Summer Exchange Research Program (SERP) エコール・ポリテクニーク 2023年6月~9月
留学時の学年: |
修士2年 |
---|---|
東工大での所属: |
工学院 機械系 |
留学先国: |
フランス |
留学先大学: |
エコール・ポリテクニーク |
留学期間: |
2023年6月22日~2023年9月20日 |
プログラム名: |
派遣大学の概要
自然に囲まれた École Polytechnique のキャンパス
【概要】
École Polytechnique(エコール・ポリテクニーク)はフランス共和国・パリ近郊のパレゾーに位置する,同国最高峰の理工系高等教育機関です。その歴史は古く,18世紀末,フランス革命の時代に創設されて以来,世界的な数学者,科学者,技術者,経営者を数多く輩出しています。具体的な名前を挙げると,アンリ・ポアンカレ,シメオン・ドニ・ポアソン,サディ・カルノー,アンリ・ナビエ,ベルナール・アルノー,カルロス・ゴーンなどが同校の出身者です。学生数は3700名と比較的小規模な大学であり,学生のほとんどはキャンパス内の寮で生活をします。
【キャンパス】
キャンパスのあるパレゾーはパリ中心部から電車で30~40分ほどの距離にある地域で,東京都心からすずかけ台までと同程度の距離感です。キャンパスの周りには森や畑が広がっており,大都会パリの喧騒とは少し離れた場所で勉強や研究に打ち込むことができます。学生の4割はフランス国外からの留学生であり,全世界から非常に優秀な学生が集まっています(4か国語以上話すことのできる学生も珍しくありません)。そのため,異なる文化やバックグラウンドに対し寛容な雰囲気が色濃く,その中で世界中の人と交流することができます。私の所属した研究チームも,私の住んでいた留学生寮も,メンバーのほとんど全員国籍が違う,と言えるほど多国籍な環境でした。学内ではフランス語と英語の両方が使われています。正規学生のほとんどは,その国籍にかかわらずフランス語と英語の両方を流暢に話すことができます。
留学準備
東工大の学内選考の募集が前年の 11 月にあり,学内選考では書類審査と面接が課せられました。学内選考を通過した後,2 月中旬までに École Polytechnique のインターンシッププログラムに応募をする必要がありました。ここでは学内の書類選考と同様に志望理由書や推薦状の提出が求められました。研究テーマはこの際に選択肢の中から選ぶという形式でした。École Polytechnique から受入の連絡が届いたのは 3 月の下旬で,そのタイミングで研究テーマ・指導教員・留学期間も正式に決定しました。それ以降は指導教員と研究のスケジュールに関するやり取りを行いました。研究以外に関しては,留学の半年前からフランス語の勉強を始めました。入門レベルの教科書を1 周し,基本的な単語と文法を頭に入れておきました。留学中のコミュニケーションは英語でほとんど事足りたものの,日常生活の中でフランス語の知識が役に立つ場面も少なくなかったため,英語圏以外の国に留学する人は現地語も少し学んでおくと良いと思います。
所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題
研究チームの集合写真
【研究概要】
Laboratoire de Physique des Plasmas(LPP,プラズマ物理学研究室)に所属し,非平衡プラズマを用いた燃焼の制御に関する研究を行いました。燃料と酸素の予混合気中で放電を発生させ非平衡プラズマを生成することで,分子の励起や解離が引き起こされ,それによって予混合気中を進展する燃焼波(デトネーション波)の安定性を向上させることができます。私は,水素・酸素・アルゴン予混合気の非平衡プラズマ中における反応(励起,解離,電離反応等)をモデル化し,実験と同様の条件下でのシミュレーションを試みました。前半の期間は論文や教科書を読むこと,すなわちインプットを中心に行いました。東工大で行っていた研究と異なった部分も多くありましたが,学部の授業で得た物理や化学の基礎的な知識や考え方を活かすことができました。後半からは実際にプログラミングを行うことでモデルを構築し,その妥当性の検証と実験条件でのシミュレーションを進めました。自分で設定した課題に様々な角度からアプローチし,自分なりの考察を練り上げていくという能力が求められるのは,東工大での研究と同様でした。
【成果】
成果としては,従来使われていた反応モデルの問題点を明らかにし,より精度の高い反応モデルの構築に成功しました。さらに,このモデルを用いたシミュレーションによって実験結果と一致する結果が得られ,実験で起こっている現象の解明に大きく貢献したことで,共著者としてチームの投稿論文の執筆にも携わることができました。
所属研究室内外の活動・体験
7 月 14 日の革命記念日 エッフェル塔の花火大会
ベルサイユ宮殿・鏡の間
【学内での活動】
留学プログラムの参加者を集めたイベントが開催され,その中で簡単なプレゼンを行う機会がありました。私は自分のバックグラウンドや東工大での研究,そしてÉcole Polytechniqueでの研究について発表しました。私の研究に興味を抱いてくれたのか,発表後に個別に質問に来た学生もいて,大きな達成感を得ることができました。
【学外での活動】
平日は朝から夕方まで研究室で研究をしていましたが,休みの日には積極的に外出し,フランスをはじめとするヨーロッパ諸国の文化や歴史を体験しました。パリはどれだけ歩いても飽きることのない,非常に魅力的な街でした。特に印象深かったのは7月14日の革命記念日で,この日は仲間たちとエッフェル塔の花火を見に行きました。フランス国歌の合唱のパフォーマンスもあり,国家規模のお祭りの熱気を体験することができました。フランス国内にはパリ以外にも観光地が多く,休日の目的地に困ることはありませんでした。週末に加えキャンパスの夏季休業の時期も利用し,スイス,ドイツ,スペイン,ポルトガル,ベルギー,オランダも訪問しました。それぞれの国の歴史的建築物や食事を楽しむことができ,素晴らしい旅を経験できました。また,現地の美容院にも挑戦しました。美容院のスタッフには英語が通じなかったのですが,フランス語を話せる友人が代わりに電話で予約を入れてくれました。当日の注文は翻訳アプリで乗り切りました。海外の美容院に行くのは心理的なハードルが高いですが,思い切って挑戦してみると楽しいものです。
留学先での住居
寮の部屋
学内の寮に滞在しました。インターンシップへの受入と同時にÉcole Polytechniqueの事務側が寮の部屋を確保して下さったため,自分で住居を探す必要はありませんでした。部屋は1人部屋で,シャワーとトイレも個人用であったため,プライバシーの面で非常に快適でした。キッチンは共用で,食事の際に他のインターンシップ学生と交流する機会がありました。
留学費用
渡航費:往復約30万円
生活費:800ユーロ/月(住居費,食費,保険料,公共交通機関など込み,École PolytechniqueのHPに掲載有)
東工大とJASSOから計30万円,École Polytechniqueから計2700ユーロの奨学金をいただき,現地への渡航と生活に関しては金銭的に余裕を持つことができました。この場を借りてお礼申し上げます。
今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ
インターンシップ学生での集合写真
【今回の留学から得られたもの】
3か月間のフランス生活は,全てが新鮮で,純粋な驚きに満ち溢れたものでした。そこには,日本とは全く異なる文化があり,言葉の壁があり,そして,世界中から来た学生たちとの心の交流がありました。全てを自分の力で乗り越える必要があり,多くの困難や,悔しい場面もありました。それらの体験は,私の心を強く揺さぶり,新しい世界に開かせてくれました。
【体験して知った「ありきたりのこと」】
言葉の壁を超えた心の交流について,エピソードを一つ記しておきます。私はもともと英語に対する苦手意識が強く,特に英会話の能力は留学先で出会った誰よりも拙いものでした。また,自分の話す英語の質で自分の知性の程度が判断されるのではないかという不安感が心の奥底にあり,いつも緊張しながら会話をしていました。ですが,幸運なことに私に興味を持ってくれた学生たちが積極的に話してくれるようになり,私も必死でセンテンスを紡ぎながら,互いの研究,文化,言語,歴史,政治,文学,旅,日本のアニメのことなどをテーマに,多くの言葉を交わし,時間を共有することができました。その中で私は,自分の英語が上手いか下手かを気にするよりも,彼らとの交流を楽しむことの方が重要なのだ,ということにようやく気が付くことができました。最後に彼らと別れるときには切ない気持ちになりましたが,暖かい言葉をかけあうことができ,言葉の壁を越えた友情に対する深い感動もありました。文章にするとありきたりのことのように思われるかもしれません。ですが,文章だけで知っている「ありきたりのこと」と,体験を通して知った「ありきたりのこと」の間には,大きな違いがあります。そして,体験を通じて知ったことのみが,本当に自分のものになります。
【大切なのは「留学から帰った後」】
3か月間という期間で,獲得できる能力には限界があります。3か月間で苦手を克服することができるほど語学は甘くないですし,夢のように新しいスキルが手に入るということはありません。それゆえ,私は「留学先で何をするか」よりも重要なことがあると考えています。それは「留学から帰ってきてから何をするか」です。留学先で体験するような新しい環境の中では,これまでの自分とこれからの自分,つまり,自分にできることと自分に足りないものを,これまでとは全く違った形で発見することになります。これは,例えるならば「自分の中に新しい種を見つける」ということだと思います。この種は単なる一つの小さな種にすぎませんが,新しい可能性を宿しています。そして,この留学の本当の意味は,種を育てなくては見えないものであるはずです。だからこそ,「留学から帰ってきてから何をするか」が重要なのです。
【後輩へのメッセージ】
これから留学を目指す人や,留学への憧れを持っている人に,これだけは伝えたいことがあります。それは,英語への苦手意識を理由に留学を諦めるべきではない,ということです。むしろ,英語が苦手な人ほど,積極的に留学に挑戦していけばいいとさえ思います。もちろん,英語が苦手であればさまざまな困難にぶつかるはずです。悔しさやもどかしさを感じる場面にも,数えきれないほど出会うかもしれません。ですが,その中で掴んだ種は,いつか芽を出すことでしょう。だから,動き出したいという気持ちが少しでもあれば,勇気ときっかけを見つけて知らない扉を開けてみてください。その先に待つみずみずしい体験の一つ一つが,あなたの中の何かを必ず変えるはずです。
この体験談の留学・国際経験プログラム情報
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