研究

東工大—NTU国際共同研究を加速

ラム・キンヨン教授 シンガポール南洋理工大学(NTU)学長室長兼副学長(研究担当)

2016年2月、東京工業大学とシンガポール南洋理工大学(NTU)はNTUで合同ワークショップを開催し、今後の共同研究の可能性を検討しました。両大学の協力関係や東工大が取り組んでいる改革について、NTUのラム副学長に聞きました。

東工大-NTU合同ワークショップを開催

東工大とのこれまでの関わりは。

東工大にはたびたび訪れています。シンガポール国立大学の講師を務めていた1989年には、日本学術振興会(JSPS)の研究員として東工大で数週間過ごした経験があります。最近では、2015年1月に、東工大が文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援事業に採択されたことを受けて開催された同事業のキックオフ・シンポジウムで、講演者の1人として招待され、NTUの経営改革に関して講演しました。

2016年2月末にNTUと東工大が開催した共同ワークショップはいかがでしたか。

ワークショップでの講演
ワークショップでの講演

2015年2月に東工大の三島良直学長(当時)がシンガポールにお越しになり、NTUのバーティル・アンダーソン学長(Professor Bertil Andersson)と会談し、両大学の学術協力について協力できる分野を洗い出し、ふさわしい教員の選任を行うことで合意しました。今回のワークショップはその結果を踏まえて開催されたもので、お互いが強みとしている研究分野を理解する大変良い機会となりました。現在次なるステップとして共同研究プログラムの提案作りに努めています。

NTUはこれまでに多くの大学や企業と国際共同研究プログラムを実施して成果を上げてきています。英ロールスロイス社やドイツBMW社、地元の発電事業会社のSTエンジニアリング、大学では英ケンブリッジ大学、米カリフォリニア大学バークレー校などは主要な共同研究パートナーです。東工大も有力なパートナーになると期待しています。

NTUが国際共同研究を推進する狙いは何ですか。

学術論文の国際的な影響力を測る指標の一つである論文の「被引用数」が増えます。複数国の研究者が共同執筆した学術論文は、一国の研究者が執筆した学術論文と比較して、被引用数がかなり高くなるという調査があります。多数の国からより多くの教員や研究者たちが共同研究に参加すれば、その成果もより多く引用され、影響度は強くなります。研究成果が一つの国の中だけに留まるのではなく、世界中に広がることは素晴らしいことです。

東工大の改革への期待

東工大では、さまざまな改革に取り組んでいますが、どのような印象をお持ちですか。

改革に積極的に取り組まれており、NTUとしても大いに関心を持っています。教育、研究、グローバル化、産学連携、ガバナンスなど、大学が取り組むべき全ての分野の改革がカバーされており、それぞれに綿密なプランが用意されていることに大変驚きました。

教育改革ではカリキュラムの拡大と深化を同時に推進していることに注目しています。カリキュラムの拡大と深化の適正なバランスを保つことはとても難しいことです。専門知識を深めることはもちろんですが、イノベーションを起こすためには、異なる文化や環境に関わる幅広い教育を提供することが不可欠です。変化が激しいイノベーションの時代において、研究が経済、社会の面で世界に本質的な影響をもたらす、という高い期待こそがエンジニアを研究に駆り立てます。ですから、理工系大学で学生たちに社会科学、人文科学分野の知識を教えることは、素晴らしいことです。今回の改革で東工大では博士課程のカリキュラムにリベラルアーツの教育を組み込むことにもチャレンジしています。

研究改革についてはいかがですか。

ラム・キンヨン教授 シンガポール南洋理工大学(NTU)学長室長兼副学長(研究担当)

際立った印象として次の2点があります。まず、学際的というか異分野融合に取り組んでいることです。学際的な研究としては、例えば、エネルギー問題やサイバーセキュリティーへの取り組みなどが挙げられます。自然科学分野でも、機械、化学、数学、情報科学などの異分野融合が必要ですし、人文科学者や社会科学者などとの協力も必要です。社会学者や行動科学者は大局的な見方を提供してくれます。文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されている東工大の地球生命研究所(ELSI)は、地球科学や生命科学の学際的研究に取り組んでいることがその一例だと思います。

2点目は、日本政府(文部科学省)から多額の競争的研究資金を獲得していることです。ELSIは、文科省から10年間の運営資金の支援を得ており、資金が確保されていることで、研究者たちは、短期的な成果を出すことに縛られることなく、それぞれの研究分野に専念することが可能になっています。

NTUでも学際的研究を奨励していますか。

はい、かなり昔から学際的研究を奨励してきました。そのために、研究所は学部や研究科からのサポートを受けて全学レベルでの研究を行う組織として位置付けられています。かなりの権限を研究所に与えていて、大学のすべての部署から教員や研究者を集めて一緒に研究に取り組むとともに、外部資金を獲得します。多くの学部・研究科から学生も受け入れています。つまり、NTUの研究所は学際的研究を推進し、多様な学生や教員たちが共同で研究を進めるプラットフォームと言えます。

さらなる学術交流に向けて

NTUでは学生たちの交換留学をどのように位置付けていますか。

NTUでは、伝統的に留学経験を重要視していて、交換留学への参加学生比率やプログラムの豊富さはNTUの力を示す主要な指標です。多くの学生が1学期または1年間の海外留学へ出かけます。交換留学は、NTUの学生たちに異文化や異なる考え方を体験させる重要な制度の1つです。海外からの留学生も歓迎しておりNTUの学生が多様な留学生と交流を深めることも大変有用だと考えています。

NTUと東工大との交換留学プログラムはどのように発展させるべきでしょうか。

NTUにとって東工大との交換留学プログラムも重要です。NTUへ留学する東工大の学生も世界中から集まっている国籍多様な教員や学生たちと国際色豊かな交流ができます。さらに、ロールスロイス社やBMW社などの著名な企業との共同研究にも参加できます。

NTUには2つの先進的な例があります。2016年4月には、テクニオン・イスラエル工科大学、韓国科学技術院(KAIST)、NTUの3機関で共同研究を始めました。また、韓国大学、エルサレムHebrew大学とNTUの3大学が共同で国際イノベーション研究所(I3 I-Cube:Institute for International Innovation)を立ち上げました。いずれも新興著しいイスラエル、世界的な製造を担っている韓国、アジア地域本社や先端多国籍企業の研究開発施設が集中しているシンガポールが組むことが特徴です。日本には、世界展開している大手電機メーカーなどの著名企業がたくさんあることが魅力です。こうした利点を活かし東工大とも新しい連携プログラムを実施できればと思っています。

NTUの象徴である芸術学部デザイン・メディア(ADM)棟

NTUの象徴である芸術学部デザイン・メディア(ADM)棟

今後の東工大との交流は、研究面でも強化していくということですね。

研究面での交流には、大学院生や、研究スタッフ、さらには事務スタッフの交流の機会も増やさなければなりません。2016年2月に実施したNTUと東工大のワークショップでは、3つの研究分野を設定しました。環境工学、エネルギーや燃料の新分子化学、そして生物医学や医療技術のための界面科学です。これらは、東工大と同様、NTUにとっても重要な分野です。これら3つの分野、あるいは1つの分野だけでも、それぞれの資源を出し合って共同研究をスタートさせることを提案したいと考えています。次の段階で、じっくりと時間をかけて、それぞれの国の競争的外部資金の獲得を検討したり、産業界からの支援を呼びかけていきます。

NTUでは3者連携(トリプルへリックス・モデル)と呼ぶスキームを作っています。トリプルへリックスの1番目の構成要素は、NTUや東工大のような大学です。2番目は、企業やその他の海外の大学、または研究所です。そして3番目が、政府や国のファンディング・エージェンシーです。企業との提携においてさえも、研究を進めるためには、共同出資やファンディング・エージェンシーからの何かしらの支援が必要になるかもしれません。

トリプルへリックスは、非常に定評のあるモデルで、私たちもこのモデルで成功してきました。このモデルは東工大とNTUとの関係においても大変有効な方法です。NTUは、共同研究先として東工大と組み、企業や公的機関からの研究資金を獲得し、両者で先端的な研究を実施してイノベーションを起こしたいと思います。

ラム・キンヨン教授(Professor Lam Khin Yong)

ラム・キンヨン教授 (Professor Lam Khin Yong)

略歴

  • 1989年~1994年シンガポール国立大学(NUS)機械工学部シニア・レクチャラー
  • 1994年~1998年NUS計算機械学センター ファウンディング・ディレクター
  • 1994年~1999年NUS機械工学部准教授
  • 1998年~2003年ハイパフォーマンスコンピューター研究所(IHPC) ファウンディング・エグゼクティブ・ディレクター
  • 1999年~2005年NUS機械工学部教授
  • 2002年~2004年シンガポール科学技術研究庁MDオフィス ディレクター
  • 2003年~2006年シンガポール科学技術研究庁グラジュエート・アカデミーファウンディング・エグゼクティブ・ディレクター
  • 2006年~2008年NTU機械・航空宇宙工学部学部長
  • 2006年~現在NTU機械・航空宇宙工学部教授
  • 2008年~2011年NTUアソシエイトプロボスト(大学院、特別プロジェクト)
  • 2011年~現在NTUチーフオブスタッフ
  • 2014年~現在NTU副学長(研究担当)

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2016年5月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp