連れて行ってもらった.またESNという団体が留学生向けに企画するイベントにも数回参加した.ローザンヌは毎年2月に開催される国際バレエコンクールで有名であるが,そのコンクールの決勝も観に行ったし,もともとクラシック音楽が好きなので,同じ会場にはよくオーケストラやバレエを観に行った.スキーが好きな人にとってはスイスはいいところのようだが,私はしたことがなかったので,研究室のスキー旅行に連れて行ってもらって何となく教えてもらった.

ヨーロッパでの滞在が初めてだったので,休日を利用してスイス内外のあちこちに旅行に出かけ,合計10か国程度を訪れることができた.作曲家ゆかりの地を訪ねたいとか,クリスマスマーケットが見たいとか,オランダのチューリップが見たいとか,ヨーロッパのいろんな大学を見てみたいとか,個人的にやりたいことが多かったので,クリスマスやイースターの長めの休みは一人で旅行に行った(宿泊代が高くかかることと防犯上のことからあまりお勧めはしない).東工大のタイ短期派遣で一緒だったタイ人の友達がミュンヘンでマスターをしていたため訪ねて街を案内してもらったり,留学期間の前半同じように交換留学生として来ていたドイツからの友達が住んでいるKonstanzも訪ねた.

留学を終えて、自分自身の成長を実感したエピソード

正直なところ,自分の成長を実感するというよりも,自分はダメだなと思ったり,このままでは日本に帰れないと思ったりしたことの方が多かった.ただ,研究室で帰国前に先生とスーパーバイザーの前でプレゼンをした時に,スーパーバイザーがプレゼンやディスカッションについて「とてもよかった」と言ってくださったことは自信になった.また,留学前半の方でresearch proposalという,研究背景・問題点をまとめたレポートのようなものを書いた.何回かスーパーバイザーに見てもらって相当直されたが,結果としてよいproposalが書け,帰国した今も研究の方針として参考にしている.

学部時代は,例えば長期で留学しても,英語の場合日本語で勉強するよりも理解の質が下がるのではないか,だとしたら日本で勉強していた方がよいのではないかと思うこともあった.しかし留学中に授業を受けたり研究室でいろいろと教えてもらったりして,案外その心配は必要なかったと感じた.むしろ日本語で専門的な知識を持っていたとしても英語での用語を知らなければ議論できないことを実感し,もっと積極的に英語で勉強すべきだと思うようになった.

留学費用

トビタテ!留学JAPANの8期生として,奨学金を月16万円と留学準備金25万円を受給していた.渡航費は往復合わせて17万円程度,保険料は東工大で加入したもので一年で15万円程度だった.寮は一月6万円程度で,スイスは物価が高いとはいえ自炊をしていれば月16万円で足りた.ただしスイス国外に旅行に行くと,その月は必ず赤字になった.話が遡るが,トビタテ!留学JAPANの応募にあたっては,東工大の過去のトビタテ生が有志で面接の練習をしてくださって大変お世話になった.

留学先での住居

大学からメトロとバスで25分くらい(自転車で20分くらい)のレマン湖畔にある学生寮に住んでいた.前述のようにEPFLに出願した際に寮についての案内があったので,特に自分で探すことはしなかった.実際ローザンヌでは住宅が足りていないらしく自分で探すのは大変という話を聞いた.

寮では1フロアに20人くらいがそれぞれ個室(シャワー・トイレ・洗面台付き)を持っていて,一つのキッチンを共有していた.たまにフラットディナーと称してキッチンメイトたちとパーティーのようなことをしていた.料理が上手な学生も多く,いろいろな国の料理を教えてもらった.

留学先での語学状況

授業と研究では英語を使っていた.街中はフランス語がメインであったが,現地の多くの人は英語が話せたうえ,フランス語がわからなくても親切にしてくれた.アジア人というだけで英語で話してくれ ることも多々あった.英語が通じなかったのは美容院くらいだった.

英語については,留学初期は自己紹介のスキルがやたらと上がったが,その後上達しているのかよくわからない状態が続いた.研究室では先生やスーパーバイザーのポスドクの学生の英語はわかりやすかったが,今まで勉強した内容でも英語での言い方を知らないものが多く,勉強になった.マスターやPhDの学生ではフランス語が話せる人が多く,私のために英語に合わせてもらっているにも関わらずあまり会話に参加できないこともあり,特に中盤はもどかしい時期が続いた.残り数か月というところでようやく,来る前よりは英語での会話がスムーズにいくようになったかなと感じることが増えてきた.

フランス語は留学前まで勉強したことがなく,到着後すぐの集中授業,冬休みの集中授業,春学期の通常授業に参加した.これらの授業は学科以外で友達をつくる機会にもなったので,取ってよかったと思う.特に到着後すぐの,交換留学生と修士の新入生向けの授業では,チョコレート工場に見学に行ったり,ワインのテイスティングに行ったりとイベントも多く楽しかった.肝心のフランス語は,授業や前述のタンデムのおかげもあり帰国までに読めるようにはなったが,聞き取りが難しかった.先生の話すゆっくりとしたシンプルなフランス語は聞き取れるようになったものの,街中で聞く速いフランス語はなかなか聞き取れるようにならなかった.

単位認定(互換)、在学期間

留学先で取得した単位は認定の申請を行っている.在学期間は半年か1年延長する予定だが,修論の進み次第とのことでまだ決着がついていない.

修士を終えた後の進路については,同じ研究室で企業から共同研究のためにいらしていた日本人の方や,現地でPhDをしている方の話を聞き,ますます悩むようになってしまった.進学・就職で迷っており,両方の情報を集めている.

就職活動

私は留学先では特に行わなかったが,周りの日本人の中には,11月のボストンキャリアフォーラムや4月のロンドンキャリアフォーラムで内定をもらっている人がいた.私は帰国してからインターンなどの情報を探し始めた.(ただ,夏にインターンをするのであれば帰国前に応募などを済ませておく必要があった.)

留学先で困ったこと(もしあれば)

特になかったが,あえて挙げるならば到着して間もなく,保険や税金に関するフランス語の手紙が届き,当時フランス語が全くわからなかったので困ったと記憶している.研究室や寮でフランス語の分かる友達とgoogle翻訳にはかなりお世話になった.

留学を希望する後輩へアドバイス

留学していろいろとよかったことはあったが,特に日本にいたらまず会えないような国の友達(例えばロシア,ウクライナ,レバノン,マダガスカルなど)ができたことは宝だと思う.あと意外と日本の中でも東京から離れた場所の出身の人とも友達になれたり(京大や東北大から来ている人も多かった),想像していた以上にたくさんの友達・気づきを得たので,留学を迷っている方にはぜひお勧めしたい.海外に半年とか1年とか住むことはなかなか想像しにくいと思うが,案外何とかなったなという印象なので,そこについて躊躇する必要はあまりないと思う.

留学中はモチベーションを維持することと周りの人に頼ることが大事だと思う.前者については,留学中自分で動き出さないと何も進まず,1年間でもあっという間に過ぎてしまうと思うので,何事にも貪欲になった方が後悔しないと思う.後者は現地に到着して早々先生に釘を刺されたことであるが,生活のみならず研究でも,自分で解決しようとするよりは,周りに聞いた方がいい方向に落ち着いた.私は日本人にありがちな「妙に遠慮する」タイプの人間だったが,遠慮はするなとはよく言われたしその通りだと思った.

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