Summer Exchange Research Program(SERP) オックスフォード大学 2019年7月~9月

Summer Exchange Research Program(SERP)  オックスフォード大学 2019年7月~9月

留学時の学年:
修士課程2年
東工大での所属:
物質理工学院
留学先国:
英国
留学先大学:
オックスフォード大学
留学期間:
2019年7月~9月
プログラム名:

派遣大学の概要

【大学名】オックスフォード大学
【所在地】イギリス
【創立】1167年(1096年に講義が行われていたという記録がある)
【学生数】約24,000人(約半数が院生)
【世界大学ランキング】1位(東工大251-300位、Times Higher Education 2020)
【特徴】
オックスフォード大学は首都ロンドンから電車で1時間ほどの距離に位置する総合大学です。キャンパスを持っていないため、各学科の建物が街中に点在していました。市内にはショッピングセンターや映画館、ジム、パブなどがコンパクトにまとまっていた他、緑溢れる広大な公園もいくつもあり、生活しやすい街だと感じました。

  • 市内観光名所のラドクリフカメラ

    市内観光名所のラドクリフカメラ

  • 学科の建物

    学科の建物

  • 学科の建物

    学科の建物

留学準備

応募

私は就職活動の落ち着く修士2年の夏に留学したいと希望していました。そのため、修士1年の間に集中して講義や研究に取り組みました。その中で、別の場所で研究できるならば日本の研究室では扱うことのない新たな分野について学びたい、また留学するならばレベルの高い大学で学びたいと思うようになり、今回の派遣先を志望しました。

派遣準備

本留学でビザは不要でした。滞在期間や研究室およびテーマは、本学で派遣が決定した後に、現地のコーディネーターが研究室と相談してくださる形で決まりました。3ヶ月の留学期間で希望を出しましたが、現地の大学のスケジュールの都合上2ヶ月半の留学となりました。また、研究室やテーマもこちらの希望をコーディネーターの方が元に調整してくれました。

所属研究室での研究概要

【研究題目】Polymer-decorated nanomaterials

概要

ナノスケールからマクロスケールまで精密に構造の制御されたナノ材料は、新規素材のビルディングブロックとして有望な材料です。様々なナノ材料を組み合わせ、階層構造を持たせた材料は、触媒や電池として特に応用が期待されています。しかし、その材料の組み合わせ方や材料の作成条件に応じた性質の違いについての統計的な研究は未だになされていません。本研究では、カーボンナノチューブをナノ粒子で修飾した複合体を取り上げ、ナノ粒子を取り巻く配位子、および複合体作成時に用いる溶媒の種類を変えると、修飾率がどのように変化するかを調査しました。

研究の概略図
研究の概略図

所属研究室内外の活動・体験

研究室生活

研究室が市内から離れた場所にあり、市内と研究所を循環するシャトルバスで通学していました。大抵10〜17時の間研究室で作業をしていましたが、コアタイムはなくフレキシブルに予定を調整することができました。お昼ご飯は先生も含め研究室の皆で食べる習慣があり、週末の予定から歴史や政治など幅広い事柄について話しました。現地の学生もイギリス国外出身の人が多く国際色豊かな環境だったため、様々な視点から意見を交わすことができたことが印象に残っています。会話は全て英語のため、特段言語に不自由することはありませんでした。

研究活動を行うに当たっては、PhDの学生が1人付いてくれました。派遣前にメールで何をするのか、どんな予定で研究を行うかに着いて話し合っていたため、到着後スムーズに研究を始めることができました。また、留学中も試してみたいアイディアがあれば、とりあえず尋ねてみるようにしていました。この夏、研究室には私の他に4人留学生がいましたが、事前の相談なしに到着した何人かはやることを見つけるのに苦労していたため、行けば何とかなると受け身でいるのではなく、自ら行動を起こし意思表示をすることが重要なのではないかと感じました。

実験室の様子
実験室の様子

研究所の食堂
研究所の食堂

日常生活

食事について、外食は高かったため、自炊をしたりスーパーで出来合いの食事を買ったりしていました。研究所には良心的な価格帯の食堂があったため、お昼ご飯はそこで買っていました。また余力があれば、研究室から帰った後に他の留学生と映画や買い物、飲みに出かけました。寮の向かいに大学所有の大きな公園があったので、夕方の散歩も楽しみました。毎週金曜の夜は、研究室の人たち皆とパブへ行ったのが大変良い思い出です。

