研究

AIで牛の気持ちがわかる?!

AIでウシの気持ちがわかる?!

10年後の目指すべき社会像を見据え、革新的なイノベーションを産学連携で実現することを目指したセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムがJST(科学技術振興機構)の支援のもと推進されています。東工大では「『サイレントボイスとの共感』地球インクルーシブセンシング研究拠点」を2018年4月に立ち上げ、人から社会、自然まで我々を取り巻く地球環境のさまざまな「声なき声」である「サイレントボイス」に耳を傾ける取り組みを行っています。その具体的なプロジェクトとして「牛の行動観察システム」と「『場』のサイレントボイス」を中心に本拠点の主旨や活動を紹介します。

牛の行動観察システム

世界的に注目されるアニマルウェルフェアをAIを使って解決

近年、スターバックスコーヒーやマクドナルドなどグローバルに外食産業を展開する企業による「アニマルウェルフェア(動物福祉)」に係る活動が増えている。アニマルウェルフェアとは、国際獣疫事務所(OIE)の定義によれば、「動物の生活や死という状況における動物の肉体的および精神的状態」だ。ここでの動物とは、家畜や実験動物、ペットなど我々人間と密接に関わる動物のことを指す。

ニワトリやウシなどの家畜にとって、集約的な飼育環境はストレスが多く、病気にかかりやすい。家畜のアニマルウェルフェアを向上し、健康な家畜を育てることは、健康な食べ物の提供にもつながる。また、現在、日本では、耕作放棄地が増え続けており、このような耕作放棄地にウシを放牧することは、アニマルウェルフェアの向上に寄与する上、荒れた土地がよみがえることも期待される。しかし、特に日本では、農業従事者の数が減少の一途をたどっており、高齢化も進んでいる。そのため、より多くの人手とコストがかかる放牧を行う余裕がないというのが実情だ。

このような状況を、IoTとAI(人工知能)を使って解決しようというのが、東京工業大学科学技術創成研究院の伊藤浩之准教授、信州大学農学部の竹田謙一准教授らの共同プロジェクトチームだ。同チームは、東京工業大学 地球インクルーシブセンシング研究機構が推進するJSTのCOIプロジェクト『サイレントボイスとの共感』の下、最新のエッジAI※1を使ったウシの行動観察システムを開発。現在、2021年の社会実装を目指し、信州大学農学部で実証実験を進めているところだ。

(c)たかぎりょうこ/本学 環境・社会理工学院 高木良子さん(修士課程1年)が制作しました
©たかぎりょうこ
本学 環境・社会理工学院 高木良子さん(修士課程1年)が制作しました

放牧中のウシの行動や姿勢をエッジデバイスで観察

東工大 伊藤浩之 准教授
東工大 伊藤浩之 准教授

エッジAIを使ったウシの行動観察システムとは、ウシの首に、加速度センサーと通信機能を備えたコンピューターデバイスを取り付け、センサーでウシの動きに関するデータを収集し、そのデータを、AIを使ってエッジ(その場)で解析し、解析結果をクラウドやスマートフォン端末などに送信するというものだ。それにより、畜産農家は遠隔地からでも手元のスマートフォンなどを通して、現在、ウシが水を飲んでいるのか、食事をしているのか、寝転んでいるのか、歩いているのかといった行動や姿勢を確認することができる。

コンピューターデバイスには、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の高性能で低消費電力のIoT向けスマートセンシングプロセッサ搭載ボード「SPRESENSETM※2を採用しており、そこに、電子回路を専門分野とする東工大の伊藤准教授らが開発した、AIを使ってウシの行動を解析するアルゴリズムを組み込んでいる。

さらに今後は、GPSも搭載することで、放牧中のウシの位置などもわかるようにするほか、エッジで処理したデータを、電通国際情報サービス(ISID)が提供するクラウドサービスFACERE®※3(ファケレ)に送信して蓄積し、そこでも、AIを使って総合的に解析する。それにより、個々のウシの状態だけでなく、群れ全体の状態も把握できるようになる。その結果、発情や分娩、病気の兆候なども推測できるようになるというわけだ。

多数頭をリアルタイムで同時モニタリング

多数頭をリアルタイムで同時モニタリング

信州大 竹田謙一 准教授
信州大 竹田謙一 准教授

信州大の竹田准教授は、こう説明する。「ウシは社会性の高い動物で、普段は群れで行動しています。その中で、一頭だけはぐれていたり、異なる行動をしていれば、調子が悪いのではないか、発情しているのではないかといったことが手元のスマートフォンでわかるようになります。それにより、畜産農家は、人手不足であっても最適なタイミングで、迅速な対応が効率良くできるようになります」

加えて、牛舎で飼う場合と異なり、放牧の場合、ウシがどのような草を食べているのかも気になるところだ。それに対しても、ウシの行動などから、食べた草の消化の良し悪しなどをある程度、推測できるようになるという。

低消費電力、広域をカバーするシステムで既存の問題を解決

実は、ウシに加速度センサーを取り付けてウシの動きを計測し、そのデータを、AIを使って解析し、Bluetoothなどの近距離無線通信を使って送信するウシの観察システムは、すでに日本では、企業が開発し市販されている。しかし、既存のシステムは、通信距離が短いため、牛舎で飼っているウシの動きを計測するのが精いっぱいで、放牧のような広い環境での利用はむずかしい。また、現在スマートフォンで使用されている4Gネットワークなどを利用して、データをそのままクラウドコンピューターに送信することも可能だが、通信に伴う消費電力が大きいため、センサーの電池がすぐに切れてしまうといった問題を抱えている。毎日、スマートフォンを充電することができる人間と違い、ウシに装着したセンサーを頻繁に充電することは難しいからだ。

それに対し、今回、同チームが開発したウシの行動観察システムでは、まず、エッジコンピューターデバイスでAIが処理したデータ量をできる限り、小さくする工夫をしている。ここに、伊藤准教授のノウハウが詰まっている。それを、低消費電力、低ビットレート、そして、広域をカバーするLPWA(Low Power, Wide Area)と呼ばれる遠距離無線技術を使って送信する。それにより、低消費電力で、放牧しているウシの状態を長時間にわたり、センシングすることを可能にしているのだ。結果、より多くのウシの状態を推測することも可能となる。実現すれば、ひとつの基地局から約100 km圏内の観測が可能になる。この広域をカバーするLPWAならば、村全体で導入するなど畜産農家1軒当たりの負担も軽減できる。現在、酪農・畜産向けのIoTソリューションを既に提供している株式会社ファームノートもこの共同プロジェクトチームに参画し、それぞれの知識や技術、経験を補完し合いながら、世界的にもまだ達成されていない究極のインクルーシブセンシングシステム※4の完成を目指している。

手元のスマートフォンでウシの状態をチェック

手元のスマートフォンでウシの状態をチェック

同システムの社会実装に向けた現在の課題について、伊藤准教授はこう打ち明ける。「一番の課題は、『教師データ』の作成です。AIを使ってウシの行動や姿勢を高精度で推定するには、このデータが一体何を表しているかといったことをAIに教える教師データが不可欠です。教師データを作るには、実際のウシの行動や姿勢と加速度センサーで収集したデータとをマッチングさせなければなりません。ところが、ウシは人間と違って言うことをまったく聞いてくれないので、一苦労です。一日中、ウシを追いかけながら、その行動をビデオカメラに納める日々が続いています。とはいえ、自然豊かなフィールドに出て、ウシと触れ合うことは、これまで私が取り組んできた電子回路の研究ではなかったことで視野が広がりますし、大変ですが癒されます。」

牛舎での伊東准教授と竹田准教授

日本発のITで畜産業に貢献したい

伊東准教授と竹田准教授

東工大と信州大がこの共同プロジェクトを立ち上げた経緯について、伊藤准教授はこう振り返る。「私はある時、ふと自分の研究は本当に社会に役立つものなのかという疑問を抱きました。そこで、現場のリアルなニーズを知ろうと考えて、色々な分野の方々との交流を始めたのです。そこで出会ったのが、竹田先生でした。そして、畜産農家が直面している問題を伺い、竹田先生と話し合う中で、ウシの行動観察システムに取り組むことになりました」

このような中、東工大COI「サイレントボイスとの共感」地球インクルーシブセンシング研究拠点では、自然や動植物、構造物などのサイレントボイス、つまり、声なき声をIoTやAIを使って聞き、共感することで、同じ地球環境の中で共存共栄を図っていくことを目標としていたことから、伊藤准教授らの取り組みが、この目標に合致しているということで、同研究拠点の下で、本格的に共同プロジェクトをスタートさせることになったのだ。

東工大との共同プロジェクトについて、竹田准教授は、次のように語る。「私は信州大学周辺の畜産農家が直面している課題について、IoTなどの先端技術を使って解決できないかと模索していました。しかし、我々にはそのノウハウがありませんでしたので、伊藤先生と出会い、東工大のチームにデバイスを作ってもらえたことは本当にありがたかったですね」

最後に、伊藤准教授はこう締めくくった。「我々も竹田先生に目指すべきゴールを明確にしていただいたおかげで、ここまでブレることなく、開発を進めることができています。また、ウシの生態を知り尽くしている竹田先生がいらっしゃるからこそ、実用性の高いデバイスを開発できると考えています。日本は、半導体や通信などITにおいて、高い技術力をもっています。ところが、畜産業に導入されているITのほとんどは輸入品です。そのため、メイドインジャパンのこのウシの行動観察システムを1日も早く実用化して、畜産業に貢献したいと思っています」

※1 エッジAI

通常はクラウド側で実行されるAIの処理をセンサなどのデバイスが存在するエッジ側で実行する仕組み。

※2 SPRESENSETM

SPRESENSETMは、ソニー株式会社の商標です。

※3 FACERE®

FACERE®は、株式会社電通国際情報サービスの商標です。

※4 インクルーシブセンシングシステム

ウシの動き(加速度センサ)、位置(GPS)、それらデータに基づいてエッジAIでウシの行動を解析するほか、牧場の温度、湿度などの飼育環境の情報も併せて収集・分析する行動推定システム。

「場」のサイレントボイス
コミュニケーションを定量化して共感度を可視化

創造性の向上に重要な役割を果たす双方向コミュニケーション

東工大 三宅美博 教授
東工大 三宅美博 教授

学校や会社といった集団社会においてコミュニケーションは重要な要素だ。しかし、コミュニケーションは人と人との間で発生するものであり、目で見ることができない。そこで、東工大COI「サイレントボイスとの共感」地球インクルーシブセンシング研究拠点で、集団の「場」におけるコミュニケーションの活性度を計測して可視化する研究を進めているのが、情報理工学院の三宅美博教授だ。

「特に最近日本では、知的生産性の向上が求められています。知的生産性の向上とは、創造性の向上であり、そのためには、双方向のコミュニケーションによる"共創"が不可欠です」と三宅教授は語る。

コミュニケーションというと会話や文字などバーバルなコミュニケーションを想像しがちだが、実際は顔の表情や身振り・手振りといったノンバーバルなコミュニケーションが全体の約7割を占める。そこで三宅教授は、ノンバーバルなコミュニケーションの中でも、「うなずく」という動作に着目し、それを可視化するシステムの開発を進めている。さまざまな動作の中からうなずきに的を絞ったのは、コミュニケーションの場において、相手への共感度とうなずきとの間には特に強い相関関係があるからだ。また、従来、うなずきを可視化することは容易ではなかったが、近年のIoTの登場により、人にセンサーを装着するだけで簡単にうなずきを定量化できるようになった。加えて、多くの人に装着することで、お互いがどのくらい共感し合っているか、誰と誰が共感しているかといったこともリアルタイムに解析できるようになった。その結果をフィードバックすることで、効果的なコミュニケーションが図れるようになり、創造性の高い「場」が形成されることが期待される。

AIを使って場の良し悪しの判定も可能に

「えんたくん」を囲み、首にスマートフォンをぶらさげた学生

具体的には、東工大でリーダーシップ教育院とリベラルアーツ研究教育院を兼務する中野民夫教授の協力を得て、中野教授の円卓での授業に参加している学生全員の首にスマートフォンをぶらさげてもらい、スマートフォンに搭載されている加速度センサーを使ってうなずく動作を計測。

そのデータを、無線通信でサーバーに送り、リアルタイムに解析することで、パソコン画面上で、現在のコミュニケーションの活性度を、わかりやすい図やグラフで確認できるようにした。たとえば、Aさん、Bさん、Cさんの3人がいて、AさんとBさんの共感度が高い場合、AさんとBさんの間に引かれた線が太く表示されるといった具合だ。「時系列に沿って複数の学生のうなずきの変動を見ていき、それを『相互相関関数』を使って計算すると、誰と誰が共感しているか、誰と誰が共感していないかといったことが一目瞭然でわかります」と三宅教授は語る。

世界で初めて実現した「場」を可視化できるシステム「SyncViewer」。コミュニケーションの参加者が装着している加速度センサが、一人一人の体の動きをリアルタイムで計測。それらの動きの間のインターパーソナルなリズム同調を分析する。

世界で初めて実現した「場」を可視化できるシステム「SyncViewer」。コミュニケーションの参加者が装着している加速度センサが、一人一人の体の動きをリアルタイムで計測。それらの動きの間のインターパーソナルなリズム同調を分析する。

さらに今後は、人工知能(AI)を使って、現在のコミュニケーションの場の状態の良し悪しなどを自動的に判断できるようにする計画だ。また、現在は、スマートフォンを使ってセンシングしているが、今後はソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の「SPRESENSETM」をプラットフォームとするIoTエッジデバイス※5に置き換えていく。

「現在、東工大では、学生同士の対面による参加型授業を積極的に実施しています。これまでは、アンケートなどからしか授業の効果や満足度を推定できませんでしたが、今後このシステムが完成すれば、効果が定量化できるようになり、学内外から期待が寄せられています。さらに授業の満足度が不十分な場合に、現場で学生にフィードバックを行い、改善していくかも研究課題です。」と三宅教授は語る。

※5 IoTエッジデバイス

IoTとは「Internet of Things」の頭文字を取ったもので、「モノのインターネット」と呼ばれる。さまざまなモノに通信機能を持たせ、モノから得た情報をインターネット経由でサーバーに送信し、計算処理するシステムのことをいう。そして、エッジデバイスとは、そういった機能をもつモノのことを指す。エッジデバイスには、各種センサーが搭載されており、近年は通信にかかる消費電力を低減するため、エッジデバイスでセンシングした情報をその場で計算処理する「エッジコンピューティング」の研究が盛んに進められている。

ソニー(株)廣井聡幸 プロジェクトリーダー × 東工大 若林整 研究リーダー 対談
「オープンイノベーションをベースに個々の共同研究を推進できる産学連携の新たな仕組み」

ソニー(株)廣井聡幸 プロジェクトリーダー X 東工大 若林整 研究リーダー

東京工業大学COI「サイレントボイスとの共感」地球インクルーシブセンシング研究拠点では、企業と大学が連携してオープンかつウィンウィン(win-win)な関係を構築し、サステナブルな未来社会創造を目指していく。この拠点を率いるソニー株式会社の廣井聡幸プロジェクトリーダー(PL)と東京工業大学の若林整研究リーダーがコンセプトや目指すゴールなどについて語った。

ソニーと東工大の強みを結集

ソニー株式会社 廣井聡幸 プロジェクトリーダー
ソニー株式会社 廣井聡幸 プロジェクトリーダー

廣井 「サイレントボイスとの共感」というテーマを設定した背景には、人類が直面している課題があります。現在、世界はアジアを中心に、経済発展が著しく、それに伴い、食糧不足や環境破壊が加速しています。一方、日本では、少子高齢化に伴い、農業や土木業、社会福祉業などさまざまな分野で、人手不足が深刻化しています。これらの課題を解決するには、これまでのような、不都合な事態が起こったあとに対処するといった事後処理ではなく、不都合な事態を未然に防ぐことが重要です。そして、そのためには、自然界や人間社会におけるサイレントボイスを常にセンシングして見守っておく必要があるということです。それにより、コストや資源の無駄遣いを抑えて効率性を高めることができ、地球にやさしいサステナブルな未来社会を築けるのではないかと考えています。

若林 このサイレントボイスをセンシングする手段として、IoTや人工知能(AI)などの最先端技術を使うことで、我々にとってわかりやすい形で情報化し、それを必要とする人に最適なタイミングでフィードバックすることが必要です。

