Summer Exchange Research Program(SERP) ケンブリッジ大学 2019年9月~12月

Summer Exchange Research Program(SERP) ケンブリッジ大学 2019年9月~12月

留学時の学年:
修士課程1年
東工大での所属:
工学院
留学先国:
英国
留学先大学:
ケンブリッジ大学
留学期間:
2019年9月~12月
プログラム名:

派遣大学の概要(所在地、創立、規模など)

ケンブリッジはイギリス,イングランドにある学園都市です.ロンドンから北方80km,電車で1時間ほど,コーチで3時間ほどの距離に位置します.名前は市内を流れるケム川に由来しており,その昔運河周辺地域として栄え,鉄道がひかれた頃には生活の拠点となっていた歴史があります.市内にはMillという有名なパブがありますが,これはその当時の水車に由来していると言われています.ケンブリッジ市内には,ケンブリッジ大学とアングリア・ラスキン大学が存在し,ケンブリッジ大学は1209年,アングリア・ラスキン大学は1858年に設立されました.

11世紀頃のヨーロッパはカトリック支配による暗黒時代と呼ばれる停滞期にありましたが,12世紀になると商業の発展に伴い教会や修道院附属の教育機関から中世大学が出来ました.その中のパリ大学やオックスフォード大学から歴史的背景を受け設立されたケンブリッジ大学は,14世紀には教皇による大学の承認を受け,17世紀頃からは数学・自然科学研究の中心となりました.その歴史の中でFrancis Bacon,Newton,Darwin,Watson&Crickなどを同窓生に抱えたケンブリッジ大学はルネサンス,宗教改革,科学革命,産業革命に大きく貢献してきました.また,ケンブリッジ大学出版は世界最古の出版社の一つとなっています.現在のケンブリッジ大学はノーベル賞受賞者を120人抱え,100以上の学問を6学科に分けて提供しています.またケンブリッジ市内には大学が保有する複数の博物館と植物園があります.

(A)ケンブリッジと周辺都市の位置関係
(A)ケンブリッジと周辺都市の位置関係

(B)ケンブリッジ大学の象徴であるキングスカレッジ
(B)ケンブリッジ大学の象徴であるキングスカレッジ

留学準備など

(就職活動、修士・博士論文などとの兼ね合いを含め、修了までの計画をどう立てたか。留学先大学の指導教員/所属研究室の見つけ方、ビザ取得有無など)

留学期間3ヶ月は前後のインターンシップと国際学会に挟まれる形で決定しました.各イベントの間は1,2日しか設けておらずかなり忙しいスケジュールとなることが分かっていたため,2Qはほとんど講義を取らず留学準備と留学期間中に解析するための実験データの取得に充てました.留学先は予め指導教員より推薦頂き,SERP採択に際してコーディネータを通して東工大からの推薦状を提出してケンブリッジ大学及び受け入れ先指導教員より正式な受入許可状を頂きました.また,奨学金を頂くための書類と学内の留学願を作成し,コース会議にて承認を頂くことで留学許可証が発行されました.保険は大学推奨のものに加入しました.本研究留学に対しては研究結果を軍事利用しないことを表明し認可される必要があり,ATAS Certificateを申請しました.当初は入寮し生活する予定でしたが,時期が新入生の入学と重なっているため空きが取れなくなってしまったので,Airbnbにて民泊先を探しました.

ケンブリッジ留学とそのほかの活動

ケンブリッジ留学とそのほかの活動

所属研究室での研究概要とその経過や成果、課題など

研究概要

昨今の環境問題に配慮して,燃焼器の高熱効率化・低環境負荷化が求められています.現在のガスタービン内の燃焼器における窒素酸化物NOxの排出量低減方法には蒸気噴射などによる湿式法と希薄予混合化やRQL(過濃急希釈希薄)化などによる乾式法が挙げられます.私の研究室では,ガスタービン燃焼器における燃料の希薄予混合化による不安定化現象の物理特性解明と発生の抑制に関する制御手法の検討を行っています.本留学ではRQLに関して全領域を希薄状態した場合の二次希釈空気の割合による煤生成機構とその抑制機構の解明を目標に,RQL式ガスタービンモデル旋回乱流エチレン-空気拡散火炎に対してLaser Induced Incandescence–LIIの応用計測を行いました.燃焼条件は希釈空気を含めて当量比一定の3種類とし,位置ごとの光強度減少率を計測しました.また,乱流噴流火炎にも同様の計測を行うことで校正し,ランベルト・ベールの法則に適用しました.



(左上)実験条件,(右上)計測装置概略図,(下) 各条件における火炎の直接写真

経過

到着してからまず大学の事務・セキュリティ関係の手続きを行い,研究を開始しました.高強度レーザを利用する実験を予定しており,10月頭のレーザ使用者講習会までは実験を行うことが出来ないため,まずは装置の見学と教授との研究内容の話し合いを行い実験装置と光学系の作成から始めることが決まりました.当初はLII計測に加えて,榊原教授(明治大学)と同型燃焼器内のラグランジュ的な流動特性解明のためのRe数を合わせた液相PTV計測を予定していましたが,実験装置の完成が遅れたため行えませんでした.計測準備に関してはLabViewでエンコードと計測プログラムを作成,解析にはMATLABを使用しました.

今後の課題

レーザをビームで入射した際は火炎による屈折の影響がみられ,レーザの集光に影響が出ることが観察されたため,より素子の大きなディテクタを利用する方がよいと思いました.またADボードが破損しており代替として計測に利用したオシロスコープでは計測分解能が低かったため,ボードを修理し再実験することで平均的な挙動以外も考察できるようになるだろうと思います.また更にガラスに付着する煤による光強度減衰をよりうまくモデル化出来ると思います.校正に利用した噴流火炎は,マスフローコントローラの調子によって火炎長さが安定しなかったため,これについてもコントローラを見直し再計測する方が良いと思います.

所属研究室内外の活動・体験(日常生活・余暇に行った事など)

研究室グループでは,学期開始期の伝統であるFormal Dinnerに参加しました.ケンブリッジ大学に所属する教員や研究室に所属する学生のほかにも彼らの配偶者や子供にも開かれており,様々な人と知り合うことが出来ました.Dinnerの後にはPubに連れて行ってもらい,研究以外の学生生活を聞きながら英国風ビールを頂きました.また,研究室には毎週様々な大学や研究所から講演者が来ていましたが,そのうちの一人に以前読んだことがある熱音響に関する論文の著者が来訪したため,論文において不明であった点を尋ねることが出来ました.自身の東工大での研究に関しても解析を進めていましたが,訪問先研究室の学生と話しあい,流体の基礎方程式の手計算を行うことで理解を深めながら解析を進めることが出来ました.

研究活動のほかに3種類のサークルに加入して活動しました.University of Cambridge Newcomers & Visiting Scholars-NVSでは,10月頭にSenate HouseにてVice Chancellorによる新学期開会式に参加しました.同サークルは新入生を対象に様々な活動を提供していますが,研究活動が忙しかったためにその他はほとんど参加できませんでした.Cambridge Japanese Circleは会員同士で英語と日本語を自由に話し合いお互いの言語や文化を教え合うことを目的としたサークルで,ここで知り合った人たちとは年齢関係なく長い付き合いとなりました.同年代の友達とは,ケンブリッジ市内のParker’s Pieceに来た移動遊園地で遊んだり博物館を回ったりしました.NVSと同サークルにて知り合った森田教授(早稲田大学)には,ケンブリッジ市内を散策して歴史を教えて頂いたり食事に誘って頂いたりしました.また,研究でいらしていた医者夫婦の方にはお家にお誘い頂き進路相談などをさせて頂きました.民泊先のホストがアプリ開発関係の起業をしており,提供済みのアプリに対する日本語のレビューを翻訳し返信するといった作業を手伝ったほか,ホストに紹介して頂きPokemon Go Circleに所属して地元の方々と市内を散策したりしました.研究の解析が落ち着いた頃には,1日だけロンドンに行き観光をしました.ロンドンではベイカー街に訪れシャーロックホームズ美術館に行ったほか,ビッグベンやバッキンガム宮殿に訪れました.また,新作のポケットモンスターの舞台がイギリスであることを受けて期間限定で開かれていたオフィシャルショップにも行きましたが,着いた時には既に半日分以上の待機列が形成されており入れませんでした.10月にはクレジットカードがICチップ不良により使えなくなってしまうアクシデントがあり,再発行した新しいカードを受け取る都合で数時間だけパリに滞在して昔お世話になった大家の家に招待されて食事をしました.

10月からは気候が大きく変わり,ほぼ毎日曇りしばしば雨が降るようになりました.洗濯と乾燥は毎週土曜日に家の近くのコインランドリーで行っていましたが,行き帰りに雨に濡れないために小型のスーツケースに入れて移動していました.しばしば風邪で体調を崩してしまい,Bootsという薬局で薬を購入して飲んでいました.

留学中に訪れた博物館,植物園などの施設の例

留学中に訪れた博物館,植物園などの施設の例

留学先での住居(寮、ホームステイ等)、探し方、申し込み方法、ルームメイトなど)

留学計画当初は寮の空き部屋に泊まる予定でしたが,新入生が入る時期だったので寮の空き部屋がなくAirbnbで民泊を探しました.部屋は一人部屋でしたが,週替わりで様々な国から同居人が同じ家に泊まり,話をすることが出来ました.調理器具は宿泊先の大家と共同で使い,食材や調味料などは自身で調達しました.

留学費用(渡航費、生活費、住居費、保険料)など

民泊代で40万円,飛行機代(Amsterdam, Schiphol経由)で25万円,保険は2万7500円,その他食費,お土産代,衣類にかかった費用とフランスへの渡航費を含めて総額およそ100万円程度になりました.基本的に物価は高いですが,野菜などは安いので自炊することで節約しました.SIMカードはヒースロー空港にてThree社のPay As YouGoを購入し,毎月Top-upすることで利用していました.

今回の留学から得られたもの、後輩へのメッセージ、感想、意見、要望

この留学においてよくなかった点が4つあります.1つ目は時期です.イギリスは基本的に曇天が続くことで有名ですが,冬場の時期は特に雨が多く日が暮れるのも早いです.もし時期を選べるならもう少し早い方が望ましいと思います.2つ目は宿泊先です.初めてAirbnbを利用しましたが,初めて使うには3ヶ月は長かった気がします.まず試しにどこかで利用してみるか,留学中でも途中から宿を変えてもいいと思いました.3つ目は研究で結果を出すには3ヶ月では短いということです.それでも何とか形にしようとしていたので,平日は日が変わる時間の夜遅くまでほとんど毎日研究室に残る生活をしました.4つ目は留学前後の予定を詰めすぎた点です,特に学会のエントリーや準備をメールのみで指導教員とやり取りしながら行うのは思っていた以上に大変です.

以上を踏まえた上でも本留学は参加した価値があったと感じています.研究室に入ってまず感じたのは,学生の研究に対する使命感が日本の学生に比べてとても強いということです.やる気があふれた学生に囲まれた生活はいつも以上に自身のモチベーション向上・維持に役立ちます.ケンブリッジ大学を博士で受験しようと思えば,TOEFL 100点以上もしくはIELTS 7.5以上の語学における難関を潜り抜けて初めて10倍以上の倍率に及ぶ12月の院試に挑戦することが出来るという非常に狭き門を通ることになります.よって何も考えずに就活を捨てて受験することはモチベーション維持の面でもなかなかできないと思います.SERPのような3ヶ月程度の留学に参加しておくことでその大学がどのようなものかを知ることが出来るという点でも自身の進路を迷っている学生には特にお勧めです.また,私は本研究留学で英語であっても物おじせず気になった点を指摘し改善しながら進められたことで自信にもつながりました.そして,研究室内外でお互いの知識を留学後も継続して共有し合えるような知人が沢山つくることが出来ました.これは留学の最も大きな功績であると思います.最後に食事に関してですが,確かによく言われるように物足りないと感じることがたまにありましたが,料理のスキルが少しあれば好きなものを作れるので問題にならない程度であると思います.

その他*任意(留学先で困ったこと/帰国後の進路(就職・進学・長期留学))

ロンドン・ヒースロー空港に着いてすぐ,自分の荷物がロストしたことに気付きました.航空会社が追って宿泊先に送るとしていましたが,届くまでの1週間分の服を買い足さなければならなかったため出費が増えました.

10月半ばにクレジットカードの1枚がICチップの不良によって使えなくなってしまいました.幸い3種類のカードを持っていたので大丈夫でしたが,イギリスはカード社会なので特に気を付けた方がいいと感じました.

風邪をひいた時に薬局で薬等を揃えましたが,マスクを付ける文化がないため商品を扱っておらず,就寝時には喉の保湿用に日本から持ってくれば良かったと思いました.

この体験談の留学・国際経験プログラム情報

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