イギリスは雨という印象でしたが、滞在中はよく晴れていたように思います。雨は降っても土砂降りということはあまりなく、少し待てば止むこともしばしばでした。7月は最高30ºC近くになる日もありましたが、湿度は高くないため、過ごしやすく感じました。夜は冷え込む日が多く、9月は10ºC程まで気温が下がるようになったため、日本から持って行った薄いダウンジャケットが重宝しました。

研究室の人たちとパブにて
研究室の人たちとパブにて

大学所有の広大な公園
大学所有の広大な公園

余暇

週末はシャトルバスが走っていないため、基本的に研究室の皆さんは休みを取っていました。私は同じ研究室に来ていた留学生とイギリス国内を観光した他、以前短期留学した際に知り合った友人を訪ねに、スコットランドとドイツへも出かけました。

留学先での住居(寮、ホームステイ等)、探し方、申し込み方法、ルームメイトなど)

カレッジ

宿泊先は現地コーディネーターの方が手配してくださった、大学院生向けのカレッジでした。オックスフォード大学でのカレッジは学生寮を意味し、多くの場合敷地内に図書館、教会、ダイニングホールも備えられていますが、私はVisitorの身分だったため残念ながらこれらの施設にアクセスすることはできませんでした。所在地も教会等のあるメインのカレッジから離れていましたが、私のいた建物内にもキッチンや洗濯機など生活に必要なものは完備されていたため、不自由することはありませんでした。

部屋

部屋は1人部屋で、小さなソファが2つある程の十分な広さがあり、シンクも付いていました。キッチンはフロア全体で、シャワー、トイレ、は近隣の数人と、洗濯乾燥機は数台を寮全体でシェアしていました。学科が受け入れていた夏の留学生の多くが同じフロアに滞在していたため、キッチンは少し混み合っていました。共有スペースと個人の部屋共に週に一度お掃除の方が入っていてくれたため、寮はきれいに保たれていたように感じました。

利便性

寮は学科の建物までは徒歩10分、最寄りのスーパーまでは20分ほどの距離にありました。市内から寮の近くまで来るバスはなかったため、中古の自転車を£50で購入しました。自転車があると、市内の他の観光スポットやショッピングセンターまでも簡単に足を延ばすことができ、良い投資となりました。

クライストチャーチ  (オックスフォードで 最も有名なカレッジ)  (私の滞在先ではありませんが)
クライストチャーチ  (オックスフォードで 最も有名なカレッジ)  (私の滞在先ではありませんが)

私の滞在した寮の外観
私の滞在した寮の外観

留学費用(渡航費、生活費、住居費、保険料)など

渡航費240,000円
寮費250,000円(光熱費込、食事なし)
保険料30,000円
通信費4,500円(3ヶ月分)

イギリスは物価が高いと噂に聞いていましたが、生活費は日本と変わらないように感じました。ただ、頻繁に外食をしたり、生活用品を現地で揃えたりしようとすると、出費が嵩むように思いました。例えばサンドイッチ一つにしても、カフェで買えばスーパーの1.5倍ほど高いという印象を受けました。また、他の留学生でヘアドライヤーを持参しておらず現地で買っていた人が複数人いましたが、必需品であって日本の方が安く手に入るものは最低限準備して行くべきだと感じました。

またインターネット通信について、あらかじめイギリスからgiffgaffという格安通信会社のSIMカードを取寄せ、到着後すぐにスマホが使えるように準備して行きました。1ヶ月ごとに通信量を決めて支払うことができ、またEU圏内でも追加料金なしで使用できたので便利でした。ただしイギリス国内での通信速度は比較的遅かったため、地図等にアクセスできないと心配な場合は大手通信会社のSIMカードを使う方が得策かもしれません。

今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望

留学で得られたもの

本留学を通し、自分から積極的に動きかけること、そして自分の責任で最後まで物事をやり遂げることの大切さを実感しました。個人的に、日本の研究室では研究内容や研究スタイルが確立されている中で研究をするため、他の学生を横目で見ながら、次から次へとやって来る仕事をこなして力をつける環境だという印象があります。一方、派遣先の研究室では研究の着想から実行、仕上げまでかなりの部分が学生個人に任されており、個々が自分の目指すゴールに向かって学業に励んでいる様子でした。博士課程3年半に渡る研究を自分だけ行うことがいかに難しいかは、容易に想像がつくかと思います。このような環境だからこそ物事を他人任せにはできず、困っていたら助けを求める、やりたいことがあったら手を挙げる、といったように自主的に動くこと求められているように感じました。そして現地の学生はこれが自然とできるため、私も自発的に行動しようと意識して毎日を過ごしました。例えば希望や疑問を単刀直入に言うようにしていたことで、短期間でしたが充実した研究生活を送れたように思います。また、私に付いてくれたPhDの学生はかなり面倒見の良い人でしたが、彼自身もやることがあるため、私のお願いしたことがどうしても後回しになることがありました。期日までにやって欲しいことはリマインドをし、また自分でできる範囲のことは全て自分で仕上げるようにしたりしていたため、滞りなく研究を進めることができたように思います。私は昔から一番に手を挙げるような性格では全くありませんでしたが、滞在中勇気を出して言い出してみるよう心がけて行動していたところ、今までは固定観念や自分に対する先入観に縛られて諦めていたようなことも本当はできるのではないか、もっと多くのことにチャレンジできるのではないかと感じるようになりました。化学系の技術者は、理系の学生は、日本人は、女性は、こうあるべきだという先入観にとらわれることなく、これからも自分のやることに責任を持って能動的に行動し、より大きな目標を叶えることができるよう努力したいと思います。

これから留学する方へ

今回私は留学環境大変恵まれ、研究室にも寮にも日本人が1人もいない環境で2ヶ月半過ごしました。そこで日本の文化や政治、歴史など多くの事柄について興味を持って尋ねてきてくれる人に多く出会い、日本での生活について話したり、他のアジア各国との違いを話したりする機会が頻繁にありました。その中で、私は現地の多くの人にとって唯一の日本人の友達となったため、自分の話す内容やその態度までもが日本人全体の印象となり得る、大げさではありますが、日本を背負っているのだという考えがいつも頭の片隅にありました。仮にそこで日本人に関してネガティブな印象を与えたとしたら、何が起こるでしょうか。次に来る日本人留学生をろくに扱ってくれなくなるかもしれません。仮に日本という国に対してもネガティブな印象ができてしまえば、彼らが日本の科学技術や産業を見る目も変わってしまうかもしれません。今回派遣先では日本製の実験装置が多く使われており、中には30年以上経った今も壊れる事なく高度なデータを提供できている装置もあることを誇らしく思いました。そのような技術力を守り発展させてゆくには、国内で研究活動が活発に行われているだけでなく、新たな技術が多くの場所で利用されるよう発信するよう取り組む必要もあるかと思います。情報に溢れる今の社会では、個人の小さな出来事さえも大きな反響を呼び、ちょっとした「印象」が政治や経済の流れを大きく変えることもあり得るようになりました。また国際化の進んだ今の世の中では、その局所的な変化が世界各地に伝播することも稀ではなくなりました。私たちのちょっとした行動や発言が誰かの考え方を変え、それが広まるということがあり得ない話ではないと感じます。留学は、これまでと全く異なる環境に身を置くことで、学業や文化、さらには人生について新たな学びを得る、インプット重視の経験という印象が強いかと思います。しかし今回の派遣を経て、留学では必要な時にきちんとアウトプットできることも大切だと強く感じました。こう書くと留学はハードルの高いものだと聞こえてしまうかもしれませんが、一番重要なのは語学が優れていることでも博学であることでもなく、諦めずに自分の考えを伝え、相手の意見を聞き、互いを良く知ろうとする、ポジティブで積極的な姿勢だと思います。おこがましいことを書きましたが、ぜひこれから留学する皆さんには、まず日本代表としての意識を持って渡航して欲しいと思います。その先にはきっと眼を見張るような世界が待っていますよ!

最後に、このようなかけがえのない経験をする機会を与えてくださった、国際研究研修主査竹村先生、工系国際連携室久須美様、東工大留学・SERP関係者の皆様に深くお礼申し上げます。
また、この夏ポストをくださったNicole先生並びにNanomaterials by Designグループの皆様、これまで研究スキルを身につける機会を与えてくださり、留学にも快く送り出してくださった大塚先生並びに大塚研究室の皆様、そして常に励まし支えてくれた両親に深く感謝致します。

この体験談の留学・国際経験プログラム情報

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