そして、そのためには、センサーや通信機器、その場でAI処理が可能なプロセッサを搭載した、小型・軽量かつ超低消費電力のIoTエッジデバイスが不可欠です。そこで、共同研究を進めるに当たっては、プロセッサに関する高い技術力と豊富な社会実装経験をお持ちの廣井様に、プロジェクトリーダー(PL)にご就任いただきました。

廣井 私は長年ソニーでゲーム機のLSIの開発に携わってきましたが、一方で、約20年前から、環境問題に強い危機感をもっていました。そして、その間、LSIが急速に小型・軽量化、低コスト化していったことに加え、私自身も新たに長距離無線通信の研究を始める中、これらの技術を環境保護に役立てたいと真剣に思い始めました。このような折、この度若林先生から、COI拠点に関するご相談を受け、即座にお受けした次第です。

若林 現在、本COI拠点では、廣井PLが開発され、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が市販しているIoT向けスマートセンシングプロセッサ搭載ボード「SPRESENSETM」をプラットフォームに、光や温度、動き(加速度)などの情報を検出・認識処理するIoTエッジデバイスの開発を進めています。このデバイスを使って、東工大の強みである最先端のAI技術を搭載したり、既存のセンサーを、現在研究開発中の「ダイヤモンドセンサー」や「グラフェンセンサー」「カーボンナノチューブセンサー」などの次世代の超高感度センサーに置き換えていくことで、低消費電力でありながら高機能、高性能なIoTエッジデバイスを実現できると考えています。

廣井 具体的な成果の1つが、東工大の伊藤浩之先生と信州大の竹田謙一先生が中心となって進めている「牛の行動観察システム」であり、東工大の三宅美博先生と野澤孝之先生による「『場』のサイレントボイス」です。

オープンな環境に幅広い分野の研究者が集まり共同研究を加速

東工大 若林整 研究リーダー
東工大 若林整 研究リーダー

若林 私はこれまで数多くの産学連携を経験してきましたが、本COI拠点の素晴らしい点は、従来のような近い分野同士が1対1で進める狭い産学連携とは異なり、縦方向にも横方向にも幅広いさまざまな分野の研究者が集まり、オープンな環境の下、共同研究を進めることができていることです。しかも、ソニーをはじめ先進的な企業や他大学が参画してくださっている点を大変ありがたく思っています。

廣井 若林先生は、「オープンイノベーション・コンソーシアム」というコンセプトを掲げていらっしゃいます。これは本COI拠点の目的に大変マッチしていると思います。ソニーも今後はエンターテインメントやITだけでなく、農業など幅広い分野の方々と共同研究を進めていく必要があると感じています。企業の立場では、なかなか短期的に利益の出ない産学連携プロジェクトに参画することが難しい場合があります。しかし、人類が抱える課題は一企業や一大学だけで解決できるものではありません。従来の技術開発の進め方にとらわれることなく、柔軟な発想で多角的にものごとをとらえ、最適なソリューションを見出していくことが肝要です。そのため、今後もさまざまな分野の方々に参画いただき、お互いに協力し合っていけることを願っています。

若林 同感です。今後の目標としては、牛の行動観察システム、「場」のサイレントボイスに続く第3、第4のソリューションを出していきたいと思っています。また、本COI拠点自体は2021年度終了予定ですので、その後は、コンソーシアムとして独立し、研究開発を継続させていくことを目指しています。

廣井 インテルのプロセッサが開発されてから約50年が経過しましたが、その間、性能は実に100億倍になっています。昔のスーパーコンピューターがポケットの中に入る時代がやってきているわけです。また、インターネットが普及し、国境を越えて世界中の人々がつながりました。その結果、地球の裏側で起こっている出来事が他人事ではなくなりました。これは、地球規模の共存、世界平和につながると私は考えています。これが、ITが本COI拠点が目指すサステナブルな未来社会を実現するための有効な手段であると考える根拠です。本COI拠点の目標は、1、2年で解決するような簡単な課題ではありません。今後もこのような研究拠点を基盤としたオープンイノベーション・コンソーシアムの一員として取り組んでいきたいと願っています。

Sense、AI、Feedback

SPECIAL TOPICS

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2019年9月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp