Summer Exchange Research Program(SERP) ケンブリッジ大学 2023年6月~9月

Summer Exchange Research Program(SERP) ケンブリッジ大学 2023年6月~9月

留学時の学年:
博士1年
東工大での所属:
物質理工学院 材料系
留学先国:
英国
留学先大学:
ケンブリッジ大学
留学期間:
2023年6月15日~2023年9月15日
プログラム名:

派遣大学の概要

ケンブリッジ大学はアイザック=ニュートンやチャールズ=ダーウィンを含む数多くの著名な研究者を輩出してきた名門大学で、現在も世界中から多くの学生が学びに来ています。カレッジ制を採用しており、昔はカレッジごとに生活、教育が一貫して行われていました。現在でも入学試験はカレッジごとに行われています。街の中に大学の施設が点在していることも特徴的で、よく”街の中に大学がある”と言われています。実際に街中には古風な建築と自然がバランスよくちりばめられており、散策しているだけで優雅な気分になることができます。立地も比較的よく、イギリスの交通の要所であるキングス=クロス駅まで約50分の直通電車もあるため、イギリス中どこに行くにも便利です。

留学準備など

本留学にはビザが不要なうえ、保険の加入や奨学金、必要書類等に関しては国際交流支援チームの方が案内してくださったので、出発前に行うことの最優先事項は留学先研究室の決定と滞在する住居の確保、旅券の購入でした。留学先研究室については、自身の専門分野に関係する研究を行っている研究室をピックアップし、教授にメールで直接連絡を取り、受け入れ許可を得ることで決定しました。住居の確保についは、大学の公認サイトであるAccomodation serviceを用いて利用可能なホームステイ先を見つけ、その都度メールを送っていました。1カ月前から探し始めたのですが、3カ月という短期滞在者を受け入れてもらえる場所は少なく、かなり苦戦しました。旅券の購入は直前になると高騰することは分かっていたため、3カ月前には済ませておきました。その他にも、昨年同大学に留学した先輩にコンタクトレス決済に対応しているクレジットカードは必須だという話を聞いていたので、その発行も済ませておきました。また、到着後の研究を滞りなく進められるように現地のPh.D学生とのディスカッションやメールでのやり取りを繰り返して研究テーマを練るとともに、研究分野の勉強のためにその分野の論文を読み込んでおきました。

所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など



【概要】
慢性創傷治療のための電圧応答性積層繊維の作製に取り組みました。具体的には、慢性創傷治癒を促進する成長因子(FGF-1)をコアに組み込んだコアーシェル繊維と導電性繊維を順にプリントし、導電性繊維に電圧を印加することで必要に応じて患部に成長因子を投与できるシステムです。従来の電気泳動を用いた薬剤送達システムには、薬剤内包フィルム上に導電性フィルムを積層したものや導電性高分子を混ぜた繊維がありましたが、本システムはそれらの欠点である患部の観察が難しい点、低い通気性、成長因子以外の物質の患部への放出が抑えられると考えられます。
【経過と成果】
まず、成長因子を長期間放出することなくパッキングできる高分子材料を決定するための膨潤試験を行いました。その結果、エチルセルロースとキトサンの膨潤率が最も低かったため、これらの高分子をシェルに、成長因子と同じく電気泳動を示す蛍光色素(FITC-Dextran)をコアに用いた繊維を導電性基板上にプリントし、共焦点レーザー顕微鏡を用いてPBS中での放出挙動を観察しました。この際、1Vの直流電圧を印加することで、印加/非印加時の放出挙動の変化の調査を行いました。その結果、電圧印加前後での放出速度が著しく変化することが確認されました。また、導電性基板の代わりに用いる導電性繊維の印刷を行い、その電気的特性と耐久性についての実験も行いました。
【課題と展望】
現時点では連続的なコアーシェル構造を持った繊維をプリントする再現性が低いため、プリント時の溶液の押出速度とノズルの移動速度の最適化を行う必要があります。また、プリント後の繊維の構造と詳細な放出メカニズムについての実験、考察が不十分なため、孔径や化学構造、結晶化度などの情報が必要です。今後は、エチルセルロースを用いた成長因子の放出実験と生体内試験を進め、中性条件でFGF-1と反対に帯電するキトサン繊維についても、今回用いたFITC-Dextranと反対の符号を持つ蛍光色素を用いて放出実験を行うべきだと思います。

所属研究室内外の活動・体験

a)ロンドンのマーケット     b)ロンドンの老舗百貨店3店舗の内装     c)ウィンブルドン選手権のセンターコートチケット

a)ロンドンのマーケット     b)ロンドンの老舗百貨店3店舗の内装     c)ウィンブルドン選手権のセンターコートチケット

【研究室活動】
街の西部にあるCavendish Laboratoriesの一角にあるNanoscience Centreの中の研究室に所属しており、午前10時から午後6時前後まで研究をし、自転車を使って登下校していました。研究室メンバーそれぞれが個性的な研究テーマを持っているうえ実験室も離れているメンバーが多かったため、全員と親密にコミュニケーションを取っていたわけではないですが、とてもフレンドリーで協力的な人が多く、常にそういったメンバーたちに支えられながら研究を進められました。具体的には1人のPh.D学生に指導してもらい、毎日メールおよび対面でのディスカッションを行ったうえで実験を進めていきました。最後の1カ月間は担当のPh.D学生が多忙でいなかったため、教授に適宜ディスカッションをしていました。研究自体は順調に進むことの方が少なかったですが、まじめに取り組んでいた甲斐もあってメンバーのアドバイスを沢山もらい、より良い方向に進められたと思います。最後の週には、研究室メンバー全員の前で3カ月間の研究成果について発表する機会をいただきました。とてもハイレベルな発表に混ぜてもらったため緊張しましたが、プレゼンに対する指摘も頂きつつも、とてもうまく纏められていると褒めていただきました。また、最終日には教授とPh.D学生から手書きのメッセージカードをもらいました。本当に人に恵まれた研究室生活だったなと心から感じています。
【研究室外での経験】
休日は電車で街から出て様々な都市に観光に行きました。中でもロンドンのマーケットや百貨店、ミュージカルには留学前から強いあこがれを抱いていたため、ロンドンだけでも10回以上観光しました。中でも、ウィンブルドン選手権の観戦に行き、試合開始の1日以上前から根気強く並んだ結果、ジョコビッチ選手の試合を目の前で見ることができたことがとても強く印象に残っています。その待機時間では積極的に周りの人に声をかけ、お互いのライフスタイルの話からテニスの話まで、日が暮れるまで語り合いました。そこで仲良くなったうちの一人と後日ロンドン観光をしたのも良い思い出です。ロンドンの他にはエディンバラやグラスゴーといったスコットランドの都市やリヴァプールやブライトン、バースなどの都市を観光しただけでなく、1週間だけ休暇をもらい、フランスやイタリアにも足を延ばし、イギリスとの文化の違いも体感しました。その中では、リヴァプールを訪れた時にPubで現地の熱狂的なファンとお酒を飲んで語り合うことで現地の人たちの温度感に触れたり、イタリア、フランスの食に触れたりしたことが最も思い出深く心に残っています。

留学先での住居

a)住居の立地
a)住居の立地

b)イタリア人のフラットメイトに教えてもらった本場アルデンテパスタ, c)フラットメイトが作ったお好み焼き
b)イタリア人のフラットメイトに教えてもらった本場アルデンテパスタ, c)フラットメイトが作ったお好み焼き

留学中の3カ月間はケンブリッジ大学公認のAccomodation serviceで見つけたホームステイ先の1部屋を借りて滞在していました。街の中心地から南西に外れた閑静な住宅街に位置し、徒歩で中心地にも芝生の広がる公園にもアクセスできたため、余暇時間を過ごすには最適だったと思います。自分の部屋以外にも3つベッドルームがあり、短期のVisitor(2~6カ月)が入れ替わって滞在していました。ホームステイのため当然シャワールームとキッチンが共用で、フラットメイトとは基本的にキッチンでコミュニケーションを取っていました。フラットメイトの出身国がそれぞれ異なっていたため、各々の出身国の郷土料理を作りあったのはとても思い出に残っています。主にインド人学生とイタリア人学生とコミュニケーションを多くとっていたのですが、二人とも日本にかなり興味を示しており、お好み焼きや親子丼、蕎麦の作り方を教えるととても喜んでくれました。逆にそのイタリア人学生に、イタリアに行って食べたアルデンテパスタに感動したこと話すとすぐにレストラン顔負けのパスタを振舞ってくれました。大家さんとも出校時や帰宅時に毎日のようにコミュニケーションを取りました。趣味で手芸や家庭菜園をされており、織ったマフラーを見せてくれたり、育てた果実を振舞ってくれたりしました。また、大学開講のセミナーなどに積極的に参加されており、近年の技術やSDGsにも造詣が深かったことが特に印象的です。最終日には、大家さんから日常生活に関するアドバイスの書かれたメッセージカードをもらいました。今後はこのことを肝に銘じて生活していきたいと思います。

留学費用

今年は円安と世界的なインフレのダブルパンチで、留学にかかる全ての費用が高額でした。
【費用概算】
住居費(3カ月分) ¥400,000、航空費 ¥300,000、食費 ¥200,000
現地交通費 ¥100,000、保険料 ¥50,000

航空券については例年より特に高騰しており、直行便を選択するとこれ以下に抑えることは出来なかったと思います。食費と交通費についても留学中の自炊やRail cardの購入によって浪費を抑えることができました。住居費に関してはより前段階から準備をしていれば安く抑えられたのではと後悔しています。
しかし、Tazaki財団様から多額のご支援を賜り、このような状況でもとても充実した留学生活を送ることができました。この場をお借りして感謝いたします。

今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望

私は本留学を通して、主に大きな自信と探求心が身に付いたと感じています。世界トップレベルの環境のサポートを受けながら研究ができたことは自身に繋がった大きな理由なのは間違いないですが、自分から積極的に行動して構築した人間関係も誇りに思っています。また、そうしてできた友人と何度も話すことで、人や地域によって異なったライフスタイルや文化に興味を持ち、自分自身と照らし合わせるようになりました。こうした経緯から、留学後も新しいライフスタイルや考え方を模索してみようと考えるようになりました。

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