Summer Exchange Research Program(SERP) アーヘン工科大学 2021年10月~2022年3月

Summer Exchange Research Program(SERP) アーヘン工科大学 2021年10月~2022年3月

留学時の学年:
修士2年
東工大での所属:
工学院機械系機械コース
留学先国:
ドイツ連邦共和国
留学先大学:
アーヘン工科大学
留学期間:
2021年10月15日 ~ 2022年3月10日
プログラム名:

派遣大学の概要(所在地、創立、規模など)

アーヘン工科大学はドイツ西端の都市アーヘンに位置する欧州で最大級規模の工科大学です。1870年に創立され、2020年には創立150周年を迎えました。学生数約4.5万人のうち留学生が約1万人を占めており、非常に国際性が豊かな大学です。ドイツで産学連携を推進してきた大学として知られており、また東工大との連携を強化しています。2007年9月より授業料免除を含む全学協定が締結され、2019年3月には本学初の欧州拠点としてTokyoTech ANNEX Aachenが開設されました。アーヘンはノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW州、州都デュッセルドルフ)の都市で、オランダとベルギーとの3国の国境に面しています。人口は約25万人と比較的小規模の都市ですが、古代ローマ帝国の時代から温泉地として知られるなど長い歴史があります。円形の市街地の中心にはアーヘン大聖堂があり、これは1978年に登録された世界遺産第1号のうちの一つです。大聖堂や市庁舎前の広場で毎年開催されるクリスマスマーケットはドイツでも有数の規模で多くの観光客がアーヘンを訪れます。

アーヘンのクリスマスマーケット

アーヘンのクリスマスマーケット

留学準備など

本来SERPの留学では3か月が標準派遣期間となっていますが、5か月に延長を希望し先方にも受け入れていただきました。指導教員と先方の研究所の先生は以前から面識があり、指導教員を介して2019年12月に渡航の受入許可をいただきました。2017年に研究室の先輩が同じ研究所に留学していたこともあり、スムーズに話が進んだように思います。なお、SERPでアーヘン工科大学に留学する際は先方の受入許可が応募の必須条件となっています。2020年1月に2020年夏派遣のプログラム募集があり、選考を経てプログラムに採用いただきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらなかったため残念ながら渡航は延期となりました。外務省が指定する感染症危険レベルが1に下がるまでは渡航を許可できないということで渡航困難な状態が続きましたが、2021年7月にレベルが2,3であっても新型コロナウイルスの影響であれば例外的に学生の渡航を認めていただけることになりました。そのため1年遅れで2021年10月から渡航することになりました。
 本来であれば3か月以内のため滞在許可(ビザ)の取得は不要ですが、5か月の滞在だったため滞在許可が必要となりました。日本国籍であれば入国前に取得する必要がなかったため、渡航後にアーヘン工科大学内にある外国人局(Ausländeramt)の支局で申請しました。2020年に行ったロックダウンの影響が長引き通常よりも混雑していたため、シェンゲン協定によって90日間のビザなし滞在が認められている間はなかなか対応してもらえませんでした。2021年12月に申請でき、帰国1か月前の2022年2月に受け取ることができました。渡航前にドイツ大使館や領事館へ滞在許可を申請することもできたようなので先に申請しておけばよかったと少し後悔しています。

所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など

日本では研究室単位での研究が一般的ですが、ドイツでは研究室よりも規模の大きい研究所(建物)ごとに研究が行われています。私はInstitute of Heat and Mass Transferにインターンシップとして研究に参加しました。研究テーマはスプレー火炎合成という機能性ナノ粒子の合成法になると期待されている現象です。中でも実験の後処理や結果解析の工程で必要となる、複数の液滴を追跡する画像処理プログラムの開発を担当させていただきました。東工大でも利用経験があったMATLABを利用することになったため、導入の面ではスムーズに進められたと思います。MATLABはオンラインで公式のドキュメントが一通り公開されているので手探りでプログラム作成を進める中ではとても参考になりました。
11月下旬までは研究所に通って文献調査やプログラム作成を進めていましたが、大学でのコロナウイルス対策が強化され在宅でできる研究は在宅で進めなければならなくなりました。私のテーマでは実験を連日行う必要がなかったため、以降は寮の自室で研究を進めリモートで進捗報告やミーティングを行いました。また12月下旬から2月上旬にかけては修士論文執筆と修論発表会の準備があり、ドイツでの研究に十分な時間を割くことができませんでした。修論発表会の終了後は研究を再開し、PIVと呼ばれる手法を活用して液滴の追跡をできるようなプログラムを作成できました。残念ながら粒子の速度を算出する部分までは達成できなかったので今後の課題になると考えています。この研究を通してドイツでの研究の進め方を知るだけでなく、専門分野に関連する知見をさらに広げることができました。

研究所の外観

研究所の外観

所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行ったこと等)

研究所に通えていた時期は9時~18時頃に行っていましたが、在宅メインとなってからは自分の裁量で研究や修士論文の執筆を進めていました。コロナウイルスの影響がなければ研究所でさまざまなイベントに参加できたようですが、ことごとく中止になってしまったため研究所の方とはあまり交流することができませんでした。しかし、アーヘン工科大学の留学生や日本からドイツに来ている留学生とは食事やオフ会、旅行を通じて交流することができました。
 アーヘンの留学生についてはインドと韓国から来た方と交流できました。持ち回りで互いに自分の国の料理を作って振る舞い、ドイツで別の国の文化を知ることができたのは非常に良い経験になりました。私の番では冬の代表的な和食としてしゃぶしゃぶを作りました。ドイツでは肉を薄切りにしないため薄切り肉を入手するのは少しハードルが高いのですが、ドイツ語が堪能な日本人の方にご厚意で肉屋に注文していただき美味しいしゃぶしゃぶを楽しむことができました。また日本人留学生とは週末にケルンで集まったり、ベルリン、ミュンヘン、パリなどへ旅行に行ったりしました。応募したトビタテ!留学JAPANのプログラム(奨学金は渡航期間の関係で受給できませんでした)がきっかけで知り合った方は滞在中に何度か会うことができ、文系・理系関係なくさまざまな背景を持った同世代の方と交流できたのはこの留学での良い思い出です。
 NRW州内の移動については入学手続きで入手できるセメスターチケットで普通電車が乗り放題になるので、ケルン、デュッセルドルフ、ドルトムント、エッセンなどへ追加料金なしに行くことができました。入学手続きで300€ほど必要にはなりますが、毎回チケットを購入せずに乗車できたので大変便利でした。電車以外にバスや路面電車、Uバーン(地下鉄)でも同様に利用できるので基本的に州外に出なければ交通費がかかりません。アーヘンで買い物するときなど市内の移動についてはバスが便利でした。

ケルン大聖堂

ケルン大聖堂

留学先での住居(寮、ホームステイ等)、申し込み方法、ルームメイトなど

大学で紹介されたStudierendenwerk Aachenという団体が管理する寮に申し込みました。正規学生向けの募集は入れるまで時間がかかると聞いたので応募せず、Quota roomという大学の国際関係の事務所が留学生向けに予約している部屋を申し込みました。私の場合は6月にオンラインフォームで申し込み、8月にオファーのメールが届いたのですぐに入居希望の回答をしました。
 住んでいた寮は4人でキッチン・トイレ・シャワーを共有するシェアハウス(WG)でした。キッチンは4人で使用しますが、トイレとシャワーは2つあるため2人で共有しました。使う時間がかぶることは少なく快適に過ごせました。個室が唯一完全なプライベート空間になりますが、十分広かったのでとても良かったです。最上階の4階の部屋だったので建物にエレベーターがないのは少し不便でしたが、比較的新しい建物で廊下の掃除も定期的に行われていました。また調理器具や食器などは全て揃っていたのであまり買い物せずに生活できました。洗濯機は一度外に出なければならないことと、学生証(Blue Card)に事前にお金をチャージしておかないと利用できないのが少し不便でしたが問題なく使えました。学生証にチャージするシステムは大学の食堂と共通になっていて、なぜかチャージできる機械が食堂にしかなく寮にはなかったのが不便でした。残高不足になったときは寮内で学生証を貸してくれる人を探して立て替えてもらっているようで、私も1度立て替えてもらいました。
ルームメイトは3人とも正規学生でスペイン人1人とドイツ人2人でした。私の英語がうまく通じずコミュニケーションできない場面もありましたが、優しく接していただき困ったときにはいろいろと助けてもらいました。食事の時などにダイニングで会話することで互いの文化や考え方を知ることができました。

寮の共有キッチン、ダイニング

寮の共有キッチン、ダイニング

留学費用(渡航費、生活費、住居費、保険料)など

航空券はSERPの先輩方も参考にしたうえで日本航空の成田-フランクフルト直行便を往復14万円ほどで購入しました。ロシア・ウクライナ情勢の影響で帰国便が欠航となりましたが、イギリス経由の便に振り替えてもらい追加料金はかからずに帰国できました。
 生活費、特に食費についてはなるべく簡単な料理を作って約200€/月ほどで生活できました。コロナのこともあり、旅行を除いて外食は控えていました。収入は大学からの奨学金のみになりますが留学全体で収支を計算したところ、かなりの出費になっていました。旅行はある程度控えていましたが、帰国前などは毎週末に観光に行っていたためか交通費や宿泊費などで出費が多くかかってしまった印象です。
 住居費は渡航前にデポジットとして2ヶ月分の504€と初月の家賃を振り込みました。翌月分からは毎月252€が引き落とされ、追加で電気代14€/月(私の場合はルームメイトが立て替えてくれていました)がかかりました。10月1日から3月31日の契約だったため6か月の家賃と電気代を支払い1345€かかりました。部屋にテレビはないのですが、ドイツでは放送料の支払い義務があるようで寮ではまとめて支払われているそうです。封書が届いてからルームメイトにコードを教えてもらって対応しました。滞在時期にもよるかもしれませんが、私の場合放送料の支払いはありませんでした。
保険料は、東工大指定の保険に約5.6万円/147日と,現地での法定健康保険(TK)に約600€/約5か月がかかりました。健康保険は滞在許可取得のため必要でしたが3か月であれば不要かもしれません。実際に健康保険を利用することはありませんでした。
また閉鎖口座開設(Expatrio)のため5500€ほど送金し(滞在中に毎月861€ずつ入金され利用できるようになります)、開設手数料で79€かかりました。普通の銀行口座は店舗がないN26を利用しましたが、無料で開設でき維持費も無料でした。滞在許可の申請で100€、入学手続きで約300€/半期がかかりました。

今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望

私が留学を決意したきっかけは決して自発的なものではなく研究室の先輩や先生方のアドバイスの影響が大きかったのですが、振り返れば後悔は全くなく渡航して良かったと思っています。渡航前から帰国まで困難なことや予定変更の連続でしたが、コロナがまだ終息していないこの状況下でドイツに渡航できたこと自体が本当に恵まれていたと思います。実際にドイツに行ったことで文化や歴史的背景、習慣や宗教など多くのことを知ることができました。研究については滞在期間の割に満足できる成果をあげられなかったことと研究所の方と深く交流できなかったことが心残りではありますが、海外で自立して生活し研究するという貴重な経験ができたと思います。
 コロナ禍ということも相まってなかなか海外留学に行きにくい状態が続いていますが、学生のうちに海外留学することはとても有意義なことだと思うので少しでも興味があればチャレンジしてほしいと思います。英語でのコミュニケーションや海外での生活など不安なことも多いかもしれませんが、私もこの留学を通じて何事も行動してみることが重要だと感じました。

その他 (留学先で困ったこと、帰国後の進路(就職・進学・長期留学)など)

研究は英語でのやりとりだったのでそこまで問題ありませんでしたが、街中や寮の管理人とのやりとりではドイツ語が分からず少し苦労しました。寮の管理人については渡航前のメールから英語を嫌っている印象で不安でしたが、入居・退居時にはドイツ語が話せる方に手伝ってもらい何とかなりました。また街中の表示やメールなどは翻訳サービスを利用していました。
 修士課程修了後は国内メーカーでエンジニアとして働く予定です。仕事で海外に行くことがあるか分かりませんが、海外に行った経験が完全に無駄になることはないと思っています。留学を含めこれまでの経験を活かしつつ新たな環境で必要な知識を学び、ものづくりで社会に貢献することが目標です。

この体験談の留学・国際経験プログラム情報

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